プロローグ
貧乏で、弱者を強いられる人生。それは産まれる前から決まるものだった。
俺は小島悟史、22歳のコンビニアルバイトをやっている。
俺の父親は会社を立てて経営したものの、9ヶ月後に詐欺に遭い、破産してしまったと、母親は言っていた。
その時に、借金も残り、闇金から借りる羽目になったことも言われた。
そして、今俺に父親はいない。会ったこともない。俺が産まれる前に首を吊ったからだ。借金と母親を残して。
俺は聞くからに、父親は最低なやつだと思った。
母親は父親が借金で首を吊ったと知って多大な衝撃を受けたと言っていた。当然だろう。それでも、後を追わなかったのはお腹の俺の為だろう。
そして、俺が15歳になるまで女手一つで育ててくれた。その上で、借金もどうにかしなければいけない。
その為に普通ではない方法を取っていたのも、俺は知っている。だからこそ、母親には感謝してもしきれない。だからこそ、普通ではない方法をこれ以上取らせるわけにはいかない。
高校には行かなかった。母親は行けると言ってくれたが、これ以上母親を酷使するような事はしてはいけない。俺は中卒で働くことにした。
中卒の仕事と言ってまず思い浮かぶのは肉体労働だろう。学歴がない人は筋力を使うしかない。
……そして、俺には筋力もない。生まれつき、筋肉が付きにくい体質だったのだ。
そんな俺に残されたのはコンビニアルバイトだった。それすらも14件回って、本屋で立ち読みして面接の研究もして、やっと受かるほどの過酷さだった。
……人は産まれた時から、弱者強者が決まるものだ。そして、弱者は奇跡に奇跡を重ねない限り覆せるようなものではない。
やはり世界は理不尽だ。
10月14日(日曜日)
「おう小島、今日も真面目に働いてるな、助かるよ」
そう俺に話しかけてきたのは、店長だった。
「いえ、これぐらい当然ですよ」
「当然とは言ってもな。働き始めて1年で時給100円アップは4年後の今でも伝説だぞ。他の人にも見習ってほしいもんだ」
「あはは、ありがとうございます」
「それじゃ、接客頼むぞ」
「はい、かしこまりました」
店長は裏部屋に入っていった。
チリンチリーン、とベルの音がした
「いらっしゃいませ!」
お客さん…目出し帽を被ったちょっと大柄な男は辺りを見回した後、レジに向かってきた。
「おい! 金を出せ!」
大柄な男は俺にナイフを突き出してきた。
「は、はい。ただいま!」
強盗か、ついてないな。ここは落ち着いて、マニュアル通りに、レジの中のお金を出すんだ。
「おい、遅えぞ!」
「ただちに!」
「おい! そこの手はなんだ! 警察呼んでんじゃねぇぞ!」
「呼んでません!」
「もういい! 遅いんだよ死ね!」
犯人は持っているナイフを振りかぶって、俺の腹に突き刺した。
…は? なんで俺の腹に突き刺さってんだ? 俺はただコンビニのバイトをしていただけなのに。
熱い、熱ぃよ…。あぁ、血が…。そうして、薄れゆく意識の中見たのは、犯人がレジの金を漁って喜んでいるところだった。
俺はこんな馬鹿に刺されて死ぬのか…。畜生、頑張って生きてても、理不尽じゃねぇか…。