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黒狐  作者: takaban19
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序章



序章




 


「コード“エボリューション”発動します」


 シェリーは五十インチを超える、大型液晶ディスプレイに映る四人の老人に告げた。


 真っ暗な部屋に、仄かなバックライトに照らし出される、ディスプレイ。そこに映る四人の老人。


全員が、高価なスーツを着こみ、ディスプレイ越しにあっても、十分に貫禄を感じさせた。老人達の、威圧的な目線にもシェリーは臆した様子は、微塵も見せない。


 この、老人達を前に萎縮するようではアルメキアの幹部は務まらない。


 シェリー=ルクセンベル。


 白のスーツを着た美貌の女だ。落ち着いた物腰と、瞳には知性を宿している。


 腰まで流れる鮮やかな銀髪。切れ長の碧眼。モデル顔負けの美貌の女は、怜悧な態度を崩さず、老人達を見る。


『作戦の遅延、追加支援は認めん。分かっているな』


『ミスの許されん作戦だ』


『我等の悲願、くれぐれも忘れるな』


 高性能な、スピーカーが老人達の肉声をクリアな音声で伝える。


「ベストを尽くします。吉報をお待ちください」


 気負った様子も見せず、シェリーは言い放つ。言葉遣いとは、裏腹にその態度は年長者への敬いなど微塵も感じられない。


『ウム・・・・・・では、頼むぞ“鈴の魔女”よ』


 その言葉を最後に、ディスプレイの映像は切れた。


「・・・・・・ふぅ」


 シェリーは溜息を吐く。


(老人達の相手は疲れるわ)


「光を」


シェリーに言葉に、音声認識装置が作動。


微かなモーター音と共にブラインドが開き、陽の光が窓から差し込む。シェリーは、目を細めて窓の外を眺める。


ここは四階。


眼下に広い滑走路が走っている。


数十人の作業員が、六個の大型コンテナを大型旅客機に積み込んでいる。


 シェリーは腕を組んで、その光景を見下ろす。


机の上にある、電話が鳴った。シェリーは視線を、窓の外から外さず受話器を取る。


「何?」


『コンテナの搬入作業は、予定通りいけます。ですが“グスタフ”と“アレックス”の調整が手間取っています』


やや、疲れたような中年の、男の声だ。


「・・・・・・とにかく、スリープ状態へ移行して。微調整は日本に着いてから、行う」


 電話越しに、担当者は焦ったように言った。


「時間を下さい! 今強引にスリープ状態へ移行すれば、能力低下と寿命が縮みます」


 シェリーは逢えて、冷たい声を出す。


「“ファング”はお前の玩具では無い。目的遂行の駒でしか無い事を忘れるな」


 担当者は無言であった。苦悶かそれとも怒りの表情を浮かべているのか。搾り出すような声が、聞こえた。


「・・・・・・分かりました。スリープ状態へ強制移行します」


 シェリーは受話器を戻す。


 シェリーの脳裏にある、作戦プランに微修正を加える。駒は“ファング”だけで無い。


 シェリーの手駒には、外にプロの傭兵部隊も存在する。依存度をこちらに、シフトすればいい。


 シェリーは壁に掛けられた、世界地図を見る。その中で、目を向けるのが極東の島国。


「日本・・・・・・鬼の住む島」


 シェリーは遠くを見るような眼差しで、窓から見える空を見上げる。


(老人達の、生命への執着。傀儡と成り果てた、哀れな人形・・・・・・そして私の望み。果たして、この島国で何を見るのかしら?)


当事者で有る筈のシェリーは、冷めたように内心で呟く。


次いで、世界地図の横にあるホワイトボードを見る。


ホワイトボードには様々な、記号や文字が躍っており第三者が見ても意味が分からないだろう。


しかし、その中で目を引くのが二枚の写真だった。二枚とも、女の写真だ。


一人は二十歳前後、もう一人は十六歳前後の少女だ。共に、顔立ちは似通っており、姉妹と思われる。写真クリップの横にはプロフィールらしきモノが英語で書かれている。


その説明文も、専門用語が頻繁に使われて、単なるプロフィールでは無かった。シェリーは二十才前後の、女の写真を手に取る。


既に、この女の事は調べ尽くしてある。


性格、家族構成、体重、血液型、行動パターン。


「私の踊り手を務めてね、シオリ……」


シェリーの思考を中断するように、ノックが鳴った。


黒人の、作業服を着た男が入ってくる。


「そろそろ、搭乗の準備をお願いします」


「ええ」


シェリーは写真を、手首のスナップを利かせて投げた。写真は一直線に、シュッレッダーの入り口に吸い込まれていく。


写真を感知したシュッレッダーは、自動的に動き出す。


「行きましょう、黄金の国ジパングへ」


 シェリーは笑う。


それは優しげな笑みとは、かけ離れていた。


妖艶で、自信に満ちた笑み。黒人の作業員は、それを見た瞬間、見てはいけないものを見たかのように、目を伏せた。


ヒールを鳴らしながら、シェリーは部屋を出る。


写真を、原形を止めぬよう麺状にして排出すると、シュレッダーは動きを止める。


誰もいない部屋で、シュッレッダーは忠実に、己の仕事を待ち続ける。


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