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リヒャルディーネ東奔西走~お気楽リディの成り上がり奮闘記  作者: 大橋和代
Ⅳ・戦乱編

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第八十話「戦利品あれこれ」

第八十話「戦利品あれこれ」


「あと二歩か三歩で、一番目の岩に届くよ!」

「りょーかーい」

「もう少し、もう少し……停止!」


 クリストフを助手に大型ゴーレム八体を操り、浜に引き揚げた中型戦列艦『カローラ』を順送りで進ませる。


 配置した岩に乗せれば完了だけど、見上げるほどの大物なだけあって、なかなかに手ごわい。


 先に陸揚げした巡航艦はゴーレム六体で済んだけど、無理に動かして船体を傷めるのは本末転倒だった。


「あれ? ちょっと傾いてる?」

「うん」


 もう一度ゴーレムを動かし、ゆっくりと右側だけ持ち上げる。


 船底の穴からは、ちゃぱちゃぱと海水が滴り落ちていた。


「……こんなもんかな?」

「いいと思うよ、姉ちゃん」

「領主様よ、もうあんたの魔法にゃ驚かねえつもりだったがよ、四隻の引き揚げに四日ってのは冗談が過ぎるぜ……」


 様子を見に来たファルコさんが、パイプをふかしながら呆れている。


 前にギルベルタさん達を南大陸まで運んできた大型艦『プリンツ・アーダルベルト』号あたりだと、ゴーレムの数ももっと必要で魔力消費量的にも二、三日は掛かっちゃうだろうけど、フレールスハイム駐留艦隊のカローラは幸いにして戦列艦の中でも中型だった。


 もちろん、中型と言っても全長は六十メートルから七十メートルぐらいあって、一緒に引き揚げた巡航艦よりもずっと太いから、余計に大きく感じる。


 その三隻の巡航艦、『アドミラル・ハイドカンプ』『シュトッシュ』『マクシミリアン・リープクネヒト』は、私が陸揚げした後、修理に必要な準備として、帆布や綱、ついでに海図台から厨房の鍋釜から……ありとあらゆる中身が運び出され、数量を数えて使えそうなものとそうでないものに分けられていた。


「じゃあ、この船もお願いします!」

「お任せ下せえ、領主様!」

「行くぞー!」

「おうよ!」


 早速『カローラ』にも、男衆が取り付いていく。


 軍資金とか武器、魔法具なども大事な戦利品ながら、今のところ急ぐのは椅子やハンモックなどの生活用品で、小川の水で洗って干し、乾いたそばから魔法城壁の中に運び込んでいた。


 今のフロイデンシュタット家じゃ、捕虜の寝床になら辛うじて使えそうな帆布の切れ端でさえ、十分に貴重品なのである。


 食器や鍋釜は、どうせ海水で洗うんだからと、手牽きの荷車に積まれ魔法城壁前の炊き出し場へ直送されていた。


「海水は表で抜けよ!」

「わかってるって!」


 海水に浸かった樽詰めのビスケットは、そのままじゃ食べられない。

 でも、撒き餌として魚を寄せるのに使えるので、これも回収する。


 元海賊の男衆達に言わせれば、艦隊の規模の割りにアガリ(・・・)が渋いらしいけど、私としては、多少なりとも直近の出費を補ってくれれば言うことなしだった。




 ▽▽▽




 ところが、ですよ。


 じっくり中まで乾燥させないと修理に取り掛かれない四隻の軍艦は少々横に置いて、この戦利品の回収は、なかなかに私を驚かせてくれていた。


 ファルコさん達は渋い渋いって言ってたけど、一千人を(よう)する艦隊を軍艦ごと差し押さえたのと同じなわけで、そりゃあもう、フロイデンシュタット家の懐に足し算するのが躊躇われるほどの収穫となっている。


 まずは現金。


 ボートで持ち出されて海に沈んだものも回収したけれど、これが四隻合わせて三万五千グロート――グルデン金貨換算で約三千枚もあった。


 グロスハイムでも最辺境に位置しながら、フレールスハイムは人口一万人を超える大都市で、レシュフェルト王国の比じゃないほど栄えている。


 水兵や魔法使いの給金だって、北大陸には及ばずとも、レシュフェルトよりはずっとお高いそうだ。


 その経済的格差を見せつけられただけで、戦争を吹っかけても勝てると踏んだ『言い訳アドルフ』氏の判断は正しかったんじゃないかなと頷きかけたよ。


 しかしながら、この大金でさえ艦隊と上陸部隊をたったのひと月戦わせるだけで消えていくと聞かされ、私は小さくため息をついてヨハンさんに金貨銀貨の入った袋を任せた。


 軍艦の修理費用も我が家持ちになることが確定してるので、それも伝えておく。


 王政府が急遽支出してくれたお金の返済は急務ながら、フロイデンシュタット家も経済的には非常に微妙な状態であり……まあ、そのあたりはヨハンさんが上手く計らってくれるだろう。


 その他、私物っぽい装飾過多の杖や剣も回収されたけど、返却することで懐柔にも使えるし、売り払ってもいいお値段になる。

 明らかに個人のお財布と思われる小銭の入った袋も含め、こちらはひとまとめにして、別に取っておくことにした。


 それから重要なのが、武器の類だ。

 ここには杖や魔導具も含まれる。


 上陸部隊が装備していた剣や槍、水兵が手にするサーベルや短剣などの小物まで含めてこれが二千ほども集まっていた。


 人数よりも随分と多いけど、手に槍を持って腰に短剣をぶら下げるスタイルは定番だし、船の武器庫には予備だって置いてある。


 このうちの幾らかはもう見張り役の人たちに持たせていて、早速役に立っていた。


 ノイエフレーリヒだけで使うには多すぎるので、余った分は王政府に引き取って貰うか、遠方へ売りに出すかしたいところだ。


 更には、軍艦に装備されていた『魔砲(まほう)』なんて大物もある。


 これが大小合わせて十数基、発射に必要な魔力結晶も結構な数が揃っていた。


『正式には定置式魔力結晶消費型魔導兵器と申しまして、軍艦やお城に据え置きされるか、大型の荷馬車で戦場に運んで使うものです。威力は先日ご覧になったとおりですが、杖とは違いこちらは魔導具の一種、魔力の多少に左右されませんが一定以上に能力が向上することもありません。お嬢様にはかえって不向きかと思います』


 魔導具に詳しいクリスタさんが解説してくれたけど、私にはあんまり必要なさそうで、これも王政府行きかなあ。

 

 商船の海賊避けには過ぎた代物らしいけど、手に入れた軍艦のうちの一隻ぐらいは自分の船にしたいので、一つ二つは手元に残してもいいかもね。


 それ以外の大物だと、救命艇や上陸艇を兼ねたボートが合計で八艘、これらは早速荷役や漁に使われていた。


 戦利品の本命(・・)である四隻の軍艦への期待は大きいけれど、この扱いは交渉の結果待ちで、しばらく先にならないと決められない。


 私の個人的希望としては、一隻は我が家に欲しいんだけど、捕虜を維持する期間が長ければ長いほど借金が膨れ上がっていくわけで、メルヒオル様には上手く、そして同時に可能な限り素早く、交渉をまとめていただきたいところだった。




 ▽▽▽




「ああもう、忙しいったら!」


 魔法城壁と埠頭を維持する魔法の掛け直しを日課にしつつ、軍艦修理の為の材木調達はリンテレンに依頼を出し材木加工場から見積もり担当者に来て貰ったし、捕虜の食糧事情も漁船が増えたお陰で多少はましになったりと、あの大騒動から十日、ノイエフレーリヒは僅かながらに平穏を取り戻しつつ……あるわけがなかった!!


 ヨハンさんは魔法仕事に掛かりきりになっている私の代理人として各種の折衝に大忙しで、戦利品の集計でグレーテとクリスタさんは館から動けず、クリストフを伝令にして王都その他との連絡はつきやすくなったけれど、村人は右に左にと駆けずり回っている。


 少しだけましになったことは、捕虜が――捕虜の皆さんが、割と従順に各種仕事に自分から加わってくれるようになったことぐらいかな。


『誰も殺さなかった甘ちゃんの娘領主だと? ……ハン、馬鹿言ってんじゃねえ』

『誰も殺さねえで済むだけの手加減(・・・)も余裕の手練なんだよ、あの男爵様は……』

『うちの領主様はそりゃあちんまくてかわいい見かけだが、あんだけ恨みの深かった言い訳アドルフの心を折っちまうほどの魔法使いだってことは……忘れんなよ』

『だな。山仕事で外に出た連中は知ってるだろうが、お前らのフネはもう全部陸揚げされてるぜ。……その特大の魔力でな』


 ……主にファルコさんとウルリッヒさんが口先で丸め込んでくれたんだけど、私は多少ならず微妙な心境だった。




 そんな折、またもやグロスハイムの船が、ノイエフレーリヒにやってきた。


「男爵閣下ー!」

「騎士テーオバルト! お帰りなさい、ご苦労様です!」


 今度のも大きな船だったけど明らかに軍艦じゃなかったし、船の舳先(へさき)にはメルヒオル様に同行してフレールスハイムへと向かった騎士テーオバルトが笑顔で手を振っていたので、ほぼ緊張はなかったけどね。


「私は伝令役として、先に戻されました。メルヒオル様よりフロイデンシュタット男爵閣下への書類も預けられておりますが……まずは、積荷の陸揚げをお願いいたします」

「助かります!」


 メルヒオル様が雇われたという大型商船ギュンター・リュッチェンス号は、小麦の袋や野菜の酢漬けが入った樽を目一杯積み込んでいた。


 流石に国中から根こそぎ食料を集めるってわけにも行かないし、追加の買い付けもメルヒオル様のフレールスハイム行きの目的に入っている。


「あの、肝心の交渉は、どんな様子になりそうですか?」

「あー……」


 私が一番気になっていたことを聞いてみると、騎士テーオバルトは西の方角――フレールスハイムのあるあたりに目をやってから、一際大きなため息をついた。


 何か大きな問題が起きたんだろうか?


 私の緊張はともかく、何事かと、荷役の指揮をしていたファルコさんらの手も止まってしまった。


「グロスハイムの辺境都市フレールスハイムは、現在……」




 しばらくして、意を決したように騎士テーオバルトは口を開いた。




「レシュフェルト王国の占領下にあります」




「……はい?」




 いやいやいや。


 あの、本気で意味が分からないんですけど……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょwww リディ以上の大戦果、さてはアドルフ、自分の拠点を空っぽにしてきたなw
[一言] あー…交渉に行った皆さん、やらかしたというか、ヤッチマイナー!!したんですかね…。 可能性はゼロではないとちょっぴり思ってましたが…wwww が、がんばれ…(生ぬるい笑み)
[一言] いつも楽しく拝見しております、が、 今回のラストは思わず、は??? ってリディと同じく言ってしまいました。 予想外の展開で面白いです(^_-) 最高ですね!! 続きがとても待たれますが…
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