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物理特化の回復職  作者: 昼熊
クラス対抗戦
34/42

初めての団体行動

「こりゃ、見事なもんだ。早速、解体して溶かしていくとするか。さすがに、俺一人じゃ手が足りねえから、弟子共を呼ぶとして……」


 首都に帰ったライトは何より先に巨大ゴーレムをメイス専門店へと運び込んだ。

 店主はその大きさと体を構築する鉱石に興味津々で、さっきから独り言を呟いてはゴーレムの体を隅から隅まで調べている。


「頂いたメイスが歪んでしまったので、ここに置いていきますね」


「ん、ああ」


 空返事な店主に若干不安を覚えたが、今の状態では会話するだけ無駄だろうと、一応置手紙を添えて店を出た。

 時刻は昼過ぎ。住処に帰るにしても少し早く、今日は陽の日なので学園もやっていない。

 特にすることが無くなったライトは路地で佇み、今後のことを思案し始めた。


「食料の買い出しは暫く必要ないですね。買い込んだ食料が一ヶ月分はありますし」


 母から譲り受けた収納袋の入れた物の時間が停止する能力を活かし、袋の中には大量の食糧が詰め込まれている。


「昼食は終えましたね」


 メイス専門店で交渉に時間がかかることを配慮して、先に食事を済ませたのだが、話し合うどころではなかったので時間が大量に余ってしまった。


「皆は今日一日自由時間に充てると言っていましたし」


 野宿ばかりが続いていたので、ちゃんとしたベッドで寝たいとライトを除いた三人は、首都に着くや否や、各々の寝床へと帰っていった。

 ライトはどんな場所でも熟睡が出来て、起きたい時刻に狙って起床することが出来る体質なので、体に疲れが全く残っていない。


「となると、ギルドマスターにお土産でも渡してきますか」


 そう呟いたライトは、思わず自分の唇に手を当てて口元が綻んでしまう。


「こうやって独り言を口にするのも久しぶりですよ」


 今までの人生では独りで過ごす時間の方が長かったので、癖になってしまっていたが、この数週間は常に誰かが傍にいたので、話し相手に困ることはなかった。

 それがおかしくもあり――少し嬉しくもある。

 足取りが気持ち軽くなったライトは、弾む心のに身を任せたまま冒険者ギルドへと向かうことにした。





「おう、ライト、無事に依頼を終えたようだな」


 ギルドマスターの個室の扉を軽くノックして足を踏み入れると、書類の山を睨みつけ残像が見える速度で処理をしている女性がいた。

 いつものラフな男服で長い髪を細い鎖で纏め、必死になって書類と格闘しているようだ。


「滞りなく終了しました。そちらはお忙しいようですね。帰還の挨拶に来ただけですので、また日を改めてお伺いします」


「おう、すまんな。もうすぐ、あれがあるからな。人の出入りが激しくなるわ、キナ臭い動きがあるわで、てんやわんやなんだよ」


「そうでしたか。お土産の酒はここに置いておきますので、夜に楽しんでください」


「ありがとよ。片付いたらお前とのストレス発散――手合せしてやるからな」


 ライトは片手を上げて、軽く会釈をしてから扉から退室した。

 それから、窓から差し込む光が弱まり、首都を闇が覆い出す頃にようやく終わりが見えてきたギルドマスターが手を止め、椅子の背もたれに全体重を預ける。


「はああああ、面倒だね。こんな雑用は他の誰かがすればいいものを。体力勝負の仕事だけ回してほしいもんだ。まあ、これもある意味体力勝負だが。さてと、ライトの土産を頂くとする……あっ」


 部屋の隅に置かれた土産を手に取った瞬間、ライトに伝えたいことがあったことを思い出した。だが、そこまでする必要はないかと考え直し――疲れ切っていて面倒だったという説もあるが、ギルドマスターは地酒を瓶ごと煽った。

 ギルドマスターの机の隅には他の書類と分けて置かれていた資料がある。それには、大司教と盗賊ギルドの繋がりについての情報が事細かに記載されていた。





 首都に帰還した次の日。ライトたち四人は久しぶりに学校へ登校していた。

 ギルドの依頼で長期間学園を休むことは規則違反ではないのだが、まだ一年でそんな大きな依頼を受ける者は少ないので、ライトたちの知らぬところでクラスの話題になっていたようだ。

 教室に入ると、女性はファイリに、男性はセイルクロスに密集し質問攻めにしている。ライトとマギナマギナも当事者なのだが、二人に比べると話し掛けにくいようで、二人の周りには誰もいない。


「おーい、授業始めるぞ。ほら、席に座った座った」


 担任のカリマカが教卓の前から注意すると、生徒たちが蜘蛛の子を散らす様に自分の席へと戻る。


「ライトたちも戻ってきたようだな。クラス全員居るな。なら丁度いい、今月末のクラス対抗戦について説明するぞ。皆、知っているとは思うが」


 その言葉に、最後列に並んで座っている三人――ライト、セイルクロス、マギナマギナが同時に首を傾げた。ライトの前に座っているファイリは大きくため息を吐いている。


「お前らはもっと世の中の出来事にも興味を持て。じゃあ、何もわかっていない三人にもわかるように、噛み砕いて説明するぞ」


 黒板を手の平で力強く叩き、全員の視線を集めるとその巨体に似合わない、美しい字体で白い文字を書き連ねていく。


「まず、クラス対抗戦は幾つかの競技に別れている。まず、ざっと説明するからちゃんと聞いておけよ。個人戦、五人組による勝ち抜き戦、四人一組のチーム戦、組戦となっている」


 一行ずつ少し間を開けて書かれた競技名を、生徒たちは真剣な顔で見つめている。その様子にカリマカは満足したようで、個人戦と書かれた文字を指差して、声を張り上げる。


「上から順に説明するぞ。個人戦は助祭部門と神官戦士部門に分かれている。それぞれ、二名ずつの参加となっている。つまり、合計四名の生徒が出場することになるな」


 クラスメイトたちはお互いに顔を見回し、早くも誰が参加すべきか小声で囁き合っている。


「おいおい、気が早すぎるぞ。基本的に自薦他薦どっちらでもいいが、まあ、他の競技も聞いてから決めてくれ。次に五人組になるが、これは各クラスから五人選び、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順で戦っていく。先鋒が五人抜きすれば、他の四人は戦わなくても勝ちとなる」


 その説明を聞いた瞬間、全員の視線がライトに集中した。その目は、こいつ一人いればいいんじゃないか? と語っていた。


「お前らの気持ちは充分伝わったが、次の説明をするぞ。チーム戦は各クラスの代表四人一組で他クラスの四人組と戦い、全員戦闘不能になるか降参した方が負けとなる」


 今度は、ライト、セイルクロス、ファイリ、マギナマギナへと生徒たちの視線が移動する。このクラスで実力を考慮するなら、この人選で間違いないと誰もが思っていた。


「わかりやすいな、お前ら。そして、最後の組戦は……クラス全員対、他クラス全員で戦うことになる。全員強制参加の多人数戦だな」


 その言葉に生徒たちがざわつく。6組だけでも20名在籍している。他クラスも同程度いる筈なので、40人以上もの生徒による団体戦に怖気づく者もいるようだ。


「軽く説明はこんなものだ。誰か質問はあるか?」


 何人かがすっと手を挙げたのを確認すると、カリマカはその中の一人を指名した。


「ファイリ」


「はい。組戦以外の競技は一人で幾つも参加しても大丈夫なのでしょうか?」


 大半が同じ疑問だったらしく、同意を示す様に大きく頷いている。


「以前は……というか、去年までは全競技に同じ奴が参加することは可能だった。だがな、何故か今回からは組戦を除いて一人、一競技しか参加できなくなってな。不思議なこともあるものだと思わないか、ライト」


 名指しされたライトは笑みを湛えたまま、手の平を上に向けて肩を竦めるポーズをしている。


「本当に、何故今回からなのでしょうね。まるで……誰かを複数参加させたくないみたいじゃないですか。ねえ、ファイリさん」


 ライトは惚けると視線を振り向いていたファイリに移した。


「不思議な事があるものですね、マギナマギナさん」


 素知らぬ顔で小首をかしげると、斜め後ろのマギナマギナに流し目を飛ばす。


「ふっ、全く面妖な」


 わざわざ立ち上がり、鼻で笑うマギナマギナ。三人の茶番を見つめた生徒たち全員が(お前たちだよ!)と言いたかったがぐっと堪えている。

 実際、この三人の実力が抜きんでていることは周知の事実なので、他クラスの生徒の親や、担当している教師たちが根回しをして、ルールを変更したのだろうというのは誰もが予想していた。


「他組の生徒や教師たち……特に1組や2組は自分たちの地位を守るのに必死だからな。意地でも6組には負けたくないようだ。他に質問はあるか」


 今度はすっと手を挙げたのはライト一人しかいなかった。


「ライト」


「はい。このクラス対抗戦は点数配分とかは決まっているのでしょうか?」


「良い質問だ。まず、最も点数が高いのは組戦だ。これが一位300点、二位100、三位80、四位60、五位40、六位20となっている」


 一位だけが異様に高いのには理由がある。優秀な人材を集めている1組を勝たせる為だ。普通に考えるなら、全員が他の組より優れている生徒たちが負けるわけがない。それを考慮した上で決められた点数配分だと、まことしやかに囁かれている。


「個人戦は一位から100、80、60、50、40、30、それ以下は一律10となっているが、個人戦は助祭部門と神官戦士部門で二人優勝者が出るのを忘れるなよ。チーム戦と勝ち抜き戦は同じで上から150、100、80、60、40、20となっている」


 このクラスで実は最も負けず嫌いであるファイリは、ざっと計算をしていた。

 組戦でまず一位を取る。更に勝ち抜き戦にライトを強制的に参加させて、全員抜きを達成。個人戦の魔法部門に俺とマギナマギナで一位二位を独占。後は最下位だとしても300+150+100+80+10+10+20で……670か。1組が他を全て最高位の成績だったとしても、630が限界。よっしゃあ! これで優勝は貰ったな。

 勝利への道筋が見えたファイリが俯いた状態で暗い笑みを浮かべているのだが、誰もその事に気付いていない。


「残り二週間後に競技参加者のメンバーを提出しなければならない。それまでに、全員で誰が何に参加するか決めておくのだが……何なら今から決めて、対抗戦に向けて練習を始めても構わんぞ」


 カリマカの提案に全員が乗り気らしく、場を仕切る代表者としてファイリが教卓に立つこととなった。教師は傍観者に徹するようで、椅子を教室の隅に持って行き見物と洒落込むようだ。


「では、代表者を決める前に、これだけは言っておきます。皆さん、優勝をもぎ取りに行きましょう!」


 その言葉に生徒たちから驚きの声が漏れる。誰もがライトたちがいるのであれば、勝てるのではないかと淡い希望は抱いていた。だが、最下層の自分たち6組がそれを口にするのは、はばかれていた。

 それをファイリは臆面もなく断言してみせたのだ。


「クズのたまり場と陰口を叩かれている6組が1組に勝つ。これ程、爽快なことがありますか。エリート面をしている彼らに、一度挫折を味あわせて上げましょう」


 そう言って微笑むのではなく、悪戯っ子のように満面の笑みを浮かべたファイリに追従して、クラス中から声が上がり始める。


「ぼ、僕もやるよ!」

「私も頑張る!」

「前から1組の奴らには嫌な思いをさせられてきたからなっ!」

「やろうぜっ!」

「打倒1組ですよ!」


 沸き立つ生徒たちを眺めながら、ファイリは闘志を抑えていた。

 勝つためにはまず士気を高める。そこは成功した。次はクラス全体の戦力アップと作戦が重要だと、素早く考えを巡らせている。

 外見は淑女の見本とも言えるファイリなのだが、その内面はお祭り好きの負けず嫌いである。こんな面白そうな行事に血が滾らない訳がないのだ。


 それはファイリのみの話ではない。セイルクロスは強者との戦いに思いを馳せ、マギナマギナは自分の力を見せつけ目立つチャンスだと意気込んでいる。

 クラスの中で独り冷静に見えるのはライトだけだった。

 だが、内面はかなり浮足立っている。独りぼっちが基本だったライトにとって、こんなにも大人数で一つのことに取り組むといった経験が皆無なので、勝ち負けではなく純粋に皆で楽しもうと心が弾んでいた。


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