5 おばあちゃまの箪笥 ③
曾祖母のものだろう。
時間が経っているのか、ビー玉はどこか色あせても見える。
しかし、曾祖母の言葉を借りれば、桃色と空色と草色に見えないこともない。
秋乃は自分で何をしたいとか、意識もないまま、ビー玉を手に取って小引出を開けた。
つまり、曾祖母の呪文のような言葉を思い出し、その通りに縦横3分割にされた小引出を開けてビー玉をそれぞれ収めたのだ。
左側の真ん中に桃色。真ん中の上に空色。右側の下に草色。
もともと入っているハンカチの上にビー玉を乗せて、それから秋乃はだからどうした、と言うように我に返り、ため息を吐いて両手を広げてその小引出を全部押し込んだ。
子供みたいなことをした――といい年をした自分を自分で嗤うようにした瞬間、ガタン、と何かが揺れた。
地震か、と一瞬慌てた時には、すでに身体は箪笥のほうに傾いていて、倒れた身体を支えるためにもっと箪笥に力を入れて凭れ掛かるとさらに強く箪笥は奥へと入って行くようだった。
「なん――?!」
なんなの、と叫んだつもりだったが、言葉は全部言い切らないうちに途切れ、秋乃の身体は支えていたはずの箪笥と一緒に壁に沈んだようになってしまった。
倒れる、と気付いたときには、びたん、と秋乃はその身体を前に倒して床に突っ伏しているところだった。
「うぐっ!」
痛い! と叫ぶよりもくぐもった声になった。
額も鼻の頭も打ったようで、鼻の奥が痛いくらいにつーんとなる。
思わず涙も出そうだったのを必死で堪えて、顔を上げた。
「い、いたい・・・」
今度こそ痛みを口に出したが、出した瞬間声が止まった。
目の前は真っ暗だったのだ。
「・・・あれ?」
いつの間に電気が消えたのだろう――そう不思議に思った。
さっきまで部屋の電気は、秋乃が転寝をしている間も煌々と付いていたはずだ。
そもそも、自分が凭れ掛かった箪笥はどこだ。
てゆうか、箪笥が倒れるってどういうことだ。
確かにあのマンションは、学生のころから暮らして10年以上になるが、箪笥が倒れ掛かったくらいで壁が壊れるとかそんなつくりって建築上どうなんだ。
いや本当に、箪笥はどこだ。
秋乃は暗い中で答えを求めて考えるだけ考えて、自分の身体の下があの金具の取っ手の付いた箪笥ではないとはっきり理解をしている。
冷たい、床だった。
いつまででもその床に転がっていても仕方がない、と手を付いて身体を起こすと、何かの布が顔に当たる。
「ん? なにこれ」
箪笥の中身がこぼれたのだろうか、と手に触れると、なんとなく吊るされた服のように感じる。
箪笥の中は下着とかシャツとかカットソーで、こんなものを入れてはなかった――秋乃はそう思いながら暗い中で手さぐりに確認すると、突然目の前が明るくなった。
「――誰だ?!」
低い、男の声だった。