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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自慢のお父さん

作者: 綾小路千春

グロというよりは、若干気持悪い描写があります。

苦手な方は閲覧注意です。

 僕のお父さんは頭が良くて、優しくて、自慢のお父さんでした。

 でもお父さん、五ヶ月前に失踪して、二ヶ月前に家に戻ってきてから、なぜか様子がおかしくなってしまいました。

 お父さんは今、布団の中で、笑みを浮かべながら気持ち良さそうに眠っています。ちなみにさっき『何がそんなに楽しいの?』と、僕が訊いてみましたが、お父さんは答えてくれませんでした。

 幸せそうなお父さん。お母さんは『あんな人早く死ねばいいのに』と言いますが、僕はお母さんと違って、今もお父さんのことを尊敬しているし、大好きです。例え世界中の人がお父さんのことを馬鹿にしても、僕は絶対に馬鹿にしません。でも、お母さんは家族なのに、この前三人でスパゲッティを食べた時、お父さんのことを馬鹿にしていました。

 『死ね!糞じじい』って。お父さんは茹で上がったばかりの、味付けもされていない麺を食べていただけなのに。

 お母さん、どうして怒るんだろう。お父さんは僕たちを笑わせようとしただけなのに。

『お父さん、それはまだ味ついてないよ』

 僕が笑いながら言うと、お父さんは笑いながら麺を吐き出しました。



 お父さん、失踪してから馬鹿になっちゃったけど、その代わりに面白い人になりました。

 僕はそんな面白いお父さんも大好きです。だけど、近所の人はみんなお父さんのことを指差して、馬鹿にするようになりました。

 先週、お父さんと散歩していた時のことです。

 お父さん、道端に落ちていた、ヌメヌメしたガムを拾って『もったいない』と言って口の中に入れました。

 僕は『汚いよ』と言って、お父さんのことを笑いましたが、近くで僕たちのことを見ていたおばさんは、お父さんのことを指差して『あの人を見てはいけない』と、お父さんの悪口を言っていました。

 僕は悲しいです。お父さんの面白さを理解できるのは、この広い世界に僕しかいないのです。

 僕は泣きました。なぜなら、もう二度とお父さんは、この世界で僕の自慢のお父さんにはなれないからです。なれないと解ったからです。

 でも、泣いているだけでは何も始まりません。

 僕は日に日に面白くなっていくお父さんを、止める決意を固めました。

 お父さんには、僕をいつまでも笑わせていてほしいけど、これ以上お父さんが馬鹿にされるのを、僕は黙って見ていられません。

 でもお父さんは、僕が『やめて』とお願いしても、足を蹴飛ばしても、惚けるばかりで、僕の話を聞いてくれませんでした,

 お父さん、どうしてもお笑い芸人になりたいみたいです。

 僕は困りました。悩みました。

 どうすればお父さんを止められるのか、考えて考えて、ようやく昨日、答えに辿りつきました。



 お父さんはただ、不幸な人を笑わせたいだけなのです。その不幸な人たちを笑わせるために、近所の人から馬鹿にされても、面白いことをしていたのです。

『俺は自分だけ幸せになんかなりたくない』

 お父さんはよくそう言っていました。

 でも、僕はお父さんに幸せになってほしいのです。だから、お父さんを天国に連れて行ってあげようと思います。

 天国は楽園だそうです。苦しんでいる人も一人もいないそうです。

 お父さんも天国に着けば、また昔のかっこいいお父さんに戻ってくれると思います。だから、僕はお父さんと一緒に死ぬことにしました。死ぬ時は、少し痛いかもしれないけど、お父さん、我慢してよ。

「自慢のお父さんに、また会いたいんだ」

 僕は包丁を両手で持ち上げ、寝ているお父さんのおなかに、それを突き刺しました。

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