14 おばあちゃまの秘密 ②
開かれたドアから入ってきたのは、記憶が違ってなければ昨日王妃様と紹介された綺麗な女性だ。
天蓋のカーテンからそっと顔を覗かせた秋乃が見る限り、今日も素晴らしく綺麗だった。
クリーム色のドレスは、落ち着いて身体のラインが引立つような美しいさだ。
襟ぐりが深く広く開いていて、肩の半分から先にヒラヒラとした袖が長くついている。
そんなに綺麗な鎖骨を見せられると緊張してドキドキしちゃうんですが――秋乃は同姓だというのに目のやり場に困る、と視線を彷徨わせる。
「おはよう、アキノ。よく眠れたかしら?」
「あー・・・はい、ありがとうございます。ぐっすり眠りました」
体調から、とてもよく眠ったことだけは解る。
そのことは確かなので素直に頷いた。
それに安心したのか、リリア王妃はほっとしたように微笑んだ。
「良かった。昨日は疲れていたのに無理をさせてしまって」
「むり・・・」
リリアに言われて、秋乃は眠る前の記憶を思い出す。
が、どうしても自分がいつ落ちたのかが解らない。
「あの、王妃様」
「リリアでいいわ」
「・・・リリア、様」
「リリー」
自分の愛称を教えるリリアに、秋乃は固まってしまう。
この可愛い生き物ののわがままに、勝てるやつがいたらここに連れてこい、と言いたい気分で、負けた秋乃はぐったりとしながらリリアの名前を呼んだ。
「リリー・・・」
「はい。なぁに?」
素直に返事をしたリリアに、秋乃はすでに疲労を感じながらベッドの上から、カーテンをかき分けてそっと床に降りる。
「昨日、私どうしたんでしょう? その・・・正直に言うと、いつ、私は、ここで寝たんでしょう・・・?」
思い返しても、自分がへたっていたのはあの不機嫌な男――ヴァレリーという男のベッドのある部屋だったと思う。
しかし見渡してみても、カーテンが引かれ大きな窓から光の入った部屋は明るい色で統一された調度品に囲まれていた。
絨毯も白い。しかしただ白いのではなく、同じ色の糸で細かな刺繍が施されていて、秋乃は一度着いた床から足を浮かせそうになってしまう。
秋乃が横になっても十分寝られるような大きなソファと、その前にあるローテーブルは金色で縁取りをされていてこれまた値段が想像できない。
振り返れば、自分が寝ていたベッドの布団も柔らかさと肌触りが半端なく気持ちよかった。
天蓋から掛るカーテンも薄いレースが幾重にも重なって暗さを出しているのだと解るともう触る気にもなれない。
ああ、私って庶民――秋乃は自分の小ささを実感しながら、昨日の部屋を思い出す。
この部屋を見ると、豪華に見えたあのヴァレリーという男の部屋はとてもシンプルに思えた。
シンプルというか、実用的だ。
眠るためのベッドと、少し座るためだけのテーブルに椅子。
あれが男の人の部屋だと言うのなら、これはまさしく女性のための部屋だ。
そしてそのヴァレリーの部屋から、この部屋に来た記憶が途切れていて、秋乃は困惑しているのだ。
リリアは納得したように頷いた。
「そうね、あの後、ヴァレリーの部屋の床ではゆっくり落ち着けないと思って、部屋を移動しようとしたの。お茶の用意もさせようと思って、貴方には部屋の用意が出来るまでソファに座って待っていてもらったのよ。そうしたら、とても疲れていたのね。貴方はそのまま眠ってしまっていたの」
「・・・・・・」
言われて、段々と思い出す。
そういえば、クロゼットの箪笥に向かって話していたのだ。
秋乃には驚くことばかりで、さらに込み入った話になりそうだから一度落ち着くためにも場所を変えよう、と言われて、その部屋のソファに座りなおした気がする。
そこから、本当に記憶がない。
秋乃は顔が沸騰するかと思うくらい真っ赤になった。
うぁあ――っこんなとこで、いきなり寝落ち?! そんなのってあり得る?! 仮にも国王とか王妃とか・・・っ強姦まがいのことをしようとした男の部屋で?!
秋乃は自分の神経の図太さに呆れ、ここに穴を掘って入りたい、と本当に床をじっと見つめた