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第五話 始まりの夜、夢の中【下】

第五話、続きです。バトルが書けて嬉しいです。

 

 金は人間にとって血であり、命である。

       アンティファネス(中喜劇作家)






「このくっそリアルなゲームのルールは簡単や。…まあ、出来るかどうかは別にしてな」

 ゆっくりと語り出した鳴海を見据えながら、祐輔は額に浮かんだ汗を拭う。べとりと張り付いた髪の毛が鬱陶しい。鳴海は相変わらず涼しい顔で、汗など汗をかいた様子はなかった。

「この世界に存在するのは、基本的にゲームの参加者のみで、武器やらなにやらは自分で調達する分にはなに使おうと文句は言われん。勝つための条件はたったひとつ。…生き残ること」

「生き残る?」

「そや。…制限時間はここに来てから4時間。その間どーにかして生き残れば勝ち。それに見合った賞金がもらえるっちゅーわけ。どや、簡単やろ」

 ニカッと笑って見せられても、祐輔には笑う気力が残っていない。ただ引きつったように頬が歪んだだけで終わってしまった。そもそも、こんな話をしながら笑っていられる鳴海はどうかしていると、祐輔はこっそりと頭のなかでだけ考える。

「その、さ。賞金ってのは…」

「ん?…ああ、そやそや。それも言わんとな。…このゲームん中では、時間が全て。ただただ生き残ればええ。1秒ごとに70円ずつもらえる賞金が増えていくんや。1分なら4200円、1時間なら252000円。そして4時間で…1008000円」

「ひゃくまん…!?」

 目を見開いて唖然とする祐輔に、鳴海はやはり困ったように微笑みを浮かべる。

「たった4時間で稼げるんや。…借金地獄の奴等なんかあっさり引っ掛かってまうやろな。まぁ主催者側も、それを狙っとるんやろうけど」

「うぅっ…」

「あぁー!すまんって!別にあんたのこと言うとるわけやない!なっ?そんな顔せんで!」

 ―――事実だ。現に僕はそれに引っ掛かって…―――情けなさに涙が出かけたが、鳴海があまりにも必死に慰めてくるので引っ込んでしまった。困ったように眉尻を下げる姿はやはり美人で整っている。

「…でもさ、ただ生き残るだけでいいなら、別に誰かのこと襲ったりしないでおとなしくしてればいいんじゃ」

 放っておいたって時間は過ぎるものだ。それならなにもせず、時間がたつのを待っていれば良いだけではないのか。

「それじゃやっぱり主催者もおもしろくなかったんやろうな。…そうさせないようなルールをそいつは作りよった」

 鳴海の顔が憎々しげに歪む。

「参加者の体のある部分に現れる“時計”を壊すと、さらに多くの賞金がもらえる。そういうルールを」

「時計?そんなの僕には…」

 手首や足、腹などをくまなく探してみるものの、それらしきものは見当たらない。というか、体に現れるとはどういうことなのか。確かめるように祐輔は鳴海を見上げ、彼の次の言葉を待った。


「“時計”ならあるで、ここに」

 鳴海の白く細い手が、祐輔の首へと伸びてくる。どこか憂いを秘めた鳴海の表情に若干見惚れながら、祐輔はゴクリと唾を飲み込んだ。

「ほら、ここに…ってあんたからは見えへんか」

 サラッと同じく細い指が、短い祐輔の髪を撫で上げ、そのまま首もとで止まる。少しヒヤリとするのが気持ちがいい。

「え?もしかして首の後ろなの?全然見えないんだけど」

 必死で首を動かしてみるものの、そもそも首にあるのならば見えようはずもない。落胆した祐輔だったが、不意に視線に四角い何かが飛び込んできた。はっとしてその元を見上げると、そこにはどや顔をした鳴海の顔と、その手元の四角い何か。

「手鏡…どや」

「…それ口で言うもんじゃないんじゃぁ……女子力って、やつ?」

 照れるわぁ、と満足げに笑う鳴海の相手もそこそこに、貰った手鏡で自分の首もとを覗く。月明かりが妙に明るいので、そこには自分の顔がはっきりと見てとれた。

「こ、これって…?」

 見慣れた特徴のない顔があるのは当然ではあったが、その下、首には見覚えのないものが映っていた。後ろに近いのでよく見えないものの―――これは、タトゥーみたい、だけど…――――

「それがあんたの“時計”や。それはちゃんと時間を刻む」

「時間を?…っうわ!動いた!」

 カチッと音こそしないもののはっきりと時計の針のようなものが動いた。

「それはちゃんと4時間を刻む時計。あんたのもんや。…さっきの話の続きをするで」

「う、うん」

「そのタトゥーみたいな模様に傷がついたら“時計”は止まる。そんでゲーム終了と見なされてこの世界から消えてまう。時間がどれだけ余っていようと、な。さらに悪いことになぁ、やられた相手の残り時間分の賞金は、やった方に加算されてまうんや」

 ――――つまり、相手を倒したら倒した分だけ賞金が増えてくってわけか。悪趣味だな…――――

「相手の残り時間が多けりゃ多いほど、得するっちゅうことやからな。ゲーム開始時はみんな躍起になって襲いかかってくるで…」

 先程祐輔を襲ったあの男の言葉が頭に甦る。たしか…

『死んで、俺のオカネになってくださぁい?』

「!そうか、あいつが言ってたことの意味って」

 はっとして勢いよく顔をあげた祐輔に、鳴海が思わず後退り、一瞬目を丸くした。

「あいつ?…あー、さっきのオニーサンか」

「うん。…でもあいつは死んでくれって言ってたけど…殺しても賞金はもらえるの?」

 “時計”を傷つけることだけが目的なら、わざわざ殺す必要はないはずと、疑問を浮かべた表情で鳴海に視線を向ける。鳴海は一瞬逡巡した後、あー、と納得したように頷いた。

「まぁ、“時計”を傷つけるんが出来るなら、殺そうが殺すまいが関係ない。傷さえついたらええんやから。…まぁ、あのオニーサンは、ただ楽しんどるだけとちゃうか」

「楽しむ?…なんで」

「世の中にゃそういう輩もいるんやで。人を殺したりすることで快感を得る変態がな」

「へ、へんた「変態はちょぉーっと酷いんじゃないかなぁ?」

「っ!!」

 パンッと乾いた音が響いたその瞬間、祐輔の目の前にはただ鳴海の背中だけが存在していた。


「鳴海くん!!!」

 さっきのあれは銃声。そしてあの声は…

「祐輔さん、はよ立ちぃ」

 ――――良かった、撃たれてないみたいだ…――

安心したのもほんの一瞬、祐輔が言われた通り立ち上がると鳴海がさらに祐輔を守るようにして立った。

「盗み聞きとこやっぱり悪趣味やなぁ、オニーサン」

 ニヤリと挑発的な笑みを浮かべた鳴海の言葉に呼応するようにして、神社の数多い木の中、一本だけがガサガサと音を鳴らす。そこに誰かがいるのは明らかだった。

「…なぁんだ、気づいてて無視してんのかと思ったっすよ」

 ――――やっぱり、この声は…―――

「…さっきは散々やってくれましたねぇ、“番人さん”?」

 その声の主はやはり、先程襲ってきた男。くすんだ金髪に、やはり拳銃を持ってのご登場だった。

「ば、んにん、さん?」

 男の言葉と刺さるような視線を向けられているのは、いつもの笑みを浮かべた鳴海だけだった。

「なんのことかわからんなぁ」

「…ふぅん、そうかよぉ。まぁ、いいや。俺は…」

 カチャリ、と男の手の中の拳銃が小さく音を出す。暗闇の中見えたのは、嫌な笑み。その後は一瞬だった。

「あんたらに仕返しできりゃ、それでいいからよぉ!!」

 手の中の拳銃が火を吹いたように、見えた。


「!!うわぁぁ!」

「祐輔さんこっち!!」

 相手が動いたとほぼ同時かそれ以上に速く、鳴海が祐輔の腕を引き飛ぶ。祐輔はその動きについていくのに手一杯で、情けない叫びを止めることが出来なかった。

「ちっ!避けてんじゃねぇ!」

 1発、2発…走る二人のすぐそばを駆ける弾丸。それらを器用に躱しながらも、鳴海は男から視線を外さない。

 石段からかけ降りて町へ出る。鳴海に守られるようにして走る祐輔には、相手の男も見えず状況がわからないが、かなりまずい状況であるのはわかる。鳴海がどうなのかはわからないが。

「っうぉ!」

 不意にグイッと腕を引かれ、そのまま曲がり角へと押し出された。あまりの力にバランスを取れず尻餅をつく。

「鳴海くん!?」

 どうして止まるんだ、という問いは鳴海の鋭い視線によって出てこなかった。自分に向けられている訳ではなくとも、その視線は恐ろしいものだった。

「このまま逃げとっても、そのうち追いつかれるやろしな、反撃せんと」

 パンッとまた銃声。しかし弾丸は高い塀に囲まれていて届かない。なるほど隠れたのはこのためか、と納得する。

「反撃って」

「4…」

「へっ?」

 ぶつぶつとなにやら呟いているのはわかるが、あまりにも声が小さいために内容が聞き取れない。呆けた様子の祐輔もそのままに、鳴海は一人思案した表情を崩さなかった。

 パンッパンッ!さらに2発、銃声がする。その音にすらビクビクと反応してしまって情けない。しかしそれもそのはず。銃声なんてものはドラマの中でしか聞いたことがない上に、祐輔は基本的な性格で臆病なのだ。

「鳴海くん、一体なにして…」


 “パンッ!”


「!」

 鳴海の足が地面を蹴る。その銃声を待っていたと言わんばかりに、素早く。まるで人とは思えないような軽業で、塀の上へと飛び乗り駆ける。銃声のした方角へ向かって。

「鳴海くん!?なにして!」

 危ないと脳が危険信号を出しているにも関わらず、反射的に角から通りへ顔を出す。

「!んなっ…」

 走った勢いのまま鳴海は相手へと飛びかかる。全く無駄のない動きで地面に降りて、さらに。

「っぐぅ!!」

 相手の顎を狙った的確な足蹴りが、一発。くらう前に男が拳銃を鳴海に向け引き金を引くが、カチカチと音が鳴るだけで弾が出ることはなかった。鳴海はニヤリと笑い、男から拳銃を奪った。

「あかんで、弾の残り数くらい把握しとかんと」

「く、っそがぁ」

 倒れた男が憎々しげに言葉を吐く。倒れた際にアクセサリーがチャラチャラと音を立てるのがうっとうしかった。


「す、すごい…」

 事の素早さに声も出ず眺めていた祐輔の第一声はそれだった。――すごい。本当に、それしか言えない…――――

「てめぇ…なんで」

 男の目には、なぜ危険と知っていて飛び出してきたのか、という疑問がありありと浮かんでいた。それに対し鳴海はというと、疲れたようにため息を吐き出すとヘラッと笑う。

「リボルバーの弾数は大抵6から7発や。撃った回数数えてただけやで。…まぁ、ちらりとしか拳銃見えへんかったから、一か八かやったけどな」

 くそ、と男が視線を反らす。祐輔はただ呆然とその様子を角から見ているだけだ。

「…ん?」

 キラリ、と一瞬、倒れている男の腰が光った気がした。―――どーせ趣味悪いアクセかなんかだろ…――――鳴海がもう用はないとばかりに男に背を向け、歩き出す。祐輔にいつもの笑みを浮かべて手を降る。左手には男の拳銃を持っている。

「大丈夫どすかー?祐輔さん…祐輔さん?」

「え…あ、あぁ…」

 男を見つめていたために鳴海の言葉に反応するのが遅れたが、祐輔はなぜか男から目が離せなくなっていた。その理由は、そう、あれだ…

「!!」

 気づけば体が勝手に動いていて。男が腰に隠していた拳銃を握りこちらに照準を合わせるより速く、走りだし鳴海の腕をとる。さっき鳴海がそうしてくれたように。

「!しまっ…」

 パンッ!勢い任せに腕を引っ張りまたあの角を曲がったすぐ後、さっきまでいた場所に弾丸がめり込んだ。それに一瞬怯んだものの、鳴海の腕を引いたまま走るのをやめず駆け抜けた。

「祐輔さん…?どないしたん、さっきまで震えとったのに…」

「う、うるさいなっ!!いいから今はにげるんだよ!!!」

 ――――怖い。怖い、けど…年下に守られてるだけとかなんか…ますます情けないじゃないか…――――滅多に張らない意地が出て、祐輔は今出せる最高のスピードで走る。それを見て、全く息が上がらない様子の鳴海は一瞬驚いた顔をしたがすぐに優しい微笑みを浮かべた。

「…そやな、ありがとう、祐輔さん」





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。頑張って続きを書くので、よろしくお願いします!

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