昼2
赤ウサギと白ウサギと黒ウサギには、心がけていることがある。
青ウサギが必要以上に怒られないようにフォローすること。
青ウサギが耳を掴まれてどこかに連れて行かれるのを見るのは、他のウサギたちにとって、届かない手で耳を押さえずにはいられないことだ。暴れまわって余計に痛い思いをしている青ウサギのおかげで自分たちの耳まで痛い気がしてくる。
だから、極力、フォローすることにしている。
幸い、耳を掴んでお仕置きするのは、外出することのある執事。
外出しない、引きこもりの主ではない。
青ウサギを風呂に入れるのは大変な作業である。
青ウサギは、風呂に入るのを嫌がったりしない。むしろ、好んで風呂に入る。
草まみれの青ウサギを風呂に入れ、赤ウサギが洗い流す。
昔、一人で風呂に入れたら溺れかけて、主に怒られたことがある。幸い、執事はいなかったので耳は無事だった。
青ウサギが歌いながら、風呂場を後にする。
昔、風呂場で走って転んで執事にシメられても、走っていたが、最近は、走らなくなった。
「抜き足っ差し足っ忍び足っ」
と大きな声で歌いながら風呂場を歩いている。
これを青ウサギに教えてくれたのは、この間まで同居していた少年だ。
おかげで非常に助かっている。少しだけうるさいが。
風呂場を出るとすぐ、黒ウサギがタオルを持って待ち構えている。
青ウサギを頭の先から足の先まで、わしゃわしゃとふく。青ウサギは、きゃあきゃあ言っているが、黒ウサギは真剣だ。
くすぐったいのか、何なのか。黒ウサギがちょっと目を離した隙に逃亡する。
足元がまだ濡れているため、足跡を赤ウサギが追っかけ、黒ウサギが、その足跡を消して行く。
ウサギの中で最も機敏な赤ウサギが追っかける青ウサギは、ウサギの中で最もトロい。
すぐに追いついた赤ウサギは、がばっとダンディーな灰色のチョッキを頭から着せて、頭の上に青ウサギを乗せた。
仰向けになっている青ウサギは。
「落とさないでね!絶対だよ!」
指一本でも動いたら、落ちて死んでしまうとでも思っているのか、ぴくりとも動かない。
ウサギたちの体長はおよそ50センチ。落ちた所で、怪我すらしないだろうが、青ウサギは、落とさないでね!とずっと言っていた。
赤ウサギが頭に乗せて運んでいるうちに足は乾き、青ウサギはようやく下ろしてもらえた。
「すっごく怖かったんだから!」
青ウサギはダッシュで主の部屋に行き、報告した。
主であるイリスは、痩身をソファーに沈めて。
「それで?」
神経質そうに言う。
青ウサギは赤ウサギの頭に乗せられて非常に怖い思いをしたことを説明する。
ぱらぱらと本の頁を繰りながらイリスは聞いている。
「イリスは、ご本ばっかり読んで、お話聞いてるの!?」
青ウサギがテーブルの上で地団駄を踏む。
イリスは緋色の双眸をちらりと青ウサギに向け、本に視線を戻す。
「聞いてるだろうが。お前が外に行くとか言うから、雨の中、赤ウサギが草刈なんぞする羽目に陥ったんだろうが」
「青ウサギがお外に行ったの何で知ってるの!?内緒にしてたのに!」
イリスは頁を繰った。
「何で教えてくれないの!?」
「説明するのが面倒だろうが」
「教えてくれてもいいのに!」
「教えんでも構わんだろうが」
青ウサギが口を大きく開けて固まる。
「…教えてくれてもいいのに」
しゅんとなって呟く。
「青ウサギ」
イリスは嘆息混じりに言う。
「『主』が屋敷内のことで知らぬことがあるわけないだろうが。それぐらい覚えとけ、戯け」
「怒らなくてもいいのに!」
青ウサギは抗議したが、イリスは抑揚の欠けた淡々とした喋り方をする。
イリスは視線を本に戻すと、青ウサギの抗議をさらっと受け流した。
「全然お話聞いてくれないんだから」
大袈裟に溜め息をついて、青ウサギはテーブルから飛び降りると、ぱたぱたと走り去る。




