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名にし負う職人

作者: 水原 たか

 以前、とある業界で弟子入りをしていたことがある。


 何の、ということはこの話ではあまり意味を持たないので、書く必要はないと思う。


 4回生の夏、弟子入りを決意した。

 内定していた会社に、頭を下げて辞退を伝えた。長年のアルバイト先であったがため、とても心苦しかった。それでもその仕事をどうしてもしたかった。弟子入りが決まってからの内定辞退は、不義理だと思った。

 大変お世話になった方に、泣きながら説諭されたのは、一生忘れまい。


 だが、いざ弟子入りを志願しても、やはりトントン拍子とはいかなかった。


 脚を運べるところへはどこへでも行った。けれども、弟子入りは叶わなかった。

 最後の最後、もうここしかないと思ったところへ、三日三晩通い、土下座してお願いした。

 それでも断られた。どうしても諦められず、自分のありったけの想いをぶつけた。

 なんとか期限付きで弟子入りを許された。


 それからの日々は、全てが楽しかったとは言わない。書きたいことも山ほどある。その話はまた別の時に。けれど、充実していたことは確かである。

 何より、申し訳ないぐらい親方と奥様には良くして頂いた。


 伝統工芸などで後継者問題が叫ばれて久しい。

 だが、声を上げるのに20年は遅かったと思う。

 私は伝統工芸とは違うジャンルだが、職人の高齢化は顕著だった。第一線が70代である。今その世代が弟子入り志願者を取ろうにも、そんな気力はもはやない。


 もちろん、職人の世界にも色々な問題があると思う。自分の技術を他人には教えない。横のつながりが全くない。などと、業界ごとに違うとは思うが、どこも共通していることが、弟子入り志願者が来ても、「育てる力が残っていない」ことである。


 もういくつもの伝統工芸がこの世からなくなり、今まさに風前の灯火となっているものも数多い。

 惜しまれるは、声を上げるのが遅すぎたということである。私の親方も71歳の時に私を弟子にしてくれた。しかし、その数年後、体調を崩されて、廃業することになった。


 失われた技術は、もう二度と世に出ることはない。職人技とはそういうものである。



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