魔道具はどれだ!
自分の愛車が魔物にのっとられる想像をして私は真っ青になった。
車がっ!私の愛車がっ!魔物になる可能性があったから、あの場所に放置されたの!?
…もしそうだとしたら、あの道を通る一般の人たちも危険じゃない。
私の愛車が魔物に操作されて人様に危害を加えるとか本気でやめて!
人身事故保険には入っているけれども、異世界では適用されないだろうし、異世界まで保険調査してくれないだろうし、何より支払われないわ!!!
そんな事がないように騎士さんたちに動いてもらわないと!
…ってあれ?そもそも、騎士さんたちって、街道に異常がないように巡回していたのよね?
魔力を感じつつもあそこに放置してきたって事は、そこを通る人達に危険はないって判断されて放置処置に至ったわけ…よね?
…うん、ちょっと落ち着こうか、私。
大丈夫、あの車がもしモンスター化、もしくはゴーレム化したらそれは騎士さんたちの責任。
私にあの場に置いていけって言ったんだもん。
私…責任ないよね…てか、むしろ愛車が放置されてる間にぼこぼこになっていたりしたら、むしろそっちに対して私が責任追及してやる。
はああ、なんかちょっとパニックになりかけてた私の頭が冷えてきた。
自分の利益に対しては、キリキリ頭が動くんだよね、私。
ってことで、愛車=魔物進化説(?)についてはあっさり頭の中で折り合いがついた。
まあ、車に魔物が張り付いていたとしても、それはきっと一番弱いスライムじゃないかなと。
そして、タイヤで踏み潰していたに違いない。
うちの車は普通の車。うちの車は普通の車。うちの車は…。
ゴーレムではなくて、スライムを潰してきっと魔力を一時的に纏っただけ…!
どっと疲れたけれども、私の頭は平常モードに戻りつつあった。
となれば、騎士団長さんの言葉を否定しておかなければ。
「ありえません。私が住んでた世界は魔法とか存在しない世界でしたから、私の車が魔力を持ってるとか決してありえないです」
私は、拳を握り締めて宣言した。
「…それを信じろと?」
騎士団長さんは、ハッと笑い声を一つ漏らすと、話にならないなと口元を歪めて私を見返した。
「貴様自身からは魔力を感じないが、貴様が持っているものからはまだいろいろと魔力が感じ取れる。おそらく魔道具だろう。魔力もちじゃないやつが魔道具持っていても意味ないから…発動させる事ができないだろうから、今も貴様に持たせるんだが…。だからこそ、魔力のない貴様がなぜ持っているという疑問が沸き起こる」
「…魔力を感じない…だけど、私の持ち物からは魔力を感じ取れる…?」
なんだか、悲しいのか嬉しいのか判らない事実を今把握した。
私…魔力ないのかよ…異世界に期待した私の夢と希望が一瞬で消えてしまった。
思わず、がっくりと項垂れてしまった。
けど、そうか、騎士団長さんは人の魔力を感じ取る事が出来るのね。
って事は、よく小説とかで見るけど、魔力もちは人の魔力も感じ取る事が出来るという事なのかしら。
「騎士団長さん、質問です。団長さんは魔力を持ってて、私が魔力を持ってないと判るんですか?」
私の質問に騎士団長さんは、胡散臭そうに半眼で見返してきた。
「騎士である者は、大なり小なり魔力を持っている。そして、貴様からは全く魔力の欠片も感じない。」
「はあ…そうですか…」
異世界補正は存在してなかった。
ゲームで魔法の知識はあっても魔力がなかったら全く意味なかった。
悲しい…。
視線を自分の膝に落とす。
その膝の上には、取り上げられなかった自分のバッグがあった。
そういえば、「魔道具を持っている」と騎士団長さんが言ってたわね。
…魔道具?なんだろう。車からも魔力感じたというし、私のバッグの中身にも何か魔力を感じるものがあるんだろうか。
私は、バッグを机の上に出して、騎士団長さんの前に中身を並べ立てた。
バッグの中から、無言で中身を並べ立てて行く私に、騎士団長さんはぎょっと身を一歩引いていた。
危険物を並べるな?もしくは、見た事ないものばっかりでこいつ本当に異世界人かも?かしら。
どっちでもいいから、騎士団長さんが魔力を感じたって物を教えてもらわなくちゃ。
スマホに充電コード、ハンカチ・ティッシュに財布にお出かけ用の化粧直しセット、歯ブラシ一式…
あ、車を運転するのに、肝心の免許証は財布の中にあるわよ。
車のキーは私のポケットの中のままだけど。
私は、ずらりとバッグの中身を騎士団長さんの前に並べ立てた。
「団長さん!このバッグの中身、どれが魔道具だと思うんですか!?」
「…貴様なあ…」
警察ドラマとかでは、よく犯人の持ち物を警察官は本人自身に目の前に並べさせて尋問するじゃない?
そう思ったから、騎士団長さんの前に持ってるものを並べ立てたんだけど、騎士団長さんは本当に呆れたという表情だった。
やっぱりさっきの想像通りに思っているのかしら団長さん。危険物をよくもこれだけって…。
けれど、男の人にしては綺麗な細い長い指でスマホを指差してくれた。
…え?スマホ? スマホなの?
「その四角いやつが魔道具だな。見たことはないからどのような使い道をするか判らないが…」
「スマホが魔道具…。あははは、それは予想外。スマホに魔力を通せば魔道具として動くのかしら…。で、今は動かないのは、さっき充電切れ起こしてたから起動しないのかもねー」
車のシガーライターから充電しようと思って、コードに繋いだままのスマホ。
画面は真っ暗。
だけど、ポータブルの充電器も持ち歩いてるのよね。
1回分ぐらいの電池容量を既に充電させてる緊急用のやつ。
そっちに繋ぎなおして、一回起動させてみようかしら。
スマホを掴んで、コードをいじっている私に騎士団長さんが「やめとけ」と声をかけてきた。
「さっきも言ったが、貴様に荷物をそのまま持たせているのは魔力もちでない貴様では、魔道具を発動させる事が出来ないからだ。そして、それに加えて、この部屋には魔道具はおろか魔法師の魔法さえも発動出来ない措置がされている」
「…そういうことですか。道理で荷物検査とかされないわねえと思ってたわ」
私は、騎士団長さんを睨みながらスマホの充電コードをポータブルのものに切り替えた。
騎士団長侮りがたし。
私の扱い緩いと思ってたら、十分に不審人物扱いされていて、結構な部屋に収容してくれてたのね。
まあ、いいわ。
本当に起動出来ないか、スマホのスイッチを入れちゃえ。
数秒後。
…あら素敵。スマホ、起動しちゃったわよ。
私は内心で、うふふと笑った。
しかし、次の瞬間、起動完了したスマホの画面を見て、私は目を見張った。
そこには、スマホの待ち受け画面に設定していたものとは違うものが表示されていた。
え?…これは…?
スマホをまじまじと見つめていたら、スマホ画面に映されているものが私に向かって叫んだ。
「私の名前を喚びなさい!マスターーーー!!!」
やっと書きたいシーンに近づいてきた