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物理特化の回復職  作者: 昼熊
入園編
8/42

孤立

二話連続投稿の一話目です

 入学してから四ヶ月が経過すると、一年生は聖者の迷宮へ潜ることが許されるようになる。低い階層は敵もそれ程強くないので、滅多なことでは命を落とすことが無いのだが、だからと言って油断をしていい場所ではない。

 学園の授業も迷宮探索がメインとなり、教室で学ぶ時間は半減以下となる。

 迷宮には入る際に守らなければならない注意事項と学園で定められたルールがある。


 一つ、迷宮探索は最低でも学園の生徒二人以上で挑まなければならない。(特例は除く)


 一つ、冒険者ギルドで人を雇うことも可能だが、自分より20以上段階が離れた相手を雇うことを禁じる。尚且つ、雇える冒険者は最高二人までとする。


 一つ、迷宮に挑戦する前に、冒険者ギルドで登録をすべし。


 一つ、入園して六ヶ月が経過するまでは、上級生と組むことを禁じる。上級生も規定に満たない一年生をチームに引き入れるのは不可とする。


 以上を必ず守らなければならない。

 一つ目の生徒二人以上というのは、無謀にも一人で迷宮探索をしようとする無謀な生徒が毎年いるらしく、死亡率が異様に高いので禁止事項となった。

 冒険者ギルドで人を雇うというのは生徒側も冒険者側としてもメリットがある。

 学園の生徒の構成は神官戦士か助祭となっているので、どうしてもチーム全体のバランスが悪い。そこで、経験豊富な冒険者を雇うことにより、安全に迷宮探索を行える。

 そして、冒険者側としても回復職である聖職者と繋がりを持つチャンスなのだ。ここで、共に冒険をし、仲良くなっておいて卒業後にチームへと勧誘。それに、聖者の迷宮は聖職者がチームにいなければ、入ることができない迷宮なのでその意味でも組む価値がある。

 こういった流れができあがっているので冒険者ギルドも協力的で、毎年この時期になると、どのチームも目の色を変え、将来有望そうな聖職者が協力依頼に来るのを手ぐすねひいて待っているのだ。


 冒険者ギルドに冒険者として登録するには、簡単な面接と試験の合格が必要となる。その後、ギルドカードが与えられ、それには自分の強さである段階の数値や、所有するギフト、スキル等が表示される。それが自分の強さの基準になり証にもなる。

 ギルドカードを所持していると身分証代わりにもなるので、何かと便利だというのも大きい。

 最後に上級生と組むことを半年間は禁じられているのは、まずは自分たちの力量を知る為に一年生だけで挑ませるという目的がある。他にも勧誘合戦を避ける為だとか、色々本音もあるようだが、建前上はそうなっている。


 迷宮にはライトも挑むつもりでいたのだが、その許可が下りなかった。

 理由は単純でわかりやすく、ライトと組む生徒がいなかったからだ。

 権力者に目を付けられているライトと組むことによる将来の不安。その異様なまでの怪力とセイルクロスとの戦い方の非情さ。そういった要因があり避けられているのも事実だが、それ以上に大きな問題があった。ライトの神聖魔法である。


 入園から一ヶ月は順調だった。誰よりも早く初期魔法を覚え、実技も実戦経験が豊富なライトにとって何ら問題が無かった。

 むしろ、その怪力による攻撃により練習相手が怯えてしまい、ライトと戦えるのは全くめげないセイルクロスと教師のカリマカぐらいだ。

 順風満帆といってもいい日々だったのだが、それから更に一ヶ月が過ぎた頃に変化が起こる。入園から二ヶ月も過ぎると、落ちこぼれの寄せ集めとはいえ、6組の生徒の大半が初期魔法を覚え始めたのだ。セイルクロスは神聖魔法の才能が殆どないようで、治癒すらままならないが。

 ファイリに至っては初期魔法を完璧にこなし、更に『解毒』や補助魔法である『全身強化』といった魔法までマスターしている。


「あら、ライト様。あれから新しい魔法を覚えられましたか? え、私ですか。最近更に二つほど新たに魔法を覚えまして」


 口より上は優しく微笑む天使のような表情なのだが、口元が嬉しさを隠しきれずに、勝ち誇っている。

 最近では、ライトの前だけだが、その本性が見え隠れするようになり、口調がおかしくなることが多々ある。


「私の方はからっきしですね。コツがあるなら教えて欲しいぐらいですよ」


 いつもの笑みを顔に貼り付け、ライトは困ったように頭を掻く。初期魔法を覚えてからライトは他の魔法が全く覚えられなかった。

 あっさりと事実を認めたライトに少々物足りなさを感じているようだが、ファイリは根が善人である。教えを請われると、断れない性格をしている。


「しょ、しょうがありませんわね。特別に、今日の放課後から神聖魔法の練習、付き合ってあげても構いませんわよ」


 そっぽを向きながら言ってはいるが、その頬は嬉しそうに緩んでいる。

 如何にもしょうがないといった感じを演じてはいるが、若干心が弾んでいるのを自覚していない。


「お、良ければ、その特訓、自分も混ぜてはくれないか! 未だに神聖魔法が上手く発動できずに、困っておるのだ! すまないが、よろしく頼む」


 近くで話を聞いていたセイルクロスは乱入してくると、その大きな巨体を縮ませ頭を何度も下げてくる。


「私の方からもお願いします。セイルクロスもかなり苦労されているようですので」


 あの勝負以来、険悪な関係になるかと思われた二人だったが、セイルクロスの潔くさっぱりとした性格に助けられ、仲が悪くなるどころか親しくなっていた。

 ライトとしても授業で対戦してくれる貴重な相手なので、優しさを心掛けて対応しているうちに、気が付けばクラスで一番仲のいい友人になっていた。


「セイルクロス様もですか……」


「二人の邪魔だったか?」


「な、何を仰いますのやら! か、構いませんわよ、もちろん」


 気の利く相手ならファイリの無理をしている表情や態度で察することができるのだろうが、村で他人との接点が殆どなかったライトと、鍛錬ばかりをしてきて女心を全く理解していないセイルクロスにそれを求めるのは無駄だった。


「良かったですね、セイルクロス」


「おう、ありがとうな! ライト、ファイリ殿!」


 喜ぶ二人を見て何も言えなくなったファイリは、引きつった笑顔のまま大きく息を吐く。

 それからというもの、平日はほぼ毎日居残りを続け、ファイリ指導の元、魔法の鍛錬にいそしむ二人だった。

 そして、更に一カ月が過ぎた頃には、その成果が如実に表れていた。

 神聖魔法が苦手だったセイルクロスは、初期魔法の5種を何とか発動させることができるようになり、神官戦士としての条件の一つを満した。

 ライトはというと――


「わかりました。私には神聖魔法の才能が無いようです」


 自分の実力を悟っていた。

 初期魔法は練度も上がり、威力の上昇や発動時間が伸びるなど、磨きがかかっているのだが、新たな魔法を一つたりとも覚えることができていない。

 助祭時代に覚えられる魔法は合計20ある。一年で教えられるのは15、残りの5つは二年生になってからとなっている。

 ライトは僅かな望みに掛けて、初期魔法を除いた15の魔法全てを試しているのだが、どの魔法も発動する気配すら見せない。


「まあ、あれですよ。初期魔法すら発動できない人もいるのですから、そう落ち込まずに」


 当初は新たな魔法を覚えられないライトをからかっていたファイリだったが、流石に気の毒に思えたのだろう。優しい言葉が自然と口から出るようになっている。

 更に一カ月が経過した頃には、クラスの殆どが初期魔法を覚え、更なる魔法も幾つか覚えている。だというのに、ライトの発動できる魔法は増えることがなく――落ちこぼれの烙印を押されることとなる。

 初期魔法すら覚えられなかった数名は学園を退学していき、今では初期魔法しか発動できない助祭見習いはライトのみとなっていた。


 入学から四ヶ月が経過して、迷宮探索が解禁されクラスメイトがチームを組み始めたのだが、ライトと組もうとする者が現れない。

 そんな独りぼっちのライトへ声を掛ける者が二人いた。ファイリとセイルクロスである。

 ファイリは始めからライトと組む気だったのだが、プライドの高さとライバル心がせめぎ合い、素直に誘うことができないでいる。


「ライト様。気のせいかもしれませんが、お相手がいないのですか。貴方がどうしてもというのなら、私が組んであげてもよろしくてよ」


「お誘いはありがたいのですが、今の私では皆様の足を引っ張るだけですからね。お言葉だけ、ありがたく受け取らせてもらいます」


 そう言って寂しそうに笑うライトを見て、言葉に詰まってしまう。

 気まずい沈黙を打ち破ったのは、クラス一空気の読めない男、セイルクロスだった。


「ライトアンロック! 自分と組もうではないかっ! お、ファイリ殿もぼっちなのか! ならば三人で組めばいい! 三人ならば迷宮に潜るのも問題はあるまい!」


 確かに三人いれば迷宮探索の許可は下りる。学生の迷宮探索には1チーム二人から六人までという規定がある。

 だが、初めての迷宮探索となる為、慎重を期しているようで、規定の最大人数である六人組が多いようだ。6組は現在20名在籍しているのだが、六人編成の2チームが成立されたことにより、残りが八人となる。

 迷宮探索をするのであれば、この二人と組んだ方がいいというのはライトも理解しているのだが、今まで一人でやることが多かったので、組むという行為に少し抵抗感があった。

 それに、助祭と言えば後衛で守りの要である。初期魔法しか使えないライトに、その役割を果たせるとは思えなかった。


「セイルクロスもありがとうございます。ですが、もう少し鍛錬を続け、自信が付いてから挑むことにします。お二人は私の事は気にせずに、他の方と組んでください」


 やんわりと断るライトにセイルクロスもファイリも、まだ諦めるつもりはなかったのだが、この会話に聞き耳を立てていたクラスメイトがいた。チームメンバーに不安がある四人組が強引に割り込んでくる。


「ファイリさんに、セイルクロス! なら、俺たちと組まないか!」


「そうですよ。無理に誘ってはライトさんも困っています」


「頼む、うちのチームに入ってくれ。正直俺たちはこのクラスでも落ちこぼれだ。迷宮探索が上手くいかないと、退学させられるかもしれない」


「お願いしますっ!」


 必死に懇願する四人組の勢いに呑まれ、たじたじになっている二人。

 基本的には人の良い二人が、断り辛い状況に追い込まれているのを見かねて、ライトが口を挟む。


「私は大丈夫ですから、二人は組んであげたらどうですか」


 その一言で二人の腹は決まったようで、渋々ながら四人組と組むことにした。

 二人とも申し訳なさそうにライトを見て頭を下げるが、笑みを浮かべて軽く手を挙げ、二人を送り出す。

 その結果、教室に二人の生徒が取り残されることになる。

 その二名の内の一人がライトであり、もう一人が、奇抜な格好と言動でライトよりも浮いた存在であるマギナマギナだった。


 迷宮探索が授業として組み込まれるようになると、一週間に三日迷宮探索の日が設けられるようになり、クラスメイト達はこぞって迷宮へと向かうようになる。

 誰とも組めていないライトはソロで迷宮へと向かいたかったのだが、やはり許可が下りず、迷宮探索の日は自主訓練をするしかない。

 マギナマギナも一人なので迷宮探索の許可が下りなく、ライトとしては彼女と組むのもありかと思ったのだが、ここでふと重要な事実に気づく。


「私は……人に話しかけるのが苦手でした」


 相手から話しかけられれば、言葉を返す程度は可能なので、セイルクロスのような相手だと友人関係にもなれる。だが、基本聞き役で受け身である。

 人の話を聞いて相槌を打つのは楽なのだが、自分から話しかけるのは敷居が高い。村で友達が全くいなかったライトにとって、自ら積極的に話題を提供するのが苦手だった。

 それが異性となると幼少時の嫌な記憶が蘇るらしく、表面上は冷静なのだが手汗が滲み出る始末だ。


 ファイリの場合、体も見た目も幼く、女性を感じさせる身体つきでもないので、小動物を相手にしている感じがして緊張もしない。

 だが、マギナマギナは露出度も高くスタイルがいいので、ライトとしては女性であることを意識してしまい、外見だけで判断をするなら、かなり苦手とするタイプだった。

 結局ライトは踏み出せず、マギナマギナの方から接触してくることもなく、迷宮に行く方法が思いつかぬまま、ただ日々が過ぎていく。


 そんなライトをじっと観察する一人の女生徒がいた。

 もう一人のはぐれ者であるマギナマギナは、目深に被っていた帽子のつばを指で弾き、その目を露わにする。その瞳は右と左で色が異なっていた。

 右目は黒く、左目は光の角度によって金色に見える黄色。二色の異なる目は、ライトの姿を追い続けている。

 今日も一人、校庭で鍛錬を続けるライトを興味深げに見つめていた。


「ライトアンロック。面白い男だが……善人面しているヤツは信用ならない。あいつは我に相応しい男なのか、確かめねばなるまい。くふふふふふふふっ」


 校舎の廊下で外を眺めながら、顔を右手で覆い低い声で笑い続けるマギナマギナを目撃した教師は、その不気味さに言葉を失っていた。


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