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物理特化の回復職  作者: 昼熊
二学期編
31/42

廃鉱山へ

 チェリーブロッサムズでの初日に観光がてら、本来の目的である希少な鉱石が採れる鉱山の情報を集めておいた。

 意外にもかなり近くにある鉱山らしく、発掘現場まで至る道も舗装され、馬車でも容易に辿り着けるとの情報も既に得ている。


 数年前までは魔物も存在しない平和な鉱山だったらしいのだが、最近、岩が寄り集まり人の形を成した魔法生命体――ゴーレムが数体現れたのだ。

 それならば、もっと騒動になってもよさそうなものなのだが、特に騒がれることもなく、冒険者ギルドに討伐の依頼が来ることもなく、今に至る。


 理由としては幾つか挙げられるのだが、まず、その鉱山はとっくの昔に廃山となっていたこと。全盛期はかなり鉱石が採掘されていたらしいが、今は見る影もなく誰も利用していなかった。

 更に、ゴーレムたちは鉱山から出てくることもなく、敵意を向けなければ襲ってくることもない。有体に言えば無害なのだ。それでも当初はゴーレムを警戒して討伐体が組まれた事もあった。


 だが、その際に冒険者たちは思わぬ収入を得ることとなり、当初の目的とは異なる理由で鉱山は今、結構な数の冒険者たちで賑わっている。

 彼らが何を目当てにしているのか、それはゴーレムを倒した際にドロップされる鉱石と魔石の数々である。ゴーレムはかなりの強敵なのだが、危険に見合う利益を得られることが知れ渡り、絶好の稼ぎ場となっているようだ。


「だから、廃鉱山の近くがこんなに活気づいているのですね」


 ファイリが周囲を見回しながら、物珍しそうに時折露店の品を覗き込んでいる。

 町から片道一時間ほど進んだ鉱山の入り口付近には、簡素なテントや丸太を組み合わせた家屋が並び、ライトは自分の生まれ育った村よりも人口が多そうだと、一人感心していた。


「儲かる場所には人が集まりますから。結構大手の商会も臨時で店を出しているそうですよ。私も一口乗らないかと誘われました」


 馬車と馬を指定の場所で預けた御者は、初めてここを訪れたライトたちの為に道案内を買って出ている。


「確か鉱山で現れる敵はゴーレムのみと聞いているのだが、それは本当なのだろうか」


「ええ、間違いありませんよ、セイルクロス様。大きな個体であればあるほど、希少な鉱石を落とすらしく、腕に実力がない冒険者は適度な大きさのゴーレムとしか戦わないそうです。それに、ここのゴーレムは不思議なことに、敵対した相手を殺さないのです」


「非殺傷だと……魔法生命体の割に人道的なことだ」


 帽子のつばを指でぴんっと弾き、ニヤリと笑う行為をマギナマギナはカッコいいと思ってやっているのだろうなと、仲間たちは全員わかっていたが誰も指摘しない優しさがあった。

 ライト一行は多くの冒険者たちの好奇の視線に晒されているのだが、誰も意に留めず堂々とした足取りで、鉱山の入り口へと向かっている。


 冒険者たちが思わず視線を向けてしまうのも無理はない。

 白の法衣という聖職者として定番の格好なのだが、艶やかな黒髪が風にそよぎ、その髪を撫でる一連の動作すら、人を魅了してやまない美貌の少女――ファイリに目を奪われてしまっている。

 その隣には緑の帽子と緑の法衣を着込んではいるが、前を閉じることなく法衣を開け放っている。その中に着込んでいる布面積の少ない服装で、惜しみなくその肌を晒しているマギナマギナに、男たちの鼻の下が伸びていた。


 二種の異なる美しさを競うような女性陣を挟むように並んでいる男達も、彼女たちに負けずとも劣らない個性を輝かせている。

 鋼色の全身鎧を紐で括った状態で、それを軽々と背に担いでいる筋肉の鎧を纏っている、短髪の男、セイルクロス。

 反対側には黒の法衣を着込み、柔和な笑みを浮かべた一人の青年ライトアンロック。

 それだけなら、特筆すべき点は無いのだがその肩に担いでいる巨大過ぎるメイスが異彩を放っている。


 だが、本当に人々の注目を浴びている点はそこではない。そのメイスの先端に荒縄が括られていて、その縄の先には体をきつく縛り上げられ、引きずられていく何人もの厳つい男たちがいたからだ。


「鉱山の入り口に冒険者ギルドの出張所があるのですよね?」


「はい、そうです。鉱山で得たアイテムの換金、ギルドカードの更新や依頼を受けることも可能です。あと、犯罪を取り締まる業務も行っています」


 ライトに問いかけられ、ファイリが上辺は完璧な微笑みを返す。


「ぱぱっとこの人たちを引き渡してから、鉱山へと急ぎましょうか」


 鉱山目当てにやってくる冒険者たちを狙い、金品を巻き上げるついでに、ファイリとマギナマギナを襲う目的だった荒くれ者たちは、あっさりと返り討ちに会い、罰を待つ身となっている。

 ファイリやマギナマギナに下心を抱いていた人々も、この光景を見た瞬間にやましい気持ちは萎え、ライトたちが通り過ぎるのを黙って見守っていた。


「では、私は冒険者ギルド出張所隣の宿屋でお待ちしています。皆さん無理はなさらないように」


 荒くれ者をギルド職員に引き渡した後に、廃鉱山探索許可書と内部の地図を買い取ると、そこで御者とライト一行は別れることになった。

 そこから鉱山入り口までは一本道なので迷うこともなく、入り口の見張りに許可書を見せ、中へと進入する。

 内部はライトが想像していたより道幅も広く、全員が横並びになっても少し余裕がある。高さも充分で、メイスを掲げた状態で本気で跳躍しても、先端が天井に届くことはなかった。


「これだけあれば、思う存分暴れられそうですね。足元も動きやすそうですし」


 側面や天井は岩肌剥き出しだが、地面は平に均されている。鉱石を運びやすくする為に整地された坑道なのだろう。


「明かりも壁際に設置されていますね」


 荷物の中からランタンを出そうとしていたセイルクロスが、ファイリの呟きを聞いて背負い袋へ突っ込んでいた手を止めた。

 ライトは『夜目』スキルがあるので暗闇でも問題ないが、仲間たちはそうはいかない。

 坑道は真っ直ぐに伸びていて、地図に間違いがなければ暫く分岐点は存在しない。敵もゴーレムしかいないようなので、他に準備しておくべきことは無いと判断したようだ。


「では、進みましょうか」


 ライトとセイルクロスが先頭を担当して、その後ろにマギナマギナ。最後尾はファイリという並びになっている。

 無言のまま、一本道を進んでいたライトが足を止め、腕を横に伸ばしセイルクロスを押しとどめた。

 セイルクロスと目が合うと、口で言う代わりに進路方向へ顎をしゃくって危険を伝える。その動作でライトの意図を読み取ると、後方へ少し下がり後衛の二人に近づき「敵のようだ」と囁く。

 いつでも確認できるようにと懐に忍ばせていた地図を取り出し、ライトは現在地の確認をする。


「この先の十字路、右手側から何か物音が近づいています」


「理解した。我に任せよ」


 ライトの隣に忍び寄っていたマギナマギナが「風よ」と一言だけ呟く。この状況下で無駄に長い詠唱をする程、愚かではないようだ。

 頬に微かな風をライトは感じ少々くすぐったいが、魔法の邪魔をしないように黙って経過を見守っている。


「二体存在している。ライトと同程度の身長だが、体型が歪だ。円柱を人型につなぎ合わせたような形をしている」


「それはまた、妙な形をしていますね」


「屋外であればもう少し詳細を掴めるのだが、室内では我が呼び声に応える風が少なすぎる故に、これ以上の情報収集は難しいと思ってくれ」


 風の流れが少ない場所だと風属性魔法の威力が落ちる。これは魔法についての一般常識なのだが、セイルクロスはその知識が全くないようで一人だけ感心していた。

 敵が近づいてきているというのに緊張感のない会話を交わしている内に、曲がり角から二体の魔物が姿を現す。

 頭と胴体だけではなく腕も脚も丸太を繋ぎ合わせただけの、手抜き感満載の人形のような何かがライトたちの前に歩み出てきた。


「ウッドゴーレムみたいですね。ゴーレムとしては最下級の特徴も注意点もない敵ですよ」


「ならば、自分に任せてもらおう!」


 左腕に巨大な盾を構え、もう片方の手で大剣を引き抜くと、セイルクロスが返事も待たずに敵へと向かっていく。

 ライトは視線を向けるだけで何も口にせず、マギナマギナもたわわに実った胸を下から持ち上げるようにして腕を組んでいるだけだ。

 ファイリだけは念の為に神聖魔法の準備だけはしている。


「少しは自分もいいところを見せておかねばな!」


 防御には自信のあるセイルクロスなのだが、このメンバーは守りを必要とする場面が殆どなく、戦闘に入ると待機しているだけのような立ち位置に鬱憤が溜まっていた。


「ふんっ!」


 ウッドゴーレムは目も口もない顔をセイルクロスに向けたのだが動きが鈍重で、体勢を整える間もなく、その体に巨大な盾が打ち付けられる。

 鈍い破壊音が坑道に響き、木片が周辺に散らばり、人間の大人と変わらない身長があるウッドゴーレムの背が岩肌に激突した。

 盾は本来守る為の防具なのだが、セイルクロスはそれを攻撃にも活用する方法を叩き込まれている。彼にとって盾は守りの要であり、武器でもあるのだ。


 仲間が砕かれたことに動揺も見せず、もう一体が木の腕を振り下ろそうとしたのだが、薙ぎ払われた一撃で首の付け根が切断された。

 尋常ではない怪力を有するライトの陰に隠れ、その存在が薄くなりつつあるがセイルクロスも『怪力』のギフトを所持している。幼い頃より祖父により叩き込まれた盾術との組み合わせにより、その実力はかなり高い。


「お見事ですわ、セイルクロスさん」


「合格点だな」


 女性二人に褒められ満更ではない表情で頭を掻いている。

 ライトも軽く手を叩き、称賛しているのだが、これだと自分は暫く楽できそうですね。という心の声はおくびにも出していない。

 その後は順調に事が運び、石の体で作られたストーンゴーレムや、鉄製のアイアンゴーレムとも戦ったのだが、何の問題もなく奥へと進んでいく。

 固すぎる相手にはライトのメイスが火を噴き、どれもが一撃で大破。基本的にゴーレムは動きが鈍く、硬さと力が自慢なのだが、それは……馬鹿げた破壊力を有するライトにとって絶好の的である。

 ストーンゴーレムとアイアンゴーレムは高品質の鉱石を落としているのだが、ライトたちはそれで満足する気は毛頭なかった。


「そろそろ最深部だったか」


「この先に大きな空洞が広がっていると、地図には描いてありますよ」


 微塵も息を潜めようとしないセイルクロスに忠告することを諦めたライトが、手にした地図を指差し、現在地の確認をしている。


「確か噂では、この奥に居座る禍々しき鉱物の巨神が深き闇に沈み、新たなる生贄を待ち望んでいるのだったな」


「ええ。巨大なゴーレムが待ち構えているそうですね。ここのゴーレムだけは一定距離まで近づくと起動するとのことでしたか」


 他のゴーレムはこちらから攻撃を仕掛けない限り相手は無抵抗。

 何故か、最深部の巨大ゴーレムだけはそれに当てはまらないと、冒険者ギルドで人伝に聞いた話だとそうなっていた。

 今までこのゴーレムに挑み、勝利を収めた者はおらず、その第一討伐者になる為にライトたちはこの廃棄された鉱山へ挑んでいる。

 巨大ゴーレムが落とすであろう、希少な鉱石を手に入れる為に。


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