表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヒャルディーネ東奔西走~お気楽リディの成り上がり奮闘記  作者: 大橋和代
Ⅱ・王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/111

第三十一話「旅と噂と道連れと」

第三十一話「旅と噂と道連れと」


 部屋を取る間ももどかしく、私達はローレンツ様のところに集まった。


「明らかに、姉上の望みではないだろうな。だが、嘘と斬って捨てるには、具体的すぎる」

(はかりごと)(ぶく)みであると断じて、宜しいかと」


 ここのところ、ほぼ王宮の中枢に日参され、王様や兄王子様達と会われていたローレンツ様である。

 そのローレンツ様のところまで来ていないお話が、既に噂話として市井にまで流れてるってことの異常さは、幹部の皆さんの表情が物語っていた。


 全員が月光宮の片づけにあたっていた今日はともかく、昨日ならメルヒオル様やアンスヘルム様は市中に出ておられたし、噂が流れていてお二人が気付かないというのもおかしい。


 でもそれ以上に、ゼラフィーネ様のことが心配だ。


 叔父上には気をつけるよう仰ってたご本人が、この状態。

 もう色々と、いっぱいいっぱいだった。


「メルヒオル、噂が真実だとして、叔父上は何を狙っているのだと思う?」

「ゼラフィーネ殿下の持つゾレンベルク王室公爵領の獲得、両王子殿下への対抗手段としての旗印、魔法研究者としての価値……幾らでも思いつきますな」

「あるいは、全てか? 並べ立ててみると、逆にこれという決め手がなくなるな」

「薄いながらも、どちらかの王子殿下と密約を結ばれている可能性さえ、考慮せねばなりますまい」


 フェルディナント王弟殿下の策謀に対して、後手に回ったのは間違いない。

 でも、先に知っていたって、何が出来たというわけじゃなかった。


 そのぐらい、世間への影響力――勢力には、差がありすぎる。


 領主として預かるヘルツブルク王室公爵領は人口十万、配下には大きな騎士団もあって、単独なら両王子殿下を上回っていた。


 性格はともかく、才能はある人なんだろうなあ……。


「叔父上が独立を画策していることは聞いたが、時期はどう見る?」

「最短で両王子殿下並びにローレンツ様が王として即位された直後、最長でも、数年内かと。しかし、独立だけを狙うなら、ゼラフィーネ殿下を息子の嫁にする必要があまり……ふむ」


 言葉を途中で切ったメルヒオル様は、若干顔を歪めてローレンツ様に向き直った。


「どうした?」

「大変不愉快なことを思いつきました。ローレンツ様、このまま事態が推移しますと、ゼラフィーネ殿下とフェリクス殿下のお子は、『現』シュテルンベルク王の血を最も濃く受け継いだお子になります。……なれば、『現』シュテルンベルク全土の継承を、強引に主張する事もできるかと」

「つまり叔父上は、兄上らの両王国の上に立つ位置でのシュテルンベルク再興を狙っている……?」

「はっ、現時点では確定した情報が少なく決め手には欠けますが、フェルディナント殿下が望めば……そのような手も使えましょう」


 今の王様の娘と、今の王様の甥っ子が結婚すると、次世代には他の王子殿下では対抗できないほど濃い血脈を残せる。今の王様に、姪っ子はいないからね。


 お二人のお話によれば、王弟殿下の目論見は、直近はとにかく自領の独立とその維持、後は力を蓄えて『余の孫こそ正当なるシュテルンベルク王なるぞ!』ってもう一度シュテルンベルクを復活、その支配者になることらしい。


 本人が王様じゃないのは微妙だけど、まあ、そこまでやると世間が黙ってないか。


「だが、次代はあのフェリクス公子だぞ……」

「はい。誰にとっても、暗い未来しか見えませぬ」


 ローレンツ様は呆れた顔で肩をすくめ、メルヒオル様もこれみよがしにため息をついた。

 どうにもこうにも、親子揃ってよろしくない人達らしい。


 その後もしばらく、フェルディナント王弟殿下の行動やその対処について話し合いが続いたので、アリーセに小さく耳打ちする。


「アリーセ、フェリクス公子ってどんなお方なの?」

「……馬鹿?」


 酷く短い一言で、アリーセはフェリクス公子を表現して見せた。


「剣の腕は並以上らしいけれど、それだけね。あと、色事とお金に目がないかしら。舞踏会に出るって話を聞いただけで、未婚の娘を持つ親は欠席理由を考えるわ」

「すごいね。聞いただけで呆れてきたよ」

「確かにすごいけれど、大国シュテルンベルクの王弟家は、その悪徳や欲望を隠さないで済む、そのような立ち位置にあるってことも一緒に覚えておきなさい。……そんな相手が、わたくし達の『敵』よ」

「うん……」


 やっぱり、まっすぐで分かりやすい人だなあと、その横顔を見る。


 アリーセは、王弟殿下親子を敵だと言い切った。


 ……私には、その覚悟があるのかな?


 これまでだって、国同士の大きな戦いはなかったけれど、同じシュテルンベルク王国の中で、領主同士が争う戦争は、起きていた。


 戦争は……ローレンツ様が戦いに出るのは、嫌だ。

 自分だって、関わりたくもない。


 でも、攻めてこられたら、戦いになってしまう。


 アールベルクでの夜のように、襲ってきた相手なら遠慮なく倒してもいいと、私は思っていた。

 もちろん、相手を殺そうなんて考えはしなかったし、手加減する余裕があってこそだけど……。


 たぶん、戦争は違う。


 戦争の事なんて知らないけれど、違うだろうなと、思う。




 ▽▽▽




「予定通り、レシュフェルト領を目指す」

「御意」


 ローレンツ様は翌日朝、レシュフェルト到着を優先すると宣言された。


 ゼラフィーネ様のことは心配だけど、手の出しようがないことも事実だった。

 連絡を付けることぐらいは出来るものの、今の私達じゃ、事態に影響を与えることなど出来やしないのだ。


 とても、くやしかった。




 もやもやとした不安や失意にも似た何かを抱えつつ、私達一行は旅を続けた。


 馬車の紋章は隠してないけれど、お忍びに近い。

 名乗るのは、名乗らない方が揉めてしまう大きな都市の市門ぐらいで、歓待や挨拶も全て断っていた。


 シュテルンベルクを南北に縦断する大街道を、南へと駆ける早さはなかなかのものだったけど、宿で泊まるたび、続報で気が滅入る。




 旅商人に曰く、ゼラフィーネ殿下は婚礼の(みそ)ぎの為、王宮を辞して修道院で過ごしておられる。


 流しの傭兵に曰く、ヘルツブルク領では婚礼の護衛となる傭兵を集めており、相場が上がっている。


 宿の女将さんに曰く、王都では婚礼を祝う屋台がもう出ている。




 噂が広まる速度は、馬車で旅路を急ぐ私達よりも、ずっと早かった。

 貴族や大商人が使う速達便の早馬は、馬車も曳いていないし、駅亭で替え馬と入れ替わる。


 ビルンバッハ、エルトルといった大きな都市を一顧だにせず駆け抜け、一日の休憩を取ることになったのは、ミールケという小さな宿場でのことだった。


 ローレンツ様達の表情を見ると、ミールケでの休憩は予定されていたようだけど……。


「休憩日というほど休めはしないが、皆、適度に息を抜いてくれ」


 ローレンツ様とメルヒオル様は、旅程の変更について打ち合わせをしながら手紙を書かれ、走り詰めだった馬車の整備はアンスヘルム様とイルミンさんが頑張っている。


 ギルベルタさん親子は、道中で消費した消耗品や食料の買い出しに出かけた。


 大街道沿いだから、お金を出せば食料は手に入るし、軽食を食べさせてくれるお店だって宿屋と同じぐらい沢山ある。でも、何か理由を付けられて追っ手が来た時、すぐに逃げられる準備も必要だった。


「アリーセも結構慣れてるね」

「ふふ、お兄様ほどじゃないわよ」


 私とアリーセは、馬車の馬も含めたお馬さんのお世話である。


 箱馬車は二頭立てなので、乗馬を含めて合計六頭、数が多いと結構大変だ。


「かゆいところはどこですかー、っと」


 馬のお世話なら、オルフの実家でそこそこ慣れている。


 前世じゃ馬なんて身近にはいなくて、テレビか競馬場で見るものだったし、興味もあったから率先して引き受けていた。

 割と人間くさい反応を返してくれるので、そこはかなり面白いかな。


 だから、専業の馬丁さんや軍人さんほど上手じゃないけれど、馬の機嫌を損ねたりはしないのだ。


「リディ、そちらは終わった?」

「あとは道具のお片づけだけだよ」


 昼前、馬房の敷き藁まで替え終えた頃。


 表の方が騒がしくなった。


「何だろね、アリーセ?」

「とにかく行くわよ!」

「う、うん!」


 大人数の気配がする。……馬もいるかな?


 宿の表に回れば、工具を手にしたアンスヘルム様が大きな笑みを浮かべていた。

 騎士と思われる七、八人が、わいわいと取り囲んでいる。


「お前達、すまん。……世話になる」

「何言ってんですか隊長、お世話になるのは俺達の方ですって」

「後からアーベル達も来ますよ。半分は、荷馬車とその護衛……ってか、夫婦? 家族連れ?」

「何!?」

「アーベルの奴、隊長にはついて行くけど、せっかく出来た恋人とも絶対別れねえって叫んで、そのまま教会に駆け込みやがりました!」

「お相手の親父さんにぶん殴られてましたけどね!」


 この人達って、試験の日に会ったアンスヘルム様の部下だった騎士様達かな?


 雰囲気からして、味方というか、レシュフェルトまで一緒に来てくれそうではあるんだけど……なんだか軽いノリだ。


「『聖竜』騎士団は大丈夫なのか?」

「団長には『武者修行は騎士の嗜み、男の浪漫を追求してきます!』って言ってあります!」

「おいおい……」

「いいんじゃないっすか? しょうがねえなあって顔はされてましたけど、退団許可はすぐに出ましたよ」

「団長もそろそろ引退するって話ですからねえ」

「ふむ、技量はともかく、ご高齢であるのも間違いないからな……」


 しばらくして、騒ぎが中まで伝わったのか、ローレンツ様まで出てこられた。


 途端、騎士様達がびしっと整列する。


「皆、来てくれたのか! エアハルト、ニコラス、テーオバルト、それにエミールも……」

「我ら王立『聖竜』騎士団第三小隊、後続も含め全十四名、ローレンツ様に剣を捧げるべく参上致しました!!」


 ふざけた態度を消した騎士様達は、いかにも王城勤務の精鋭らしく見えた。


 アリーセと顔を見合わせ、小さく頷く。


 味方が、増えたんだ!


「おい、馬鹿! 元、だろ?」

「あ、しまった……」

「殿下の御前で間違えてんじゃねえ!」


 すぐにまた、元の運動部系大学生みたいなノリになっちゃったけど……ローレンツ様が、久しぶりに屈託のない笑顔を浮かべられていたので、これでいいんだと思う。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ