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週末☆トリップ  作者: 秋野真珠
第一部
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39 王宮探検と婚約者 ②


グルグルとした何かを腹に溜めたまま、秋乃は綺麗な朝日の中目を覚ました。

大きな窓――フレンチ窓っていうんだっけ、とぼんやり思いながら、天蓋付きのふわふわお姫様ベッドから身を起こす。

カーテンを開けてくれたのはもちろんシエラである。今日もメイドっぷりは素晴らしい。

「おはようございますアキノ様」

「・・・おはようシエラ」

少し声がかすれていた。寝起きだから仕方ないが、どう見ても年下の侍女に100ボルトの笑顔を向けられているのにこの違い。

秋乃は自分にちょっと情けなくなりながらベッドから降りた。

明日は、もっとちゃんと起きよう。

そう決めて朝の用意をする。シエラは顔を洗うための桶やお水もちゃんと用意してくれていて、秋乃はどんなホテルだってここには敵わないと思うと感じた。

自分でするメイクはざっとしたいつものものだ。慣れた手つきで手抜きとは言わないものの簡単メイクにシエラは少し興味があるように見ている。

「今度、教えてあげるね」

コンシーラーだとかチークだとか、やっぱり女の子は気にするものだと思うんだ。

秋乃は最後にビューラーを片付けながら、用意されていた着替えを前に気合を入れる。

「――よし」

今日は、秋乃は自分の持ってきている着替えを身につけるのではない。シエラが用意した、こちらのドレスを着るのだ。

なぜなら――王宮をうろうろするからである。

前回は何も考えず、スーツのまま動いてしまったけれど、あれは目立つのだ。そしてリリアに迷惑がかかる。リリアは気にしないと言っても、状況を理解すれば秋乃も納得する。

そして、これを着て晒してやるわと覚悟を決めた。

出来るだけ、大人しいものを選んだつもりだ。

リリアのようにどんなものを着ても――それでも最上級のものだろうが――似合うとは思わないので、自分が着ても違和感が少ないもの、そしてシエラがお似合いですと言ってくれたもの。その中でシンプルな、すとんとしたドレス。

それでもドレス。裾は床に付いている。ヒールを穿いてこれ歩けるの――秋乃は自分に不安になりながら、靴だけは見えないのだからと履きなれた自分のブーツで勘弁してもらうことにした。

リリアが履いているような、折れそうな靴を履いてドレスなど着れない動けない。

肩骨のラインまで襟ぐりが広がり、胸元に緩いカーブを描いて、背中への開きのほうが大きい形。袖は長く、そで口はたっぷりと広がるほど広い。指先まで隠そうと思えば隠れる。

ハイウエストで胸元の下で切り替わり、足が長く見えるのは嬉しい。

スカートのドレープは大きく、何枚か重ねてある生地が歩くとヒラヒラ綺麗だ。

秋乃の髪と同じ色のウィッグは、まとめた髪を背中に下ろす形になっている。

こうすれば――秋乃もこちらの世界の人と変わりなく見える。はずだ。

秋乃は鏡に映った自分を見て、誰だこれと笑った。まるでコスプレ――いや、コスプレそのものだ。とりあえず、悪目立ちすることはないだろうと満足したあとで、案内人を待つ。

「・・・・・・」

ソファでシエラにお茶を淹れてもらったが、落ち着かない。

視線は少し慣れた部屋をうろうろとしているし、スカートの中で靴も揺れている。

どうしてこんなに落ち着かないのか。理由はひとつしかない。

案内人が不機嫌な男だからだ。

昨日勝手に王さまに決められた案内人は、結局覆ることはなかった。命令だと言われれば従うヴァレリーは、反論もしなかった。

どうして何も言わないの! ――秋乃は盛大に不満をぶつけたかった。ヴァレリーが何かを言ってくれないかぎり、どうにもならないからだ。

秋乃は結局「お客様」である。ここの主人――王さまだ――が決めたことに、文句を言えるはずがない。

王宮探検はとても楽しみだけれど、一日ずっと眉間に皺を寄せた男が傍に居るのかと思うと、落ち着かない。すでに落ち着かない。

それを待っていなければならないと思うのも落ち着かない。

「アキノ様、何か気掛かりでも?」

ソワソワした秋乃に、シエラが心配そうに伺ってくれる。

秋乃は苦笑した。

「いやぁ・・・うん、その。案内してくれるのは嬉しいんだけど、王宮探検ってとっても楽しみだし・・・ただ、案内してくれる人は、シエラじゃ駄目なのかなって思って」

気軽に口にした秋乃だが、シエラの反応にしまったと思った。

シエラは複雑な顔で、肩を落とししょんぼりとしたのだ。

「申し訳ありません・・・」

「えっ、どうしたの?!」

「私では、場所が限られてしまいますので、アキノ様がご満足されるご案内は致しかねるのです」

王妃付きの侍女でも、位があるようだ。まだ若いシエラには、入れない場所もあるのだろう。

それを思うと、近衛司令官などという素晴らしい肩書を持った男は入れない場所などないに違いない。案内人に相応しいのだろう。

秋乃は二重の意味で残念に感じた。

「ああ、ごめんねシエラ、わがまま言いました」

頭を下げると、シエラも慌てた。

「お止めください! 私に謝罪など不要です!」

「どうして?」

「アキノ様はカオル様に繋がる尊きお方です」

つまり、偉い人に繋がっているから秋乃も偉い。

秋乃はその考え方に顔を顰めた。

「それはどうかなぁ? かおる姫は確かにすごい人だったのかもしれないけど、私は普通の人だし。それに偉いからって、間違ったら謝らないでいいってことはないでしょう?」

秋乃としては一般的な、自分の考えを述べただけなのだが、シエラはなにやらとても感動したようだ。目をキラキラさせて手を合わせている。

「アキノ様・・・!」

そんなにすごいことを言ったつもりはないのだけど――秋乃がどうしてやろうかと思っていると、部屋のドアがノックされた。

「――俺だ」

シエラがすぐに開けたけれど、秋乃は眉を寄せた。

どちらの俺様ですかと問い詰めたい気分の声だったからだ。

現れたヴァレリーは、騎士らしく制服を着ていた。

制服は三割増って言うけど・・・これはどうなの――秋乃は不機嫌な男でも割り増しされることに制服効果の凄さを実感していた。

白い隊服は、縁取りが深い青色で金色の房が肩から流れている。動きやすいためか腰のあたりまでしかないジャケットに、腰帯をして剣を佩いていた。

飾りものに見えない剣に、秋乃は視線が向いてしまう。

「なんだ」

じっと見ていた秋乃に、訝しんだ男がじろりと目を向けてくると同時に視線を外した。

「――別に、なんでも」

「それが別にという態度か」

「そうですお気になさらず」

強く睨まれている気がしたけれど、秋乃は顔を背け続けた。

その剣が、ちょっと怖いんですとは言いにくい。

だってこの人は、それが仕事なんだ――秋乃は現代日本とは違う世界を、心の中に起こる少しの不安と恐怖とで実感した。

武器は人を傷つけるもの。でも、ヴァレリーはそれが仕事だ。

秋乃は本当に違う世界にいることを、不安の中で感じた。




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