結局話は愛車に戻る
お待たせいたしました。
連載再開します。
四人目。
まだ一言もしゃべっていない。
ハニーブロンドの髪、緑の瞳、身長はロイターと同じぐらいでケインやリオンより低い。
彼は最近やってたMMORPGのキャラに似てるというか、多分そうだろう。
名前はラグナ。
ロイターとは真逆で攻撃魔法特化型。
そして、『色男、金と力はなかりけり』を実践させてしまった男でもある。
…どういう事かといいますとー、ゲーム内で売り出される他の人の不要アイテム(ほぼ好みのレアアバター)や強くなるための素材を買い漁ったので、所持金(ゲーム内通貨)は常に0に近い状態にしてしまったのよね。
そして、ゲットした強化素材は魔力強化だけに注ぎ込み、対照的に物理攻撃力は不要だったので完全放置。
よって『色男(=良いアバター)、金(=ゲーム内通貨)と力(=物理攻撃力)はなかりけり』というわけなのよ。
あはははは。
あ、そうそう。アバターって判るわよね?
デフォルトのキャラの上に外面を被せて、自分好みのキャラに表示させるやつよ。
そのアバターと同じ顔をしてるのがラグナなので、私は彼をそうだと思ったわけよ。
物理攻撃力がほぼ0のラグナは、実は物理防御も紙のような薄っぺらさだった。
ケインと剣と魔法で戦ったとしたら、いくらラグナが強い魔法を打とうとも、その懐にケインが入り込んだら一刀両断じゃないかしら。
といっても、別ゲームだったから、この二人が戦う事自体は決してないけどね。
…と安心してる場合じゃないわね、今二人ともここに揃ってるし!
まあそういうわけで、ラグナはいろいろなものを注ぎ込みまくったおかげで、ゲーム内では結構な強さを誇ってた。
そして、最後になってしまったアッシュ。
ケインと同じカードゲームで尤も私が多用していたお方。
アッシュは、力はなかった。魔法も使えなかった。しかし、知力がチート。
カードシミュレーションゲームで、自分の領土を増やして、その領土を富ましていくというのが大筋のゲームなんだけど(その過程で他プレーヤーと戦うことはもちろんあるんだけど)その領土ゲームの内政官として、アッシュは活躍していた。
本拠にアッシュを据え置くだけで、内政は充実し収入が跳ね上がり国庫が潤っていった。
悪政を敷くとか裏で何か暗躍するとかそんな細かな設定はなくて、ただ自国本拠に高・知力のアッシュのカードを置くだけで、国が潤っていくという設定のゲームだったのよね。
そう、高・知力…その知力の伸び幅がチートだったのよね。
同じゲームをしてるプレーヤーからも「公式チートカード」と呼ばれるほどだった。
他にも知力の高いカードはたくさんあるんだけど、アッシュほど伸び幅の高いカードはないので、プレーヤー垂涎のカードだった。
そうそう、決して、ゲーム内で私に『隠居』だとか暴言吐くようなことはなかった。
だって、私が動かしていたんだしねえ。
なのに…なんか…今私に辛辣なような気がしてならない。なぜだ…。
とまあ、そういうわけで、現れた五人全員が、過去に私がプレイしていたキャラクター達だと思ってたんだけど、アッシュの表情やリオンの言動からすると、それだけじゃないような気配が漂っている。
そして、騎士団長とアッシュの会話からもなんか、裏に隠れているものがあるのを察することが出来る。
果てさて、ここにいる五人は、純粋に私のプレイしてたキャラクターたちなのかしら。
と、私が物思いに耽っている頃、アッシュ達が何をしていたかというと、私の車の所に集まっていた。
その表情を眺めると浮かべていたものは険しいものだった。
「ラグナ、…今すぐ魔力を『これ』に分ける事が出来ますか?」
「ああ、もう注ぎ始めている。それも多量に注がないと足りないな。かなり魔力が枯渇している。生命力さえも危機だ。恐らく生命力を魔力に転換してこの状態なのだろう。くっ、魔力補給は俺だけじゃ足りない!リオンの魔力も必要だ。ロイターはすぐに高度治療を!」
あ、ラグナが喋ってる。おおー、ラグナってこんな声してたんだ。
瑞々しい若さに溢れた声をしてるのねえ。
うん、少年っぽい外見のアバターを選んだ影響かしら?
声も若い感じ。
「え?まじでそんな状態!!?…うわ、本当だ!きっと界渡りするだけで、かなり魔力を持っていかれたんだね」
これはロイターの声ね。なんだか変声期前の男の子って感じに甘い声だわ。
「ここまで魔力枯渇した状態なんて見たことない。自動回復機能も壊れているのか」
………ちょっと待ちなさい。
ラグナやロイターの声を聞いて、違う方向に自分の気持ちが向いてたけど、なんか会話している内容は切迫した状況じゃない?
そして、何で車を前にそんな会話な内容になってるの?
魔力枯渇?自動回復機能?
しかも三人とも、表情は真剣なんだけど…。
私の愛車…が魔力枯渇!!?
え、ちょっと待って、やっぱり私の愛車は魔法が関係してるの!?
魔道具なの?
それとも魔力を持ってる車なの!!?
思わず自分の側に立つリオンの腕を掴んで尋ねてみた。
「ね、ねえ、あの三人は何のことを話しているの?」
リオンは、車の方へと歩きかけていたのを中断して、私を振り向いて困ったように笑みを僅かに浮かべた。
「…まだ、マスターは何もご存知ありません。その状態の最中に説明してもきっとご理解を得る事は難しいでしょう。今は、私達の行動にいろいろと疑問に思う事があっても静かに見守って頂けませんか?貴方の悪いようには決して致しませんので」
「…………判った…………」
疑問はすでに山積み状態だけれども、この際一つや二つまた増えたとしても自分の悪いようにはならないということなら、黙って従いましょう。
だって、自分の育てたゲームキャラでは、リオンを一番愛していたし。
リオンがそういうならきっと私に悪いことは何もない!きっとない!うん!
「ありがとうございます、マスター。…ケイン、私の代わりにマスターの側に」
「応」
リオンは一礼すると私の側を離れ、アッシュ達の方へと歩いていった。と同時に、私の側にケインがやってきた。
多分、私の警護を交代したということなんだろうね。
(けど、魔力枯渇か…。あの三人が車に手を当てて何かやってるという事はやっぱり車が…魔物?そういえば、騎士団長さんも微力だけど車から魔力を感じたっていってたわよね。)
ここに来る前の騎士団長さんとのやり取りを思い出し、そして、今またアッシュ達が車を前に「魔力枯渇」とか言ってるのを見ると、きっと私の車は魔力もちなのは確定なのだろう。
魔物だとは思いたくないけど…。
(けどさあ、二年ローンで完済した私の愛車…魔力もち…つまり魔物だと仮定したら、一体いつから魔物だったのよ!?買う前から?買った後から!?)
私は、この先の展開をしっかりと把握して、山のように膨らんだ疑問をアッシュに叩きつけるべく、これから起こる事を目に焼き付けようと気合を入れた。
けど、愛車が実は魔物でしたとかだったら泣きそう…。
私だったら、車が魔物だったらめっちゃ嬉しいw
まあ、趣味の魔物だったらですがw