第一章 生まれながらに平等であるといったあの人も、恋の不平等さに嘆いたことが一度はあるはず
町がカラフルにいろどられ、高校からの帰り道には心なしかカップルが増えてきている気がする。そう、季節は12月。カップルたちにとっては大きなイベント、クリスマスまであと三日を切っている。
僕のクリスマスの予定はというと、家に帰って寝るだけ。
今年は一人である。いいや、「今年も」というのが正しいであろう。なぜなら僕にはクリスマスに彼女がいた試しがないからだ。
毎年のように
「彼女いないから、プレゼントも選ばなくていいし、お金もかからないからすごく楽だぜ。」
などと友達には言っているが、もちろん強がりである。
僕だって彼女ほしい。プレゼントを迷いたい。
まぁ友達には悔しいから絶対明かさない本音だ。
人は生まれながらに平等だと聞いたことはあるが、恋愛に関してはそれは適用されないのであろう。なぜなら平等であれば、世界のすべての人に恋人がいて、浮気も失恋もない世界になると思うからだ。
実際、ファミレスでは毎日のように修羅場が演じられ、駅前では別れ話を切り出したであろう男を背に、大泣きで走っていく女の子の姿が見える。
「クリスマス前に大変だな。」
他人事のように呟いてみた。事実、僕にとっては他人事なのだ。
顔面に水をかけられていたファミレスの男性も、泣いて駆け出していった駅の彼女も、同じ世界に生きているだけで、赤の他人でありそれ以上の関係になることは絶対にないからだ。
かわいそうだなんて全く思わない。
別れ話や修羅場があるのであれば、その時までは彼氏や彼女、旦那や妻がいたということなのだから。
むしろ羨ましいくらいだ。
僕と違って別れる相手や浮気を怒ってくれる人がいるのだから。
僕には一生できない相手がいるのだから。
一生だなんて大げさだと思うかもしれないが、これは事実である。僕の人生では絶対に恋人や妻はできないのだ。
なぜなら、僕には呪いがかけられているからだ。
現実味がないのはわかっているが、聞いてほしい
呪いとの出会いは中学校に入学した日の夜、正確には夢の中だと認識している。
「君の青春を過酷で過激で衝撃的なものになる呪いをかけてあげよう。残念だけど拒否権はない。まだ恋も愛も分からないかもしれないが、初めて恋をしたとき、誰かを愛したいと思ったとき、君は私を恨むだろう。」
事務的でとても冷たい言葉だったが夢の中のその人、その女性は「かわいい」という四文字で表せないほどかわいい人だった。
そして
「君は選ばれない、どれだけあがいても最後に捨てられる。」
そう言い残して消えていった。以降の夢は覚えていないが、彼女は確かに呪いとそういったのだ。
僕だってはじめは信じていなかったさ。普通に恋もできていたと思う。
ただ高校に入ってやっと違和感に気づいた。僕は恋はしていたが、一度も実ったことがなかったのだ。それが違和感の正体ではないことは分かっているけれど、実らない恋があるのは当たり前だということも分かっている。
違和感の正体は、僕が好きになった人すべての人が、文字通り一つの例外もなく、「恋人がいる」ことだった
ここでようやく僕は呪いの正体に気づき、自分の置かれている立場の悪さを知った。
夢で彼女がかけた呪いの正体
それは
「恋人がいる人のことしか好きになれない呪い」
だったのだ。
よくある小説の言葉を借りて表すのならこうだろう。
「この呪いが運命を大きく変えるなんて、この時の僕は知る由もなかった」