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物理特化の回復職  作者: 昼熊
クラス対抗戦
40/42

組戦 第一試合

「しかし、予想外でしたね。一回戦の相手は2組だと思っていたのですが」


 組戦のトーナメント表が各クラスに配布され、6組全員で覗き込んでいるのだが、意外な対戦相手にライトは不信感を隠せずにいる。


「点数差を考えると、6組と2組を戦わせて消耗させた方が良いですわ。1組の総合優勝を願うならですけど」


 クラス対抗戦に不正はないとなってはいるが、そんなことをライトたちは微塵も信じていなかった。


「くじ運だからな。運が良かったのだろう!」


 ――まあ、一人を除いてだが。

 組戦の対戦表によると、一回戦は6組対3組。二回戦は2組対4組。三回戦は1組対5組となっていた。

 その結果勝ち抜いたクラスが決勝で三つ巴の戦いを繰り広げる。これが毎年恒例のクラス対抗戦での基本ルールの一つである。

 6組が全員移動後、配置についたところで放送が流れてきた。


「あっ、あっ、んんっ、長らくお待たせしました。組戦のルールと勝利条件の説明をさせていただきます」


 聞き慣れたコシップの声が聞こえると、雑談に興じていた人々が口を閉ざし、耳を傾けている。


「組戦は参加者が多い為、試合会場を訓練場から、イナドナミカイ教団の敷地内にある公園へ移します。事前に簡易の柵を巡らせていますので、そこから外へ出た者は棄権とみなされますのでご注意ください」


 会場となる場所はライトとセイルクロスが一騎打ち? をしたあの公園である。

 池もあれば林も存在する広大な敷地面積が自慢の公園なので、総勢40名が争うにも十二分の広さを有している。


「勝敗は減点方式で決定されます。まず、各クラスは100点の持ち点を所持した状態から始まります。生徒一人が戦闘不能、降伏した場合、持ち点から5点減点されます。クラスの参加人数は最低でも20人はいますので、全員が負けを認めると持ち点が0となり、その時点でクラスの負けが確定します」


 生徒たちは予め知らされていたので、その説明を聞き流す者も多いようだが、観客席にいる一年生の関係者にとっては初耳なので真剣に聞き入っている者が多いようだ。


「ですが、全員を倒さなくてもクラスが負ける要因はあります。各クラスに陣地が設定されていまして、そこには四角いガラスの箱が置かれています。それを破壊されると50点の減点。更に、クラスごとに一名、リーダーを一人選出。リーダーが倒されても50点の減点となりますので注意してください。つまり、リーダーが倒され、陣地に置かれたガラスの箱を破壊されると、生徒が何人生き残っていても、そこで負けが確定するということです」


 組戦では陣地を守る人員とリーダーを誰にするか、それが一番のポイントとなる。

 6組ではリーダーはあっさりと決まり、誰からも異論が出なかった。陣地を守るメンバーは様々な意見が出たのだが、最終的には誰もが納得する案となった。

 ライトたちが既に陣取っている公園にも魔道具である拡声器からの声を運ぶ、特殊な道具が至る所に設置されているので、問題なくその声が届いている。


 場所を移動した為に本来なら公園での戦いを観客が見ることは叶わないのだが、そこは対策がされていた。

 訓練場の観客にも現場の光景が見えるように、会場のど真ん中に大きく丸い水晶が設置されると、そこから上空に向かって光が放出された。

 その光の中に公園の映像が鮮明に浮かび上がり、観客席から感嘆の声が漏れる。

 この水晶玉は『監視の瞳』という魔道具で遠くの映像を映し出すことが可能な装置。古代人の遺産であり、かなり珍しく貴重な品なので、職員たちは取り扱いには細心の注意を払っていた。


「ただのクラス対抗戦で、戦争で有効活用される魔道具を持ち出しますか」


「ほら、たまには使っておかないと、いざという時に故障しても困りますからね」


 隣で大きく息を吐くカリマカに学園長がにこやかに話しかけている。

 その二人に挟まれる形となっているコシップは居心地が悪いようで、しきりに体をくねらせて、その緊張からどうにか解放されようと足掻いていた。


「コシップさん。組戦の司会よろしくお願いしますね」


「は、はい! 恐縮でありますっ!」


「俺に対しての対応と全く違うな……」


 組戦からは学園長も解説役として参加することに急きょ決定したようで、その美貌と神の子と呼ばれた存在にコシップは委縮している。


「ほら、そろそろ試合開始の宣言をしないと、いつまで経っても始まらないぞ」


 カリマカに促され、慌てて拡声器を握りしめたコシップは一度咳払いをして、何とか精神を平常時へと近づけた。


「んっ、皆さんお待たせしました。それでは、これより組戦第一試合を開始致します!」


 開幕宣言と同時に両者が一斉に動き出すさまが『監視の瞳』により、上空から見下ろす映像として映しだされている。

 その映像を熱心に見つめる視線の中に、狂気の笑みを浮かべ弛んだ頬を震わせて、笑い続ける大司教の姿があった。

 あまりにも不気味な姿に側近たちですらたじろいでいるのだが、大司教はお構いなしに映し出される映像を食い入るように見入っている。





 会場となった公園を走る五人組の姿がある。

 彼らは3組の生徒たちであり、6組の陣地へと向かっている最中であった。


「皆、作戦は覚えているな」


 先頭に立つ全身鎧を着込んだ生徒が、後方に続く仲間へ確認をしている。


「もちろんだとも。6組のリーダーはライトアンロックに間違いない。そこで、四つに別れた僕たちの班の誰かがライトアンロックに遭遇した場合、注意を引きつけて逃げに徹する」


 法衣を着込んだ生真面目そうな生徒の発言に、他の三名が大きく頷いた。

 3組は総勢二十七名生徒がいるので、攻撃にそれだけ裂いても陣地の守りに六名を残すことが出来る。念の為にリーダーの役割を担った生徒は隠れてもらっている。

 この人数差も6組にとっては不利な材料だった。一年で最も人数が少ないのは6組であり、不公平さが目に見えてわかる。こういった点も学園の腐敗具合を如実に表していた。


「ライトアンロックは無理に倒す必要はない。敵の陣地を襲い破壊し、更に10名ほど6組の生徒を倒せば勝ちだ。他に注意する人物はマギナマギナとファイリだが、あの二人はいくら魔力が高かろうが、接近戦に持ち込めばこちらのものだ。それに、他の生徒たちは取るに足りん。同数で戦うことになればまず負けは無い」

 鎧男の発言は自信に満ち溢れていた。あの三人さえ注意すれば、落ちこぼれの寄せ集めである6組の生徒に負ける筈がないと。

 実際、この三人を除いた6組の実力を平均化すれば、3組の生徒たちには及ばないだろう。

 ライトとファイリとマギナマギナ。この三人との戦闘を避ければ、我々の勝ちは揺るがない。それが3組の生徒たちの共通認識であった。


「あっ」


 林を突っ切るルートを選択していた彼らの前に三人の生徒が飛び出し、目が合う。

 お互い不意の遭遇だった為、妙な間が発生したがいち早く行動に移せたのは、3組の方だった。


「敵は三名だ。やるぞ!」


 見るからに気弱そうな貧相な鎧を着込んだ男子生徒と、助祭の格好をした瓜二つの顔をした女生徒も慌てて構えをとるが、その対応の遅さが命取りになる――と考えていた3組の生徒たちに、横殴りの聖光弾の雨が叩きつけられた。


「ぐあっ!」


「きゃああっ!」


 何発もの聖光弾をその身に受けた3組の生徒たちが次々と倒れ伏す。班を仕切っていた全身鎧の男子生徒だけは辛うじて耐えきったが、大剣を杖にして体重を支えることにより、何とか倒れずに済んでいるだけだ。


「あの聖光弾の数は……」


「ごめんね。皆出てきていいよ」


 部分鎧しか着こんでいない小柄な男子生徒が、魔法の飛んできた方向へ声を掛けると、そこから10人以上の生徒が姿を現した。


「馬鹿な、クラスのほぼ全員がいるだと……ふっ、馬鹿者どもめ。陣地の守りが手薄になっているではないか。これで3組の勝利は確実なものとなったな」


 ボロボロの状態で勝ち誇っている男子生徒の発言に、6組の生徒たちは思わず苦笑いを浮かべる。


「何だ、その反応は! ここには16もの生徒がいる。残りは四名しかいないのだぞ」


「その四名が誰だかわかるかい?」


 この場にいないのは誰か、それを理解した時、男子生徒の顔から血の気が引いた。


「6組の陣地を奪うことは不可能だからね。僕たちは全力でキミたちの陣地を奪うだけさ」


 6組はその四人を除いた全員で陣地を奪いに来る。個々の能力はこちらが上回っているとはいえ、16対6では勝ち残ることは、ほぼ不可能。

 男子生徒が絶望を覚えたその時、6組の陣地に辿り着いた3組のメンバーは更なる絶望を味わっていた。


「セイルクロス、ファイリ、マギナマギナ、それにライトアンロックだとっ」


「ようこそ、いらっしゃいました。歓迎いたしますよ」


 黒の法衣を着込んだ異端児が堂々とした佇まいで笑みを浮かべている。その背後には全ての魔法を行使できる問題児。

 更に聖女の呼び声高い姉に匹敵すると言われている、神聖魔法の申し子。三人に比べると印象は薄いが決して侮ってはならない、鉄壁の防御をほこる人間城壁。

 居並ぶ6組の精鋭たちを前にして3組のメンバーは踏み出せずにいた。

 彼らの実力は噂で耳にし、クラス対抗戦で己が目により確認済みだ。この面子では勝てない。五人組の全員が同じ結論に達している。


「お仲間が合流するのを待つのであれば、我々も手は出しません。雑談でもしませんか。ですが……6組は残りのメンバー全員でそちらの陣地を攻めていますよ? 耐えきれれば良いのですが」


 こちらの身を案じているような素振りを見せるライトの言葉に、3組の生徒たちが慌てふためく。


「その人数差では耐えきれないぞ。どうする?」


「幾ら相手が強かろうが、俺たちは人数で優っている。やるか?」


「いや、せめてもう一班の到着を待つべきだ」


「だが、その間に陣地が制圧されたら事だぞ」


 彼らの意見は纏まりを見せず、ただ時間だけが無為に過ぎ去っていく。

 このままではまずいと、しびれを切らした3組の一人が独断で斬り込もうと決断した、その時、この空間に飛び込んできた無数の人影があった。


「何をしている、何故、敵を……」


 この場に乱入してきたのは3組の仲間で、何もしない味方を確認して罵倒を口にする直前、彼らの視線の先にいる人物を目にして言葉を失っている。

 その目は何故こいつらがここにいるのだ。と如実に語っていた。

 そもそも、ライトたちが陣地を守るという事態は端から考慮すべきだったのだ。だが、彼らはそれを怠った。理由ははっきりしている。この四名以外の6組の生徒たちを侮っていたからだ。

 あいつらは四人に頼りっきりの烏合の衆。どうせ、ライトたちが陣地を奪う為に動き、他の連中は自分たちの陣地の周辺で何もせずに固まり震えているだけだろうと。


 だが、実際はどうだ。主戦力であるライトたちが守備を担当し、攻撃は他の生徒たちに託した。

 初めから相手の作戦を知っていれば、対応策は幾らでもあった。

 全員で攻めてくる6組の生徒たちを倒し、50点以上を得てから残った戦力で陣地に攻め入り、あのガラスの箱を破壊すればいい。

 どれだけ優れた者が相手であろうと四方から攻め入れば、誰かが隙を突いてガラスを割ることは可能だろう。ルール上、彼らを倒さなくてもいいのだ。


「今から陣地に戻って合流するか?」


 仲間が五人増え、10対4となり、こちらが圧倒的に有利な筈なのだが、それでも彼らは踏み込むことができないでいた。

 ファイリ、マギナマギナ、セイルクロス。この三名が近年まれに見る優秀な生徒だというのは、学園の関係者なら誰でも知っている事実だ。だが、それだけなら彼らは動けただろう。

 彼らの足を大地に縛り付けているのは――ライトアンロックの存在だ。

 ここにいる生徒たちは入学試験での一件も、チーム戦での戦闘、その両方を観てしまっている。圧倒的な暴力による、破壊と制圧。

 それは、まだ15、6の彼らにとって充分すぎる程の恐怖。得体の知れない何かが重圧となって、その体を束縛し続けていた。


 一向に攻め込む気配のない3組を見つめながら、ライトは思案している。

 更に相手が合流するのを待ち、時間を稼ぐことにより仲間の陣地制圧を待つのも、ありと言えばありなのですが……これ以上増えると、ガラス箱を破壊される恐れも出てきます。となると、今の内に対処しておいた方が楽ですよね。

 その結論に達したライトは笑みを絶やすことなく、数歩前に進んだ。

 3組の生徒たちは不意に間合いを詰めるライトに怯え、無意識に後退っていた。


「そうそう、一つ情報を提供します。6組のリーダーはこの私です。これは嘘ではありませんよ。神に誓って真実です」


 無造作に放たれたその一言に戦慄が走った。ライトがリーダーだというのは予想の範疇だったが、それが今、確かなものとなった。聖職者が神に誓う。つまり嘘はあり得ない。

 目の前のライトを倒し、陣地を陥落させれば自分たちが勝つ。目の前にぶら下がる勝利という名の誘惑は、あまりにも魅力的だった。


「そろそろ、私たちの仲間がそちらの陣地へ到達している頃合いでしょうか」


 ライトの呟きが正しければ、早いうちに陣地が奪われてしまう。そうなれば、背後から相手の増援がやってくるということだ。事態が悪化する前に手を打たなければ。

 その結論に達した生徒たちの目に決意の光が宿る。

 誘導が上手くいきましたか。ライトは内心で安堵のため息を吐いていた。

 目の前の10人を倒せば50点を得られる。そして、クラスメイトが相手の陣地にあるガラスの箱を破壊すれば更に50点追加で勝利となる。その順番が重要なのだ。


 先にこちらが敵を倒し、仲間が陣地を壊して勝利宣言がなされる。そうなれば、彼らは自らの働きが勝利に繋がったと感じ、自分たちに自信が持てるだろう。私たちに頼り切っているという風評を吹き飛ばすだけの、自信を得て欲しい。

 ライトは決して口には出さないが、そういう目論見があった。それ故に、今回の作戦を強引に押し通したのだ。

 ライトはクラスメイトを嫌っていない。むしろ、好んでいる。当初はライトを煙たがっていた彼らとも、最近では随分打ち解けてきた。

 表面上は入園当時と変わらないように見えるライトだったが、他者が思うよりクラスメイトを気に入ってしまっている自分を微笑ましく思ってしまう。

 ずっと、友どころか会話をする相手もいなかったライトにとって、6組はかけがえのない場所なのだ。


 自分を陥れたウーワ、リーワ姉妹に対しても思うところは無い。他人よりも家族を優先しただけの話だ。自分が怨まれる覚悟をしたうえでの行動だ、これ以上責める必要もない。その罪に対する罰を与えるような提案をしてチーム戦に巻き込んだが、それにも考えがあった。

 何もせずに、ただ許すだけではきっと彼女たちは納得しない。自分の行為が最低だと自覚しているだけに、罰が無ければ彼女たちは自分を許せないだろうと。


「まあ、半分楽しんではいますが」


「我々を見下しているのかっ! いくぞ、みんな!」


 偽りではない本当の笑みを見られないように、視線を地面に落とし顔を伏せ、含み笑いを堪えるライトの姿が自分たちを小馬鹿にしているかのように見えたようだ。

 3組の生徒たちが一斉にライトへと襲い掛かってきた。


「聖なる光の礫よ。愚かなる者共へ非情の雨を降らせよ! 聖滅弾!」


 ライトに狙いを定め半円状に陣を組み、突撃してきた鎧を着込んだ前衛たちに『聖光弾』の上位互換魔法だと言われている『聖滅弾』による、光の雨粒が豪雨となってその身に降り注ぐ。

 二人、三人と生徒たちが地面に横たわる。


「まだ、教わっていない魔法だとっ!」


 驚愕する生徒たちを睥睨しながら、マギナマギナは不満を隠すことなく、眉間に皺を寄せる。


「もっと派手に華麗に艶やかに殲滅したいのだがな」


 本当は炎を操り圧倒的な強さを演出したいのだが、クラス対抗戦では神聖魔法以外の魔法は禁止されているので、仕方なく『聖滅弾』を放つことにした。

 本来なら一年生で学ぶことのない魔法なのだが、ファイリと同様にまだ教えられてない魔法を幾つも覚えているので、彼女にとって何ら驚くような事ではない。


「ぬおおおっ、突撃しろっ!」


 光の雨を何とか乗り越えた彼らを待ち受けていたのは、一人の鉄壁だった。

 巨体を包む分厚い鉄の塊。見るからに重厚な盾。もう片方の手に握られているのは、磨き上げられた巨大な両手剣。


「ライトと戦いたくば、まず自分を倒すことだっ!」


 全身鉄の塊の上部には生気漲る男の顔がある。口からは鼓膜を貫く魂を揺さぶる叫びが発せられ、脇をすり抜けようとしていた3組の生徒たちが、抗えない力によりセイルクロスに注目してしまう。


「これは『咆哮』スキルかっ」


「素通りするとは悲しいではないか! 存分に武を競うとしよう!」


 どうしてもセイルクロスから目を逸らせない3組の生徒たちは、時間を掛けていられないと一気に数で押し切るつもりのようだ。

 後方に控えていた仲間から支援魔法が飛び、『聖滅弾』で受けた傷が癒え、更に強化魔法が施される。


「では、こちらも『全身強化』『魔力障壁』『体力増加』『破呪の衣』『祝福』『聖なる息吹』」


 杖を掲げたファイリから過剰なまでの補助魔法が、セイルクロスを強化させていく。


「な、な、それは司祭にならなければ……」


 マギナマギナの魔法に対抗して放たれた神聖魔法の数々は、2年になってから習うものだけではなく、司祭になって初めて扱える、高度な技能と高い魔力を必要とする魔法も含まれていた。


「すまぬな、ファイリ殿。こちらの準備は万全だ。かかってくるがいい!」


 魔法で保護されたセイルクロスにこのまま突っ込んでいくのが愚行だというのは、3組の生徒たちもわかっている。だが、今は時間が惜しい。

 マギナマギナの援護射撃に動く気配のないライトが参戦したら、勝ち目は皆無となる。


「ゼックはセイルクロスの足止めを頼む! あの咆哮を出させないようにしてくれ」


「了解だ!」


 『咆哮』スキルの効果が薄れてきたようで、残った三人の神官戦士見習いの内、一人がセイルクロスの前に飛び出し、残りの二人がその脇を走り抜けていく。

 この時、二人は同じ考えに至っていた。だからこそ、声を交わすことなく視線を合わせただけで、今後どうすべきか瞬時にして理解できた。

 陣地のガラス箱の前に立つ、怪力無双の問題児ライトアンロック。その堂々とした佇まいは同じ一年とは思えない風格を見せつけている。

 攻め手の二人が小さく頷くと、並走していた片方がほんの少し走る速度を落とし、前に出たもう一人が無謀な突撃を敢行した。


「いけえええっ!」


 大きな踏み込みからの、全体重を乗せた剣の振り下ろし。風の鳴る音と共にライトの脳天目掛け、磨き抜かれた刃が猛進してくる。

 ライトは右脚を一歩引き半身にすることにより、その一撃を寸前で躱す。鼻先を通り過ぎ地面に刃が衝突する時間を待つのも面倒だとばかりに、ライトが振るった剛腕から放たれた、手加減された拳は男子生徒の胸部へ吸い込まれた。

 鋼鉄の鎧に素手。どう考えても分が悪いのはライトなのだが、その一撃は鎧を大きく陥没させ、全身鎧で守られた鉄の塊だというのに、信じられないことに弧を描いて地面へと落ちた。


「バカがっ! 手を見せてみろっ!」


 どれだけ頑丈であろうが、拳を鉄鎧に叩きつけたらどうなるか。その答えは、手から骨が突き出ているライトの拳だった。


「素が出ていますよ。ファイリ」


「うるさい、黙れ『再生』」


 ファイリの手から溢れ出す温かくも優しい光が、ライトの右手を包み込むとその手が即座に修復される。


「よかった……もう少し、体を労わってくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 安心していつもの猫を被るファイリに、ライトは感謝の言葉と微笑みを返した。意図せずに見つめ合う様な形になったファイリの頬が徐々に赤く染まり出している。


「いい雰囲気のところ申し訳ないが、試合中だぞ」


「こちらの戦闘はもう終わりですよ」


 巨大な盾の下敷きとなっている3組の生徒を確認したライトは、続いて敵の助祭見習いへ視線を移すが、彼らは既にマギナマギナの『聖滅弾』の暴雨の前に屈していた。

 一人を囮にして陣地のガラス箱を破壊しようとしていた生徒は、ライトが試合開始直後から掘っていた落とし穴にすっぽりはまっている。


「ただいま、陣地を占領した6組のポイントが100を超えました。第一試合の勝者は6組となります!」


 丁度いいタイミングで試合会場に放送が流れると、ライトとセイルクロスは手を肩より上に掲げると、力強く打ち合わせた。


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