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第六話 はじめまして、二ツ星

今回はコメディ回になっております。初登場のキャラもいますので、みんなの可愛いところをぜひ…

 諸悪の根源は金そのものではなく、金に対する愛である。

   サミュエル・スマイルズ(医者/作家)






「うぅ…げほっ、ぐぅ……ここまで、来たら…」

「あらま…大丈夫かいな、祐輔さん」

 男から逃げだして暫く。薄暗い路地裏に祐輔と鳴海は身を潜めていた。

「だいじょうぶ…じゃない、よ…。てゆうか、なんで息上がってないの…」

 かなりの距離を走ったような気がしていたのだが、あまりにも平然とした様子の鳴海を見れば、自分の勘違いだったのかと感じてしまう。

「…体力ありまへんな、祐輔さん…」

「哀れみの目で見るのやめてくれない…大人になると運動なんて縁のないものになるんだよ」

 息を整えて一気にそう捲し立てると、祐輔は不満げに鳴海を見やった。鳴海はというと、人を小馬鹿にしたようにニヤニヤと笑っている。

「俺も大人やでー、一応。体の鍛え方が足りんのや」

 ケタケタと音がなりそうなくらい軽く笑う鳴海は、やはり疲れた様子を見せない。

「う、うるさいなぁ!鳴海くんだって細いだろ!」

「俺は細マッチョや」

「そんな暴露はいらないよ…」

 一向に態度を崩さない鳴海の相手は疲れて、ゼロに近い体力をさらに削ったような気がする。


 夜の暗闇は未だ重く、この世界には時間が無いのではないかと錯覚するようだ。普段腕時計も着けない祐輔にとって、時間を感じることができないのは辛い。スマホが使えればよいのだが、あいにく勢いで飛び出した家に置いてきてしまった。

「…もう敵さんも追いかけてこんやろしな…祐輔さん、とりあえず今日のところは、俺についてきてくれますか?」

 ポリポリと頭を掻いて、困ったように笑う。祐輔は見も心も疲れきって、ただ曖昧に頷くことしか出来なかった。

「ついてくって、どこに…?」

「んー…、秘密基地?」

 なんや子供みたいやな、と自分の言葉でも笑う鳴海は、随分と余裕そうだ。祐輔はというと、耳慣れない言葉に困惑するのみ。

「秘密基地ぃ?」

「そんな明らかな不審顔せんで…、落ち着いて話できるとこなんてそれくらいやろうし、そこには俺の仲間もおる」

 仲間。それは嬉しい。素直にそう思えたのは、やはり精神的に参っているからなのだろうか。

「仲間がいるの…?」

「おお、おるでー。…ちょいめんどいのもおるけどな」

 ―――これから行くとしても、そのめんどいのには関わらないようにしよう…―――――心に決める。

「まぁついてきてや。…行くで」





 そうして鳴海についていくこと二十分ほど。徒歩でも十分に行くことのできるそこは、祐輔にとって見覚えのあるものだった。―――いや、見覚えがあるどころじゃない…―――

「あの、さ…鳴海くん?」

「はい?着いたで?」

 とぼけたように首をかしげる仕草。それに一瞬呆れ、次に力なく笑う。

「いや、ここって…君の事務所、だよね」

 祐輔が不審に思うのも無理はない。だってそこは、祐輔が今日――――いや、もう昨日か…?――――行ったばかりの、鳴海の事務所と全く同じ外見だったためである。

「ははっ、そーとも言うなぁ」

「そうとしか言えないよ!」

「はいはいさっさっと行くでー」

 祐輔のツッコミも何のその、気にした様子もなく鳴海はずんずんと中へ入っていった。


 事務所と言っても四階建てビルの三階、ほとんど目立つことのない外見だ。カツン、と小気味よい音を鳴らしながら二人は歩く。古いビルなためかエレベーターは無く、階段しかない。たかが三階、されど三階。体力のない祐輔には苦行でしかなかった。

「…ダイジョウブデスカ」

「心のない心配はっ、いらない、よぉ…」

 死んだ魚のような目で見つめる鳴海の視線が痛い。体力が底辺の自分が惨めで恥ずかしくて、ちょっと涙目である。

 そうしてやっと着いた三階の、これまた見覚えのあるドアの前で鳴海が立ち止まった。

「ほらほら、着いたでー、祐輔さん。みんなおるやろし、はよ入ろ」

「みんな…?」

 ヒラヒラと手を降りながら、笑顔でドアを開ける鳴海に、首をかしげながらも着いていく、その時。


「なるみぃぃぃいいぃい!!!!」


「うぉぉお!?っごぉふ!」

 鼓膜が破れそうなほどの大声と、鳴海の絶叫。それと同時にドアの奥から飛び出し、鳴海に激突する塊。それらすべての出来事は、祐輔の目には映らないほど速く、唖然とする。

「…ええ?」

 思わず漏れた声は、床にうずくまり悶える鳴海には届かず。もぞり、と鳴海に激突した衝撃で転がった塊が動きだす。それはやはり人、だった。

「なるみぃ…、アンタ今日は早く来るって言ってただろうが…」

 現れたのは、短い緑の髪を揺らす、女の子。首もとで切られた髪は癖っ毛で、男の子のように――――無造作ヘアー、とでも言うのだろうか…―――整えられていた。鋭い瞳は同じように緑色で、まっすぐに鳴海を見下ろしている。

「ごめ、ごめんってセイアちゃん…連絡しようとは思たんやで…」

「ふぅん?スマホはここにあるけどなぁ?」

「すんません忘れました…」

 女の子相手に怯んでいる鳴海が新鮮に感じられて、思わず吹き出してしまい焦る。理由は女の子がたった今気づいたとでも言うように祐輔を見たからだ。

「お?アンタだれー?」

「え?…あ、あぁ、僕は…」

「そん人は俺が連れてきたんや、はよ中へ入れてやり」

 一瞬の緊張でうまく喋れない祐輔に代わって、鳴海が助け船を出してくれた。相変わらずうずくまって腹を押さえたままだったが、丈夫そうなので大丈夫だろう。

「ふーん、…なんか萎びたナスみたいなやつだね」

「え?しなび…何?」

「はーいはいはい!と、とりあえず入ろかー」

 ぼそりと呟かれた言葉は聞こえづらかったものの、自分が馬鹿にされたことはわかる。鳴海の笑顔から心なしか焦りを感じられるのも、そのせいだろう。張本人の女の子は全く意に返していないようで、ポケッとして突っ立っている。

「とりあえずって何!?今絶対バカに…」

「してへん!絶対してへんで!!」

 鳴海があまりに必死の形相で庇い立てをするので、毒気を抜かれてしまい口を噤む。それに安心したように息を吐いた鳴海は、一瞬でまたいつもの笑顔に戻り開けっぱなしのドアへと向かう。

「ほらほら、入ろ!」

「う、うん」

「あいよー」

 そうして祐輔は、やはり見覚えのある部屋の中へと足を踏み入れた。


「あらー!お帰りなさい鳴海さん!セイアがいきなり飛び出して行ったからなにかと…、ん?その人は…?」

 入ってすぐに見えるのは黒い革製のソファー。そこに座っていた少女が、鳴海を見て嬉しそうに駆け寄ってくる。ちょうどそこで、後ろにいた祐輔に気づいたらしい。物珍しそうな視線が来る。

「おー、チトセちゃん。こん人は俺の知り合いや。ちょいと、お茶出してもろてええ?」

「はい!今すぐ…」

 ダダッと駆け出し、奥にあるドアへ駆ける少女に、気をつけやーなどと鳴海が声をかける。

「祐輔さん座ってええよ?疲れたやろ」

「あ、うん。ありがとう」

 疲れているのが本当なため、言われた通りにソファーへ腰を下ろす。高級なのだろう、ふかふかと体が沈む感覚は慣れない。続いて鳴海、それから女の子も向かいのソファーへ座る。

「よーし、やっと落ち着いたな。この人は北見祐輔さんっていうんや。…ほら、セイアちゃん。挨拶!」

 鳴海が隣の少女へ視線を送る。その少女は一瞬だけ眉を潜めたけれど、すぐにニマッと笑い、口を開いた。

「俺はセイア。よろしくなーナスのおじさん」

「僕は北見祐輔!ナスじゃない!」

 あんまりの言われように思わず声を荒げるも、鳴海によって止められてしまう。

「まーまーまー。祐輔さん、この子は俺のとこでいろいろ働いてくれとるんや。…悪い子や、ないんや…で?…っいぃだだだだ!!」

「…なんで疑問形なんだよ」

 にこやかな笑顔で鳴海の耳たぶを引っ張るセイア。本気で痛がる鳴海を見て、祐輔はひとつだけ心に決めた。―――この子には逆らわないようにしよう…―――

「あー!もうセイア…鳴海さん痛がってるでしょう!放してあげて」

 そこに先程出ていった少女が湯気のたつ湯飲みをお盆に乗せて戻ってくる。セイアより少し長めのサラサラな緑の髪が揺れて綺麗だ。

「ちぇー、なんだよチトセ。邪魔すんなって」

 セイアが渋々といった様子で鳴海から手を放す。鳴海は耳を押さえて唸っていた。

「えっと君は…」

「あっ、申し遅れました!チトセといいます。セイアとは双子で…「え?」

 思わずチトセの言葉を遮り、口を開いてしまった。

「今なんてっ」

「え?セイアとは双子だって」

「ふたご…?」

 確かに髪と目の色は同じだ。だが髪型も性格も違いすぎて…

「ほんまやで?二人は双子や。まぁ、その反応も珍しくないけどな」

「そーそー、よく言われんだ!でも、正真正銘俺たちは双子だ!なぁ、チトセ!」

「ねー。ちなみに私が一応姉なんですよ!」

 セイアとチトセ、二人は仲良く肩を組み、にこやかに笑うところを見ると、やはり話は本当らしい。ほのぼのとした光景に無意識に頬が緩み、笑顔になった。

「おっ…なんだ、笑った」

「え?」

「いやあんた、さっきから全然笑わねぇからさ、笑えねぇのかと思った」

 そういえばそうだったかと、思い返して周りを見れば、セイアだけでなくチトセ、鳴海までが暖かい目で自分を見ていることに気づく。その視線がいたたまれなくて視線を落とせば、鳴海がははっ、と笑ったのがわかった。

「まーおしゃべりはこの辺でやめとこか。大事な話せんとな」

「大事な話?」

「そ。祐輔さん今日初めてやから、まだわからんこと多いやろ?聞きたいことあったらなんでも聞いてな。…そうそう、この二人もな、ゲームの参加者なんやで」

 鳴海からの突然の暴露に思わず目を丸くする。―――まだ子供なのに参加者、なのか?―――

「あっ!子供なのに、って顔したな、今」

 セイアがまたもや不満そうな声を漏らす。

「なんで…?」

「あー…その話はまた今度な。今はアンタの話せんと。…とりあえず今は、ええと…3時過ぎか!12時からスタートやから…もう時間ないなぁ」

 スマホを開いてすぐ鳴海が顔をしかめたのは、このゲームの終わりが近づいているからだ。四時間で終了、と本人が言っていたのだから間違いはないはずだ。

「…とりあえず、僕はこれからどうすればいいのかな」

「ん?…そうやなぁ、今日のところはここにいて構いませんけど…俺かていつもあんたのそばにおるわけやないし…借金返済まで誰とも戦わずに、なんてことはできんやろ」

 誰かと、戦わなければならない。先程の男のようなやつと、これから。言い様のない不安に刈られ、体が震える。

「…うーん、なんやこないに弱っとる祐輔さんほったらかしには出来そうにないなぁ…な、二人とも?」

 ポリポリと頬をかいて、困ったように鳴海が笑う。

「俺は別にどうで「思います!だめですほっといちゃ!」

 ―――なんだろう、今全く別のこと言おうとしてたような…―――

「鳴海くん…なんで僕なんかを」

「だって祐輔さん、なんか放っとけないんやもん。…それに」

 一体なんだろう、と首をかしげて鳴海を見つめる。鳴海は見慣れた優しい笑顔で…

「ゲームには、サポートキャラがつきもんやろ?」

 だから俺らがそれになったる!と笑う姿が頼もしくて。ついつい甘えてしまう。はにかむように笑えば、鳴海もさらに嬉しそうに笑ってくれた。

「…まぁ、おっさん大変そうだしな、ついででいいなら助けてやるよ」

「…素直じゃないなぁ。セイアはこういう人放っとけない子だもんね」

「ばっ、チトセ!」

「というわけで!まだ子供ですけど、頼ってくださいね」

 ――――ああ…僕ってなんて情けないんだよ…泣きそうだ…―――

「ありがとう…みんな。会ったばかりなのに」

 ズビッ!と鼻をならして笑う。今まで最悪なことはかりだったけれど、ここで少しだけ救われた気がした。たとえ現状がなにも変わっていないとしても、だ。


「あれ…なんか視界が歪んで…」

 暖かい気持ちになったのも束の間、突然視界が歪み、すさまじい眠気が襲ってきた。

「あー…そっか、時間かぁ」

 セイアやチトセも、大きなあくびをして呟いた。鳴海は祐輔を落ち着かせるように笑うと、こう言った。

「ゲーム終了、今日は生き残れたんや。安心してええよ」

「そ、なの…?じゃあ…寝ても、いい?」

「ん。…目が覚めて落ち着いたら、またここに来て。もちろん、現実で、な?」

 この言葉を聞いたが最後、もうほとんど落ちかけていた祐輔の意識はブラックアウトした。


「またな、祐輔さん」


 静かな部屋に、鳴海がたった独り。


ここまで読んでくださりありがとうございました!!

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