第一章 二話 幽霊と人間って案外区別がつきにくかったりする
と、そんなこんなで時系列は現代に戻る。
高校二年になっても僕の身の周りの女性関係は変わらないのだ。むしろ状況は悪くなっているといっても過言ではない。最近では「あいつに相談すれば恋が実るらしい」と一部で噂になっているみたいだ。詳しい話をしたいがまたの機会にとっておこう。ずっと過去の話だとみんなも飽き飽きしてしまうだろうから。だってあの過去はながく……
「…し…もーし、もしもーし、大丈夫?信号ずっと変わって赤と青を三回ほど繰り返したけど。なんかぶつぶつ言ってるし。」
意識を現在に戻し、周りを見渡すと、おそらく声の主であろうかわいらしい女の子がいた。
僕としたことが。過去を思い出して思いふけってしまっていて帰り道だったことをすっかり忘れてしまっていたようだ。
ここは、「別に気づいてたけどね」みたいに何もなかった感じで返事しておこう。クールに。自然に。
「あ、あぁ。ありがとう。信号ってなんで赤と青なんだろうと考えていたら、時がものすごいスピードで通り過ぎて行ってたみたいだ。」
全然自然ではなかった。クールさのかけらもなかった。ただのいかれた男子高校生だった。というか信号の色で考え事ってもっと他になかったのかよ、僕。時がものすごいスピードって中二病丸出しじゃんかよ。
自分でも思った以上に慌てていたようだ。
さーて彼女の反応は?
「いや。普通に怖いんだけど。ほんとに大丈夫?」
そうなるよねー。しかもこの子、可愛い見た目してすごくはっきり言うね。最近の若者はこわいなぁ。そうはいっても僕とあまり年齢が変わらなそうだけど。
「大丈夫」という本来心配するときに使う三文字にこんなに心を傷つけられたのは初めての体験かもしれない。
「だ、大丈夫だよ。ほらー。君もあるだろ?なんか意味もなく考えちゃうこと。人間ってなんで生きてるんだろうとかさ。」
「いや。ないけど。そんなくだらないこと。」
だよねー。僕も考えたことない。などと心で返事していると、彼女は続けた。
「というかやっとナナのこと見えるようになったんだね、ナツくん。中学一年のあの日からずっと君の隣にいたのに。まさかこんなに時間がかかるなんて。」
ナナと名乗ったかわいらしく、白く、細く、長い髪が似合うその子の口からは衝撃的な事実が語られていた。
やっと見えるようになった?中一のころから隣に?いやいやそんな事はないだろう。
ナツという僕の名前を知っていたのは偶然で、ドッキリとか?
「ナナちゃん、それってマジ?」
「うん!超マジだよ。」
「いやいや。ご冗談でしょう?」
「ほんとうだよー。」
「幽霊?」
「そんな感じ!」
絶対嘘だ。
普通に返事が返ってくる。この子、ナナちゃんは絶対人間だ。幽霊でもなければ宇宙人でもないだろう。だって普通に会話ができているから。
からかってるんだなぁ。よし!困らせてやる。
「じゃあ、ナナちゃんに問題。」
「え。いきなりクイズ?」
「僕の昨日の晩御飯は何でしょう?」
「生姜焼きとなめこの味噌汁。」
「正解。じゃ、じゃあ一昨日は?」
「カレー。温玉と牛皿乗せてた。」
「正解。ナナちゃんはずっと隣にいたって言ってたしそれなら最終問題も分かるよね?僕が体を洗う回数と一番初めに洗う場所は?」
「わかるよ。三回。左の二の腕から。」
本物だ。本物のストーカーか何かだ。偶然なんてレベルじゃない。
お風呂事情まで知ってるとなると警察に届けるべきか、何か大事なことを聴き忘れているような気がするけど、自分の身を守ることが先だ。
「変な問題までだしてまだ信じてないの?ナナは嘘言ってないよ?あ、そうそう。ナナの姿はナツくんにしか見えてないからね。声も聞こえてるのはナツくんだけ。だから問題とか出してもいいと思うけどあんまり大きい声じゃない方がいいよ。」
そう今は学校の帰り道。夕方五時を回ったころだ。
先ほどからいろんな人が見てくると思ったが、なるほどそういうわけらしい。
二人でしゃべっている気になっていたのは僕だけで、周りから見るとひとりでぶつぶつと、何もないところにクイズを出題しているヤバイ人だったのだ。
「ナナちゃん、そういう大事なことは早く言ってくれる?」
周りに聞こえないように極力声を抑えて話した。
長い髪が似合っていて、細くて、白い女の子。僕にナナと名乗った女の子は、宇宙人ではなかった、それは正しかったが、それと同時に人間でもなかった。
彼女は本物の幽霊だったのだ。
「言っても信じなかったくせに。」
そういって彼女はかわいらしく、あざとく、ぷぅと白いほっぺたを膨らました。
気が付くと横断歩道の信号は十回目の赤信号に代わるところだった。