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週末☆トリップ  作者: 秋野真珠
第一部
33/56

32 夢の確認 ①



どうにかその週も終りを迎える頃、秋乃はすでにぐったりとしていた。

仕事で疲れているのではない。週末はまた夢の国に行けると思って夢想していただけに、逆に元気になっていたくらいだったのだが、部長からの勅令に表情も固まった。

秋乃と一緒に固まったのは、後輩の筑波と同僚の赤松拓志である。

呼び出された瞬間から、嫌な予感はしていたのだが、断れない頼みに一気にどんよりとした気持ちになる。

部下たちの気持ちが解るのか、年配の部長も申し訳なさそうに苦笑した。しかし誰かがやらなければならないことだった。

秋乃たちに託された仕事――それは年末の忘年会幹事だった。

「ひどい・・・部長くじ運悪すぎです」

部長から辞令を受けての帰り、筑波が肩を落として落ち込んだ声上げた。

去年の忘年会担当は総務部で、筑波は今年総務部からの移動だった。去年も幹事を担当したらしい。2年続けてだと言うと、相当に運が悪いと言うしかない。

秋乃にしても、今までに2回幹事を引き受けたことがある。その経験から、もうしたくないという結果がいつもある。

この会社の忘年会は、盛大だ。

仕事納めの12月28日、ホテルの宴会場を貸し切って盛大な立食パーティを行うことになっている。参加者は社員はもちろん派遣社員とパート勤務者、及びその家族である。

パーティと言うからには催し物も用意して盛り上げなければならず、さらには希望者にはそのままホテルに泊まることも出来る。

忘年会を成功させるには、参加者が楽しかったと思えるものでなければならず、それは幹事の責任になるのだった。

終わればやり遂げた感は満載だが、通常業務以外のことで膨大な仕事が増えるために、この時期の幹事になったものは日々やつれるというのが掟のようなものだった。

幹事になる部は、部長会議でくじで決められる。もちろん、部全体で幹事を引き受けるのだが、それを細かくまとめるために選ばれたのが秋乃たち3人だ。

これから年末にかけて、忙殺されることが予定されている。

「去年受けた人は除外してくれるといいのにね・・・」

「・・・それだけ出来る子だって期待されてるのかもしれないよ?」

秋乃と赤松に慰められる筑波は、キッと強く睨み返してくる。

「去年3キロ痩せたんですよ! 嬉しいけどやつれて痩せるのは嫌です! そんなことなら出来ない子って言われるほうがいい!」

正直な筑波に苦笑してしまう。

きっと、秋乃も赤松も同じようにやつれることが予想されるからだ。

「とりあえず・・・土曜日、いつものHホテルとの打ち合わせに行きましょう。それから、英気を養うために美味しいもの、食べに行こう?」

もちろんそこは部長に奢ってもらおう、と決めている秋乃である。

他の二人も、賛成の声を上げて、週末の予定が決まったのだった。

秋乃は楽しみにしていたことが潰れて、二人よりも深く溜め息を吐いた。

目の前にぶら下げられた餌を寸前で取り上げられた気分だわ――秋乃は楽しみにしていた分だけ落ち込み、そして少し不安にもなった。

もしかして、先週行ったこと、夢だったりして――現実を知れと言われたような気がして、秋乃は帰ったら箪笥を確かめてみようと考えた。



部屋に帰ったのはすでに21時になっていた。

これから忘年会が終わるまで続くのかと思うとぐったりするが、部屋に入ると目に入る箪笥を見てすぐに気持ちを改める。

夢ではない証拠が欲しい。

箪笥の引き出しからくすんだビー玉を取り出して、曾祖母の言っていた呪文を小さく呟く。

「左の真ん中に桃色を、真ん中の上に空色を、右の下に草色を入れて――続きは夢の中に」

言い終わって、ゆっくりと小引き出しを押し込んだ。

向こうへ届きますように、と力を入れると、予想以上に箪笥は軽くなって、本当に壁はどこへ行ったと思うほど身体が一緒に倒れ込んだのだ。

「――っ!」

べたっと音が聞こえそうなほど、秋乃は冷えた床に座り込んでいた。

視界は暗い。

ただ、前回顔に掛っていた布の感触はない。

しかし自分の部屋ではないことから、成功した――夢の世界が確かにあったことに安堵する。

夢じゃない――秋乃はそう思って、暗い中でほっと息を吐いた。

そうすると、目の前の扉がゆっくりと開かれて入り込んできた光に秋乃は目を眇める。

目を慣らしながら明るい場所を見上げると、光を背負った不機嫌な男がそこに立っていた。

「・・・・・」

「・・・・・」

座りこんだ秋乃と、この部屋――クロゼットの持ち主である、ヴァレリーは、しばらく無言で視線を交わす。

先に口を開いたのは強く眉間に皺を寄せたヴァレリーだった。

「・・・何をしている?」

「あー・・・ええっと」

問われて、まさか夢じゃなかったかと確かめただけですとは答えにくい。

秋乃は明りの入ったクロゼットをきょろきょろと見渡して、前回あったはずの衣類が無くなっていることに気付いた。

どうしたんだろう、と不思議に思っていると、頭上から答えが返ってくる。

「ここが通り道になるからと、移動させられたんだ」

秋乃の視線だけで疑問に答えたのはすごいが、「誰かさんのせいで無駄な仕事が増えた」と言わんばかりの無言の圧力があった。

その通りだけど――秋乃は申し訳ないと思う。

秋乃が指定したわけではないが、ここは衣類をしまう場所で通り道になるはずもないところだったのだ。

「・・・すみませんでした」

秋乃は座ったまま頭を下げる。

正直、自分が悪くないとも思っているのだが、このくらいの謝罪で大人として頭を下げるのは苦ではない。

ヴァレリーが不機嫌なことは、秋乃のせいであることが大きいだろう。どんなことであれ、頭を下げてしまえと思ったのだが、それはあっさりと見破られてしまった。

「意味のない謝罪をする意味があるのか?」

「・・・・・」

気持ちも何もこもっていないこともバレているようだ。

不機嫌な声がさらに低くなった気がして、秋乃は下げた頭を上げにくくなってしまった。




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