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物理特化の回復職  作者: 昼熊
クラス対抗戦
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事前の準備

 メンバーについてはひと悶着あったが、概ね生徒たちが満足する結果となった。

 その日から、授業の殆どがクラス対抗戦の練習に充てられることになり、特に組戦を重視して鍛錬に励んでいる。

 6組戦の主戦力はもちろん、ライト、ファイリ、マギナマギナ、セイルクロスの四名。その他16名の生徒は、組戦での立ち回りと各自の役割を何度も繰り返し、その身に染みつくように訓練を続けている。

 皆の期待を一身に受けている四人は、いつもよりも厳しめの鍛錬に励んでいた。


 ライトはまともに戦える相手がクラスメイトにはセイルクロスしかいないので、必然的に二人で戦うしかない。

 セイルクロスにとって、その一振り一振りが死を招く攻撃で、命を削りながらの鍛錬となっていた。命懸けの日々のおかげで盾術がめきめき上達しているのを、その身で実感しているので、辛いと思ったことは一度もない。


「ぐぬおおおおっ、まだまだ!」


「これも受け切りますか。なら、速度と威力を上げますよ『上半身強化』『下半身強化』」


 両手に一本ずつ構えたメイスの振り下ろしを、巨大な盾で耐え、時に受け流すセイルクロス。その盾術に確かな手応えを感じているセイルクロスへ、ライトは適度に威力を込めた一撃を叩きつけた。


「ふぐおおおおおぅ!」


 さっきとは比べ物にならない強烈な打撃に、盾を持つ手が痺れる。そこへ容赦のない鉄塊の雨が降り注ぐ。

 練習用の盾とはいえ、その強度は市販の盾に匹敵する。というのに、その表面が幾つも陥没し、途切れることのない鉄塊の暴風雨にセイルクロスの巨体が浮き上がりそうになっている。


「少し本気出しますよっ!」


 左手に持つメイスを投げ捨て、一本のメイスを両手で握りしめると、横薙ぎの一撃が盾と激突した。

 それが限界だった。盾の耐久力が限界を超え、粉砕された盾が鋭利な破片となり周辺に飛び散る。その向こう側にいたセイルクロスも無事で済むわけがなく、仰向けの状態で低空を滑空して、地面に墜落する。

 砂埃を巻き上げ、学園のグランドを転がり続けていたセイルクロスがようやく止まると、白目を剥いて体が小刻みに痙攣していた。


「つい夢中になって、力を入れ過ぎたようです」


 折れ曲がったメイスを足元に置くと、セイルクロスに歩み寄り『治癒』を発動する。

 全身が土に汚れ、左手が本来向いてはいけない角度に折れ曲がっていたのだが、魔法により完治したようだ。


「大丈夫ですか」


 ライトが優しく語り掛けると、瞳に力が戻り、セイルクロスが勢いよく上半身を起こした。


「おう、大丈夫だ。ただ、妙な夢を見たな。大きな崖の向こうに死者が集まる町があり、そこで祖母が手を振っている気がしたのだが……」


 それは臨死体験では、と喉元まで出かけた声を呑み込み「少し休憩しましょう」と微笑んで見せる。

 そんな練習風景を熱心に見つめている複数の目が合った。

 校舎の窓越しにグランドを観察する他クラスの生徒たち。

 そして、学園の用務員や警備員の格好をした、目つきの鋭い面々。その者たちは興味のない振りをしながらも、つぶさにライトの動き観察して手元の手帳に何かを書き込んでいる。


「ライトさん、お疲れ様です。少しお話があるのですが」


「おや、ファイリ。そちらも練習が終わったようですね。では、あそこの木陰にでも」


 言葉の響きに人を避けたいという意思を感じたライトは、二人で木陰のベンチへ移動した。ライトが腰を下ろすと、少し離れた場所にファイリが座る。


「でだ、ライト気づいているか?」


 二人きりになると素の口調へ変化するファイリに慣れてしまっているライトは、ごく自然に受け止めている。


「ここ数日、こちらの様子を窺っている視線の事ですか?」


「ああ、それだ」


 ライトとしては警戒や奇異の視線には慣れているので、今更どうこうする気はないようで、気にも留めていない。


「どうやら、奴らは生徒やその親が雇った盗賊ギルドの連中らしい。我々……特にライトについて重点的に調べている様だぜ」


「がばがばの警備体制ですか」


「まあ、関係者が招き入れているかもしれんぞ。警備側としても苦しいところじゃねえか」


 権力者の指示により取り締まらないように厳命されている可能性もある。とファイリは暗に口にしていた。

 そして、その対象に心当たりがあり過ぎていた。


「しかし、これだけ大掛かりに我々を調べてどうするのですか?」


「あれだ。クラス対抗戦へ向けてだろ。出来るだけ情報を集めておきたいのだろうな。下位のクラスに負けるというのは、かなり恥らしいぞ。特にエリート集団の1組が6組何かに負けてみろ、末代までの汚点になりかねないそうだ……くっくっく、悔しがる顔が目に浮かぶようだぜぇ」


「楽しそうですね。すっごく邪悪な顔していますよ。情報収集ですか。それを逆手に取ることも……」


 ファイリもエリート組の筈だったのだが、当人の意志により6組へ入ることとなった。それは、ライトアンロックに興味があり、その影響が大きかったのは紛れもない事実だ。

 しかし、それだけではなく、入学試験で共に戦ったチームの二人組のような差別を当たり前だと考えている輩に、うんざりしていたことも要因の一つだった。


「でもまあ、一位を取れたら楽しそうではありますね」


 降りかかる火の粉は問答無用で蹴散らすつもりだったライトとしては、相手が何か悪巧みをしようと正面突破をする気でいる。

 今までの流れを踏まえて、大司教とその息子たちが仕掛けてくるのは確実だろうと考えていた。


「歓談中にすまない。キミはライトアンロック君で間違いないかい?」


 そう言って話に割り込んできたのは、ライトたちが座るベンチの前に立つ、細く癖のない短い金髪に碧眼の一人の青年だった。

 鼻筋が通っていて、唇は薄く色は薄い赤。肌は褐色気味でイナドナミカイ学園の生徒である証――白の法衣を着込んでいる。

 一目見て、ライトはその法衣の下に隠されている身体が、相当鍛えられていることを察知した。自分も大きめの法衣を着込むことにより、体型を誤魔化しているので、法衣の上からでもおおよその見当はつく。


「はい、そうですが。貴方は?」


「これは失礼しました。僕は2組のサウスノースといいます」


 優雅に一礼をして名乗る、サウスノースを見つめるライトの目がすっと細くなるが、相手が顔を上げた時にはいつもの薄い笑みが貼りつけられていた。


「サウスノースって……あの、ゼロのサウスノースさん?」


「その異名で呼ばれることもありますね」


「ゼロノサウスノースさんですか」


「ライトさん、フルネームじゃないですよ。あることから、ゼロと呼ばれているだけです」


 柔らかな笑みを湛える、見るからに気の良さそうな青年をじっとライトは見つめている。

 穏やかな物言いに丁寧な口調。裏表のなさそうな対応に、ライトはここが聖職者を育成する学校だったことを、今更ながらに思い出していた。

 規格外の仲間に囲まれていたので、ごく普通の聖職者らしい人を見ると物珍しく思ってしまうライトだった――自分の事は棚に上げて。


「ゼロですか。変わった異名ですね」


「ゼロというのはギフトを与えられていないからですよ。この世界では名のある方々はギフトを所持していますからね。この世界に置いてギフトの有無だけで、その人の全てが否定される。そういった考えを私は払拭したいのですよ。その為に僕はもっともっと強く、自分の力を示さなければなりません」


「ご立派な考えだと思いますよ。貧困の差やギフトの有無は、当人には全く関係のない事柄ですからね。ギフトを幸運にも与えられた人は、神に感謝するのは当然ですが、だからといって驕って良いわけではありませんから」


 相手の主張に同調して、ライトは頷き肯定の言葉を口にする。

 その反応が想像と異なっていたようで、サウスノースが少し目を見開きライトを凝視していた。


「まさか同意してくれるとは思いませんでしたよ。貴方のような強力なギフトを所有している方が」


「与えられる方も望んだわけではないのですよ。過ぎた力というのは他人も自分も無作為に傷つけてしまうものですから」


 悲しげに笑うライトを見てサウスノースが口をつぐむ。

 今まで、恵まれた人間としか思っていなかった、ギフト所有者の思いもしなかった意外な一面に、言葉を続けることが出来なくなってしまう。


「おや、そんなに深刻な顔をなされなくても良いのですよ。実際、大半のギフト所有者が恵まれているという点は同意しますから。それで、何か用があったのでは?」


「そうでした。僕はギフトを得ることが出来なかった人々の指針になりたいのです。その第一歩として貴方に勝ちたい。強力なギフトを所有するライトアンロックに勝つことにより、まずは、この学園にいる同志に証明したいのです。ギフトがなくとも、人はここまで強くなれると!」


 拳を握り締め熱く語るサウスノースをライトは眩しそうに目を細めて、眺めている。


「そう言う訳でライトアンロック君。キミには勝ち抜き戦に出て欲しい。出来れば個人戦を選んで欲しいが、僕は神官戦士を目指しているので、助祭を目指すキミとは戦えないのです。となると、正々堂々一対一で戦うには勝ち抜き戦しか残されていません」


「そうですね。チーム戦では個人の優を決めるのは難しいでしょう」


「ええ。ですから、ぜひ勝ち抜き戦の、それも一番手として出場して欲しい。お互い、万全の状態で思う存分力を比べてみたい。キミと会話をしてその思いは強くなった。見返したいという気持ちは今もあるけど、それよりもキミと本気で戦ってみたくなった。了承してくれないだろうか?」


 真剣な眼差しを正面から受け止め、ライトは笑みを消し、ベンチから腰を浮かすと手を伸ばす。

 その手をサウスノースはしっかりと握りしめた。


「善処させていただきますよ」


「ああ、楽しみにしている。急に無理を言ってすまなかった。対抗戦が終わったらじっくり話をしたいね。それじゃあ」


 憑き物が取れたような爽やかな表情で、歯を輝かせながらニッコリと笑い、ライトへ手を振りながら去っていく。

 ライトも軽く手を振り返し、彼の姿が見えなくなるとベンチに腰を下ろした。


「良いのか、ライト。あんな約束をして」


「爽やかな好青年とはまさに彼のような人を指すのでしょうね。ところで、サウスノースさんは、どれ程の実力者かご存知ですか?」


 二人のやり取りをやきもきしながら聞いていたファイリが心配しているが、ライトは曖昧に微笑むと、彼について訊ねてきた。


「かなりの腕らしいぞ。ギフトは所有していないが、それを十二分に補うスキルを所有している。噂では10以上のスキル保有者って話だ。生まれのハンディーを努力により乗り越えてきた、ギフトを持たぬ者たちの期待の星だぜ」


「それはそれは。戦いにくい相手ですね」


 ライトは権力者に立ち向かう者として認知度が高く、表立って応援する者はいないが、実は結構隠れファンも多い。

 だが、サウスノースの人気には敵わないだろう。ギフト保有者は全体の三割程度だと言われている世界なので、彼を応援する者はかなりの数になる。決定的な違いは、ギフトを持たぬ身内がいる権力者の中にも彼を支援する者がいるということだろう。


「ますます、敵が増えそうですよ」


 そう言いながらも、悲観しているわけでもなく、いつもの内心が全く見えない薄い笑みで顔が覆われている。

 その顔からは感情が読めなかったファイリは、訝しげにライトをいつまでも見つめていた。





「首尾はどうだった」


 夜の帳が完全に下り切った首都の深夜。富裕層のみが住むことを許される首都の一画に建てられた、一際目を引く豪邸の一室。

 装飾過多の目に悪い椅子に深く腰掛け、ブランデーをなみなみと注いだグラスを持つ、趣味の悪い配色の服を着込む腹の弛んだ男。

 その前に片膝を突き、報告をするフード付きのマントを目深にかぶった何者かがいる。手渡された報告書に太った男はざっと目を通すと、ブランデーを一気に飲み干した。


「ふーーっ。アレは勝ち抜き戦に出場するのだな」


「会話を盗聴した限りでは間違いないかと」


 その報告に満足そうに頷く男。


「息子に恥をかかせ、それどころかワシに歯向かって見せた、ライトアンロック……今度こそ、アレを追い込むぞ。学園内での殺傷沙汰は流石に不味いが、対抗戦内での事故ならば何も問題はあるまい」


 男――大司教は今までの屈辱を思い出し、手にしたグラスが軋みを上げる。

 息子を叩きのめしたことだけでも万死に値する愚行だというのに、あ奴は平然と日々を過ごしている。それだけで腸が煮えくり返るようだ。住処をあばら家に替えさせたというのに、問題なく住んでいるというではないか。

 せめてもの優しさとして穏便に追い出すつもりが、全くめげていないライトの態度が余計に大司教の癇に障ったようだ。

 もっとも、追い出した後は、人目のない場所で殺すつもりだったわけだが。


「依頼で首都を離れた際に襲う手筈だったな」


「それは以前も申した通り、手の者は何者かに襲われ、縄で縛られた状態で街道に放り出されていました」


 既に報告は受けていたが、高い金を払っている大司教としては、こうやって嫌味の材料にでもしないとやっていられない。


「奴も馬鹿ではないということか。凄腕の護衛でも雇っている可能性がある。あの闘技場で稼いだ金か。いずれ、あれも全て奪ってやるとしよう……ならば、対抗戦はもってこいか。如何に優秀な護衛であっても、生徒たちの試合に参加するわけにもいくまい。お前もそう思うだろう?」


 大司教はフードの男ではなく自分の隣に佇む、鮮血のような髪色の女性に声を掛ける。


「ええ、そうですね」


 決して低くない実力だと自負しているフードの男ですら、目の前にいる女の気配を感じることができない。存在が希薄過ぎる。

 見た目は悪くない、それどころか美人だと言えるだろう。だが、特徴が無いのだ。目も鼻も口も、平均的というか、際立った部位が見当たらない。

 大司教の秘書だと説明は受けているが、フードの男にはその女の方が上の立場としか思えないでいた。言葉では言い表せない、薄気味悪さを女から感じる。

 そんな男の心中を察することなく、暗い笑みを浮かべる大司教のくぐもった笑い声が、部屋に充満している。

 フードの男は沈黙を維持したまま時が流れるのを、待ち続けていた。


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