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リヒャルディーネ東奔西走~お気楽リディの成り上がり奮闘記  作者: 大橋和代
Ⅲ・建国編

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第三十六話「病の終息」

第三十六話「病の終息」


 原因の検討は一旦後回しにして、私達は総督府二階の病室に向かった。


「オスカーさん、ちょっと痛いけど、我慢して下さいね」

「はい、お願いします……」

「じゃあ、行きます。……【待機】、【限定】【微力】【微力】【持続】【電撃】、【放散】」

「ぐわっ!?」


 熱の出ている患者さんに向け、どんどん電気治療魔法を掛けていく。


 伝令の兵隊さんが、熱が下がった患者だと挙げた名前は全員、私が腰痛の治療をした人だった。

 理由は分からないけど、効果があるならとにかく全員に掛けてしまえばいい。検証は後からでも十分だ。


 患者さんや世話役さんへの説明は、メルヒオル様らに任せた。


 アリーセは私の横で呪文と効果を見ながら、魔術語と杖を使わずに詠唱の練習をして、電気治療魔法を覚えている最中だ。


「アリーセ、行けそう?」

「ええ、もう覚えたわ。加減が少し、難しそうね」

「じゃあ、アリーセにもお試しで掛けるね。その感覚を忘れないうちに、今度は自分で自分に掛けて、威力を調整するの。最初は制御の【微力】、五つぐらいから始めればいいと思うから」

「わかったわ!」


 元が攻撃呪文なので、最初の加減は私も恐かった。


 ただ、困ったのは子供の患者さんだ。


 総督府は兵隊さんや役人さんばかりだったけど、もちろん子供も罹っている。


「うわ、どうしよう……」


 その他の患者さんにも、心臓に持病があった場合、取り返しがつかないことに気付いた。

 皆に相談すると、やはり私と同じ様な表情になる。


 相談の上、威力を半分にしてこまめに様子を見る事に決まったけれど、それで大丈夫なのかまでは、誰にも分からない。


「……責任は、私が持つ」

「総督閣下!?」

「手遅れで民を死なせる選択だけは、絶対に出来ない。時間も無限ではないな。……宜しゅうございますかな、殿下?」


 総督閣下は微笑みとともにローレンツ様らを見据え、自分の意見を押し通された。




 総督府預かりの患者さん全員に電気治療魔法を掛け終える頃には、アリーセの他にも、衛兵隊の魔法使いフレルクさんとアンスヘルム様、そしてなんと総督閣下までが、この魔法を覚えて下さった。


 アリーセによれば、難易度は中級に属するけれど、魔力消費は小さいので、電撃の呪文が使えるなら殆ど練習が必要ないらしい。


「では、行って参る!」

「お願いいたします!」


 もちろん、手分けしないと間に合わない可能性もあるので、他の領地にも向かって貰う。


 私は街から移動せず、総督府と港の教会の両方が担当になった。

 担当する人数は多いけど、まだまだ魔力には余裕がある。


「ごめんね。痛いけど、我慢してね」

「ぼく、がんばるよ!」


 子供さんには、間際まで悩んだけど……綺麗な手ぬぐいを噛んで貰い、威力半分の電気治療魔法を使った。


「じゃあ、行くよ」

「うん」

「……【待機】、【限定】【微力】【微力】【微力】【持続】【電撃】、【放散】」


 苦い薬を飲ませただけでなく、ビリビリして痛い魔法まで使うわけで、必要なことだと分かっていても、申し訳なさで心が痛い。


 全員の治療を終えたのは夕方だったけど、私は新しい患者さんが出たら起こして欲しいとお願いして、礼拝堂の隅っこで毛布にくるまって寝た。


 総督閣下も含めて、新たに電気治療魔法を覚えた四人は、それぞれが派遣された先で一夜を過ごしていた。


 互いに連絡を取りつつ、三日間はこの対応を維持して、私達魔法使いが踏ん張る予定だった。




 ▽▽▽




「リディ、おはよう」

「……ふぇ!? お、おはようございます、ローレンツ様!」


 うつらうつらしていると、いつのまにか、ローレンツ様に覗き込まれていた。


 慌てて髪に手櫛を入れ、びしっと立ち上がる。


「ああ、ごめん。お昼を一緒にと思って、呼びに来ただけだから」

「はい、ありがとうございます!」


 せっかくの殿下のお迎えだしと、兵隊さんに声を掛け、先にお昼をいただくことにした。


 お薬の到着から三日、私が担当していた患者さんの半分ほどは、もう退院というか、自宅に帰されたり、お仕事に戻っている。


 残りの人達も熱は下がっていて、昨日にはもう、各地も含めて危険な状態の人はいないという報告を聞いていた。


 お薬プラス電気治療魔法は、無事に効果を発揮したわけで、今日と明日は様子を見て、預かっている患者さんが全員回復次第、終息宣言が出されるそうだ。


「こちらは後、何人だい?」

「教会の患者さんが運ばれてきたので、十八人です」

「そうか……。リディのお陰で、何とか乗り切れそうだよ。本当に、ありがとう」

「いえ、お役に立ててよかったです」


 教会の救護所は今朝閉鎖して、患者さんは総督府に移していた。


 プリンツェス・ルイーゼ号の水夫さん達も手伝ってくれていたけれど、大勢の世話人さんにも本業があるし、街の機能も出来るなら早く復旧したい。


 総督府では、早期に回復した兵隊さんが世話に回ってくれていた。力仕事は無理でも、病人の世話なら大丈夫と、余力が生まれている。


「もう数日、頑張ろうか。さし当たっては……お昼にしよう」

「はいっ!」


 総督閣下とアンスヘルム様が不在で、ローレンツ様達も忙しかった。


 ここしばらくで滞っていた執務を処理するゲーアマン政務官を助力しつつ、現状の把握に努めておられたらしい。


 もちろん、忙しく目の前のことに対処していれば良かった私と違い、もうすぐ国を――四千人もの人々を背負うお立場である。


 大体の方策も決まったらしいけど、状況は想像以上に厳しいと聞いていた。




 レシュフェルトに到着して八日。


 新領土全土に無事、漁師熱の終息宣言が出された。


 死者ゼロ、後遺症を訴える者ゼロ。


 これまでにない規模の流行と、その病状の特殊性を考えれば、快挙であるという。


 私とアリーセも救護所の片づけを終わらせると、母港に戻るプリンツェス・ルイーゼ号をお見送りしてから、一日のお休みを貰った。


 ……もちろん、宿舎に与えられた私室の整理でその一日は潰れてしまったけれど、ようやく新生活が始まるんだなって、明るい気分も引き出されている。


 休み明け、新領土の今後について話し合う会議に呼ばれた私達だけど、足取りも軽くなっていた。


「アリーセ、その瓶は?」

「新薬よ。余裕が出来てから、色々試してみたの」

「えっ!? すごいよ、アリーセ!」


 アリーセは魔法学院を卒業していて、錬金術にも魔法薬学にも詳しい。


 少し考えて、魔術師が不在でも新たな漁師病に対処できるよう、雷属性を持たせた魔法薬を仕上げたそうだ。


「持ち込んでいた魔力回復薬に属性を付与しただけよ。そう大した技術じゃないし、元々あるものだし……」

「そうなの? 私、魔法薬には詳しくないから」


 魔法屋さんでも売られているし、軍の魔術師部隊や貴族お抱えの魔術師が、状況に応じて使用するという。

 属性に応じた魔法を使う場合、威力が強化されるそうだ。


「お茶の用意だけ先に整えようか?」

「そうね。……お茶菓子はまだ、無理かしら」

「うん、流石にね……」


 先日、不発に終わった会議のように、後から呼ばれるならともかく、ローレンツ様や総督閣下に自らお茶を淹れさせるのも忍びない。


 本来なら、給仕役を雇って教育し、万事不都合のないように差配するのも女官長アリーセのお仕事なんだけど、漁師熱の騒動で全てが棚上げされたままだった。


 人事に関する話し合いも予算の行使も、今日の会議および引継の後と言い渡されている。


 本日の会議には、いつもの私達に総督閣下や政務官殿に加え、先日は呼ばれなかったノイエシュルムとオストグロナウの領主も参加する予定だった。


 でも、その会議の席上。


「現状を伝える。新領土管区を引き継ぐレシュフェルト王国は、成立後、一年を経ずに破綻するだろう」


 初っ端からローレンツ様の一言が会議室を鋭くえぐり、出席者を貫いた。


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