プロローグ
青年は独り、歩き続けていた。
廃墟と化した村には彼以外の生存者はなく、唯一の生き残りである彼も瀕死の重傷を負っている。
片腕片足は本来曲がってはいけない方向へ捻られ、両手の指は全て折れてしまった。
衣類はただのぼろ切れと化し、体中は血で汚れ、大小含めた傷は数え切れない程だ。
普通であれば、激痛のあまり気を失ってもおかしくないのだが、彼は呻き声一つ漏らさずに、あの場所を目指していた。
「母さん……」
小さな村の平坦に固められただけの簡素な道は所々に大穴が穿たれ、周辺には肉片が飛散している。頭頂部が抉られ、白い頭蓋骨が剥き出しになった男の生首が足下に転がっているが、青年は気にも留めない。
「母さん……」
木造建ての民家は屋根が吹き飛んでいるものもあれば、壁が大きくぶち抜かれている民家もちらほらと見受けられる。
瓦礫と欠損した死体が散らばり、死臭が充満する村を黙々と歩み続けていた青年が、何かに躓き地面へと倒れた。
もう、受け身を取る力すら残っていない青年は、全身を大地へと叩きつけられ、塞ぎかけていた傷口から大量の血液が噴き出す。
血と共に自分の命が流れ出ているのを自覚しながらも、青年は前へ進むことを止めない。
辛うじて動く片方の手だけで、地面を這い、前へ、前へと。
目もかすれ、視界が滲む。
そんな彼が闇に落ちる直前に見たのは、原形を留めていない教会だった。
「母さん、僕は……聖職者に」