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物理特化の回復職  作者: 昼熊
入園編
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入学試験 後編

 午後に入り、模擬戦が開始された。

 場所は教団の敷地内にある戦闘訓練場で行われている。

 学園の対抗戦にも使われる施設なので、そこはまるで闘技場のような造りになっている。

 円形の訓練場をぐるっと取り囲むように観客席があり、出番を控えた受験者が少しでも参考にしようと、熱い視線を戦場に注いでいた。

 観覧者はそれだけではなく、在校生も多く見られる。優秀な新入生がいるかチェックをしに来ているようだ。


 模擬戦は接戦が多く、バランスのいいチームメンバーを教師陣が選んでいるおかげだろう。稀に際立った動きを見せる受験生もいたが、それは個人の優でチームとしての極端な偏りは見られない。

 ライトアンロックは序盤のチームに組み込まれていたので観客席ではなく、控室で順番を待っている。

 同じメンバーに選ばれたのは、特に目立った特徴もない中肉中背の青年が二人。二人とも神官戦士希望である。どう見てもライトの方が神官戦士向きなのだが、本人の希望により助祭ポジションとしての参加となっている。


「俺たちは村で野獣や魔物退治も手掛けていたからな、大船に乗ったつもりで後方に控えていてくれ」


「おう、助祭見習いじゃ、まだ魔法の一つも発動できないだろ。まあ、任せておきなって」


 故郷が同じらしく、腕に覚えがある二人の自信ありげな態度に、ライトは曖昧な笑みを返しておいた。作戦を立てようと相談を持ち掛けたのだが、二人はそんなものは必要ないと聞く耳を持たず、他愛のない会話で盛り上がっている。

 何を言っても無駄だとライトは諦めると、控室にいる試験官へと歩み寄った。近づいてわかったのだが、この試験官は筋力検査をしていた時にいた実技担当の教師だった。


「すみません、少し宜しいでしょうか」


「おっ、キサマは確かライトアンロックだったか」


「覚えていてくださったのですね」


「期待の受験生だからな。それで、何か用か」


「試合前に、もう一度ルールの確認をしておきたくて」


「お、そうか。感心だな。準備と用心はするに越したことは無い。何でも聞いていいぞ」


 腕を組みながら何度も大袈裟に頷いている教師に、ライトは最終確認をする。


「勝利条件は、相手を戦闘不能にするか降参させることで間違いはありませんか」


「そうだ。ただし、殺してはいかんぞ。死んでさえいなければいい。ここには優秀な神聖魔法の使い手が腐るほどいるからな、安心して怪我してこい」


 安心して怪我しろという励ましは、聖職者を育成する学園ならではの発言だろう。

 ライトは美味い返し方が思い浮かばず、苦笑いを浮かべるのみだった。


「あとは、武器防具についてなのですが」


「訓練場にあるものなら好きに使っていいぞ。ほら、部屋の壁に幾つもの鈍器や剣、盾が立てかけてあるだろう」


 確かに控室の壁には多種多様な武器と盾が並べられている。剣は鉄製で刃が潰されているが、それでも打ち所が悪ければ死ぬ恐れはある。

 ただし、鎧は一切置かれていない。助祭希望者は灰色に近い白の法衣に似た練習着。神官戦士希望者は、鉛色の全身鎧、もしくは部分鎧が事前に支給されていた。


「わかっていると思うが助祭希望が使用できる武器は鈍器だけだ。神官戦士希望はどんな武器でも構わないがな」


 イナドナミカイ教では基本、刃がついている武器の使用を禁じている。ただし、神官戦士はどのような武器を所持してもいいとされていた。


「武器、防具の持ち込みは禁止なのでしょうか」


「基本はそうだが、事前に申し出があれば、性能の差があまりない物限定だが、許可が下りることもある」


「なるほど。最後にもう一つ。試合中はどのような行為も禁止されていないのですか」


「構わんぞ。それこそ、足元の砂を投げつけようが、言葉巧みに相手を騙そうが、反則負けにはならん。命のやり取りで正々堂々何て言葉は無意味だからな」


「それを聞いて安心しました」


 その言葉に満足したライトは、今日一番の笑顔を教師へ返した。

 それ以上は質問もなかったようで、教師へ礼を述べると、並べられていた中で最も巨大な鈍器を選び出した。そして、時間が来るまで控室の長椅子に寝転び、英気を養っている。


「次、チームナンバー13は直ちに会場に向かいなさい!」


 ライトは瞼を開けると上半身を起こし、軽く柔軟をして、チームメンバーの後ろから会場に入っていく。

 控室から続く石造りの階段を上りきった先には、燦々と輝く太陽が見下ろす円形の広場があった。

 控室は地下にあったらしく、階段の出口には直径がライトの身長の半分程度の太さがある円柱が二本並び、その高さはライトの背丈を優に超えている。

 対戦相手は既に揃っているようで、ライトたちの姿を見て、小馬鹿にしたように鼻を鳴らしている者が二人ほどいる。


 ライトには対戦相手の三名に見覚えがあった。

 一人は何かと世話になった、ファイリ。そして、もう二人は大食堂で絡んできた、フォルデン、ロイマスの両名だった。


「いやー、奇遇だね。まさか、この面子でキミと戦うことになるとは」


 芝居がかった仕草で髪を掻き上げ、天を仰いでいる。

 その顔は嬉しそうに歪み、これが偶然ではないことを表情が語っている。


「偶然とは恐ろしいものですね。むしろ、必然。運命なのかもしれませんよ」


「確かに。キミたちはここで僕に完膚なきまでに叩き潰され、不合格となる運命なのだろうな」


 これが仕組まれた対戦なのは明らかだった。受験生も教師、試験官も含め、この対戦の異様さには気づいている。

 ファイリの優秀さは今更言うまでもなく、フォルデン、ロイマスの両名とも好成績を収めている。チームとしての総合力が今までの、どのチームよりも高いのは誰の目にも明らかだった。

 更に付け加えるなら、二人の前衛が着込んでいる鎧が、どう見ても控室に置いてあった鎧とは別物。素人目から見ても、それが高価なものであるのがわかる。目利きのできる一部の者は、その鎧に何かしらの強化魔法が施されているのを見抜いていた。


 目が合ったファイリは申し訳なさそうに頭を下げている。

 彼女もこの状況に納得していないようで、表面上は平静を装っているが、その目は氷の様に冷たく、侮蔑の視線を二人の背に突き刺していた。

 ファイリとしてはこの二人に支援魔法はおろか、治癒を掛ける気も失せている。


「いやー、清々しい程の屑ですね。ここまでくると、呆れを通り越して感心してしまいますよ。もしかして……」


 ライトは、そこで言葉を区切ると、彼らに歩み寄り小声で「審判も買収済みだったりします?」と囁いた。

 返答はなかったが口元の笑みが深くなったのが、その答えなのだろう。


「まだ、試合開始の合図をしていないぞ。両者は離れなさい。それに、相手を貶めるような発言は控えるように」


 模擬戦の審判が間に割り込み、ライトに向かい注意を促す。

 ライトは大人しく頭を下げると、後方で状況が掴めないでいるチームメンバーの元に歩み寄る。


「おい、ライト。あれって、魔力検査で断トツの一位だったファイリ様じゃねえ?」


「聖女ミミカ様の妹という……それに前衛の二人も確か、大司教様の息子で成績優秀だった……」


 試合をする前から完全に呑まれている二人に、ライトは慈愛溢れる笑みを向けて、口を開いた。


「確かに強敵ではありますが、よく考えてみてください。ここで、活躍すれば一躍有名人の仲間入りですよ。成績が良かろうと、実戦経験を積んだお二人に敵う訳がありません。ファイリさんは優秀とはいえ、後衛です。お二人が前衛を封じてくださるのなら、不肖の身ではありますが、何とか時間稼ぎぐらいは致しますので」


 ライトの励ましの言葉に気を良くしたようで、単純な性格の二人はやる気を取り戻し、相手を睨みつけている。

 この時、味方の二人では相手にならないことを見抜いていた。特殊な環境下で戦いに明け暮れる日々を過ごしてきたライトの実力を見抜く目はかなりのものだ。

 実際、あの嫌味な二人は性格が悪いだけのぼんくらではなく、幼少の頃から優秀な教師陣に教え込まれていたので、腕の方は確かだった。

 ライトは開始の合図前に壁際まで下がり、どうするべきか頭を捻る。


「では、両者準備はいいですか。試合、開始!」


 審判の号令と共にライトのチームメンバー二人が飛び出す。

 両者とも軽鎧に片手剣という身軽さを重視した装備を選んでいる。

 対する二人は、頭以外を覆う全身鎧を着込み、鞘から抜き放たれた剣は刃が広い両手剣のようだ。その剣も控室にあった既製品とは違い、名工の作である。

 左右から回り込むようにして襲い掛かるライトの味方に対し、フォルデンたちは構えることすらせず、その一撃を避けもしないで鎧の肩口で受け止めた。

 甲高い音が戦場に響いたかと思うと、折れた刃が宙に舞い光を受けて輝く。


 そのまま、呆気にとられていた二人に一閃。

 横薙ぎの一撃は軽鎧を容易く切り裂き、吹き出された大量の血が大地を染め、その上に二人が音もなく崩れ落ちた。

 それは腕の差もあったが、武具の性能が違い過ぎるのは誰の目にも明らかだった。どう見ても反則行為なのだが、審判はおろか見守る教師陣からも制止の声は掛からない。


「何てことを!」


 倒れ伏した二人に駆け寄ったファイリが初期魔法の一つである『治癒』を同時に発動させ、二人の傷口を全力で塞いでいる。

 そんなファイリを眺めている二人は大きくため息を吐く。


「ファイリ様、そんなやつら放っておけばいいのですよ。万が一、死んだとしても我々が罪に問われる――」


 ロイマスがその言葉を最後まで言うことは叶わなかった。

 睨みつけるファイリの視界に飛び込んできた物体が、物理的に相手を黙らしたからだ。


「えっ!?」


 轟音を上げ二人に激突したのは、入り口に配置されていた円柱だった。

 命中した二人は大きく弾き飛ばされ、ロイマスは柱を抱きかかえた格好のまま壁に激突している。


「なっ、なっ、なんだああああっ!」


 ロイマスは衝撃で完全に伸びていた。フォルデンは吹き飛ばされ地面を転がってはいるが、壁際で立ち上がりダメージがないようにみえる。その顔は屈辱で真っ赤に染まっているが。

 周囲には粉々に砕け散った円柱の欠片が散らばっている。

 観客の一部が馬鹿みたいに大口を開け、唖然としている。試合場を見下ろす形の観客席からは、ライトの行動が丸見えだった。


 試合が始まると同時に、入り口の円柱を軽々と引き抜き担ぎ上げると、まるで小石でも投げつけるかのように円柱を飛ばしたのだ。

 たまたまライトの方を見ていた観客は呆然自失で、未だに目の前の光景が信じられず、我が目を疑っている。


「おや、元気ですね。ところで、今ぶつかった瞬間に青白い光が見えた気がしたのですが、何ですかそれ」


 円柱を投げ終えた格好のままだったライトは、口元の笑みは絶やさないまま目を細め、フォルデンを睨みつける。

 ファイリも円柱を引っこ抜き投げつけたライトの怪力にド肝を抜かれたが、それ以上に気になる点があった。


「あれは、魔法の障壁……それも、聖域では」


 二人の傷を癒しながら、ファイリが呟く。

 激突の瞬間、何が起こったのか、ファイリの目は完全に捉え、理解していた。あの光は司祭以上の者のみが扱うことが可能な神聖魔法『聖域』

 聖域はあらゆる攻撃――魔法、物理攻撃を防ぐ魔法障壁である。ただし、発動と維持が難しく、長時間の制御はかなりの才能を必要とする。少なくとも、神官戦士希望の受験生が扱える魔法ではない。


「となると、あの鎧に付与されている効果か。くそがっ、何処まで救えない奴らだ……」


 あの鎧が魔法の力を付与された魔法の鎧であることを、ファイリは瞬時に見抜く。

 正直、反則なんて生易しいレベルの防具ではない。あの鎧は一般市民が一生かかっても稼げない程の価値がある。


「流石にあれは反則ではないのですか?」


 観客と同じく唖然としていた審判だったが、我を取り戻すと考える素振りを見せた後に、ちらっと観客席に視線を向ける。

 ライトもつられてその方向へ視線を飛ばすと、そこには身なりの良い人々が揃い踏みで、どうやら関係者席のようだと判断した。

 その中に一番偉そうにふんぞり返っている男がいる。あれがフォルデンの親である大司教なのだろうと、ライトは見当をつける。

 仕立てのいい白の法衣を着こみ、口髭をしごいている無駄な贅肉に包まれた男は、半眼でこちらを睨むと、顎を一度くいっとしゃくりあげた。それが何かの合図だったのだろう、審判は小さく頷くと、ライトへ向き直る。


「不正はない。これ以上、何か言うのであれば貴様を退場させるぞ」


「そうですか。神に仕える者が虚言を口にするわけがありませんよね。失礼しました」


 ライトは謝罪の言葉を口にすると、審判へ頭を下げる。

 審判は簡単にライトが納得するとは思っていなかったのだろう。頬を引きつらせながら、それでも鷹揚に頷いて見せた。


「貴様許さんぞ! 下賤の者が一度ならず、僕に歯向かうなんて! どれだけの馬鹿力を有していようが、我が一族に伝わる伝説の鎧を貫くことな――」


 再びフォルデンの口上が遮られる。

 轟音を上げ飛行する二発目の円柱の激突音が、全てを呑み込んだからだ。

 今度は会場内の殆どの人が目撃をした。フォルデンの周囲に青白い半透明の壁が現れ、円柱を遮り粉砕したのを。

 円柱は鎧の能力により防がれたが、フォルデン自身は壁に叩きつけられている。


「くそっ……何度やろうと無駄だということが、わからんのかっ!」


 ライトを睨みつけ叫んでいるつもりだったフォルデンだったが、視線の先にライトの姿は無かった。

 慌てて辺りを見回そうとしたフォルデンの今度は側面に円柱が命中する。


「はあうううぅ」


 攻撃は相も変わらず自動で防いでいるようだが、当人を囲むように壁を生み出しているだけなので、衝撃によりフォルデンの体は宙に弾き飛ばされ、壁際を転がり続けていた。


「側面からも無駄ですか。いやー、便利な鎧ですね」


 いつの間にか回り込んでいたライトは、相手の入り口付近に立てられていた円柱を引っこ抜き、新たな投擲武器としている。


「き、き、き、きさ、キサマ! 無駄だと言っているのがっ……」


「ダメージは通っていないようですが、円柱が迫る光景というのは結構怖くないですか。大丈夫だとわかっていても、本能は恐怖を抑え切れるのでしょうか」


 円柱を抱え上げたまま、穏やかな笑みを見せ、小さい子供に言い聞かせるかのように優しい声でライトが語り掛ける。

 その異様な光景にフォルデンの体は委縮し、全身が汗で濡れている。

 今更だが、彼は悟ってしまった。この相手は自分が喧嘩を売っていいような相手ではないことを。

 だが、彼の産まれついてのプライドが、それを認めるわけにはいかないと叫んでいる。下賤の者に屈するわけにはいかないと。


「では、第四投目です。しっかり、受け止めてくださいね」


 唸りを上げ自分に向けて突っ込んでくる円柱の迫力に目を閉じ、障壁が自動で円柱を粉砕するのを待つフォルデン。

 破砕された音が耳に届くと同時に、腰を下ろし今度こそは吹き飛ばされないよう、踏ん張るフォルデンだったが、その体が衝撃で吹き飛ぶことは無かった。


「よし、耐えきった! もう、円柱もないだろ……う」


 目を開けたフォルデンが見たのは、至近距離で自分を見つめるライトの姿だった。

 よく見ると、自分の左手首をライトがしっかりと掴んでいる。


「その壁は一定の威力に対して自動で形成されるもののようですね。ですので、こうやって掴むだけなら、何の問題もないようです」


「あ、あ、ああ、そうだ! 掴んだところでどうする気だ! お前はこれ以上何もできまい」


 ここからライトが至近距離で殴りかかったとしても、障壁に阻まれ攻撃は届かない。フォルデンの言っていることは間違っていない。

 だが、ライトは動じることなく笑みを返す。


「別に相手に攻撃が通らなくても、倒す方法は幾らでもありますよ」


 その言葉に危険な響きを感じ取ったフォルデンは、掴まれていないもう片方の手に握られた大剣を振るおうとしたが、その手首もライトに掴まれてしまう。

 二人は向かい合って手を繋ぐような形になってしまっている。

 一見するとかなり間抜けな光景だが、当の本人であるフォルデンの顔はこの先に待つ、得体の知れない恐怖に血の気が引いていた。


「では、今後も仲良くしてくださいね」


 そう言うと、ライトは万歳をするように両腕を大きく振り上げる。


「へえう?」


 フォルデンの視界に映るのはライトの頭頂部。

 今、彼はライトの頭上に逆立ち状態で存在している。その事を理解するより先に、目に映る光景が高速で流れていく。

 地面、ライトの顔、頭頂部、また地面――全身が激しく揺さぶられ、視界がころころと変わっていく。平衡感覚は完全に破壊され、今、自分がどうなっているのか理解が追い付かないでいる。


 観客席にいる人々はその光景に言葉を失い、目を逸らす者も少なくない。

 ライトに軽々と振り回され、何度も何度も地面に叩きつけられているフォルデン。

 地面は抉れ、土砂が舞い上がり、酷い惨状になっているが、ライトが手を休めることは無い。

 観客席に陣取っていた恰幅のいい男が審判に向かい何かを叫んでいるが、地面への激突音と観客席から漏れる悲鳴に遮られ、審判の耳に届かない。

 三分以上そうしていただろうか。手を休めたライトは、焦点が定まっていないフォルデンを見下ろし、大声で訊ねる。


「そろそろ、降参しませんか?」


 虚ろな目で、ぶつぶつと何かを呟いていたフォルデンだったが、その言葉で正気に戻ったらしく、荒い息を吐きながら、どうにかライトを睨みつけた。


「ふ、ふ、ふざけるなよ。こんなことを俺にして、無事に済むとおも……う、おええええっ」


 脳が揺さぶられ吐き気をもよおしたフォルデンが、吐瀉物を撒き散らしている。


「いやはや、気位の高さも、ここまでくれば冗談抜きで立派ですね」


「お前の攻撃は通用しないと判明したのだ……これぐらい我慢してみせる! さあ、大地に頭をこすりつけ俺に懇願しろ! そうすれば、命だけは」


 この状況でも強気の態度を崩さない相手に感心しつつ、ライトは残念そうにわざとらしくため息を吐いて見せた。


「負けを認めてくれませんか。仕方ありませんね……母直伝の痛みを知らない相手を反省させる秘技をお見せしましょう」


「ちょ、ちょっと待――」


 ライトは相手の言葉に聞く耳を持たず、両手を振り上げると同時に掴んでいた手を放した。


「まてええええええぇぇぇぇぇ……」


 フォルデンは上空へと打ち上げられ、その姿が徐々に小さくなっていく。

 その場にいた全員の顔が下から上へ向けられている。そして、大聖堂の頂上近くの高さまで放り投げられたフォルデンが、今度は重力に従い落下してきた。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!」


 フォルデンが大地に打ち付けられる直前にライトは衝撃を出来るだけ殺す様に、柔らかく受け止める。

 全身が小刻みに痙攣を続けているフォルデンにライトは優しく囁いた。


「負けを認めませんか」


「ふ、ふ、ふざけるな、その程度でええええええええええええええええぇぇ」


 話の途中でライトはもう一度、放り投げた。威力を調節して、今度はさっきよりも高度を上げている。

 ライトが同じ事を四回繰り返すと、恐怖により心が完全に折れたフォルデンが気を失い、勝者が決定した。


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