13 おばあちゃまの秘密 ①
目が覚めたら、ちょうどいい柔らかさのベッドで、身体に掛る布団は心地よいくらいさらっとしている。
寒くて毛布を出したはずなのに、どうしてこんなに気持ちいいんだろう――秋乃は考えながら、しかしこの心地よさには勝てず朝のまどろみを堪能した。
身体は週末で、休みだったことをちゃんと覚えていて、すぐに起きることはないと満足して二度寝することにする。
ごろり、と身体を返して気持ちの良い布団に足を伸ばしていると、身体が何かおかしい、と感じた。
こっちに向くと壁で、広くないベッドでは寝がえりを打って足を投げるといつもぶつかっていたはずだ――そう身体が覚えていて、秋乃のまどろんでいた思考が揺れる。
もしやベッドから落ちたのかな、この年で――不安になってそっと目を開けると、天井が見えなかった。
朝なのに、どこか薄暗い。
秋乃の部屋は遮光カーテンをしているものの、その隙間から光が差し込んで朝はちゃんと明るい。
だというのに、この部屋は薄暗い。
もしやまだ夜だったか、とも思えないのは、薄暗い中でも部屋の様子が見えたからだ。
秋乃の真上にあるのは、いつもの低い天井ではなかった。
高い天井から吊るされた、大きな布がある。丸い円盤を囲むように、そこからカーテンがベッドを覆うように床まで落ちているのだ。
これって、なんだっけ、天蓋――秋乃はぼんやりしたまま、その名前を思いつくものの、いったいいつ自分のベッドに天蓋なんてつけたっけ、と記憶を探る。
ええと昨日は、仕事から帰って、いつ寝たっけ? えーっとテレビは見てない・・・けどそうだ、転寝をして、慌てて起きて、それから――寝起きの鈍い頭を必死に回し始めて、さあっと血の気が引くことを思い出した。
「そうだ!」
叫んで、身体をいきなり跳ね起こした。
「う・・・っ」
起こしてから、貧血が頭を襲う。眩暈に耐えるように、秋乃は柔らかなベッドに手をついた。
ゆっくりと回る世界から現実の視界を取り戻すと、そこは頭を疑うような状況が待っていた。
「・・・なにこれ」
まず、秋乃の寝ているベッドがバカみたいに大きい。
こんな中で一人で寝るなんて、怖いくらいだった。
周りを天井からの天蓋からの大きなカーテンが囲っている。部屋が薄暗く感じられるわけだった。
そして秋乃は自分の格好に愕然とした。
最後の記憶のままだとしたら、仕事帰りのスーツのままのはずなのに、今は柔らかな素材の長いワンピースのようなものを着ていた。
ノースリーブになっていて、ふんだんに端にはレースが使われていて、寝相のおかげで膝の上まで裾がめくれていて秋乃はもう一度違う意味で眩暈がした。
30前になってこんな恰好をしている自分と、そしてあまりの似合わなさにだ。
いったいどうしてこんなことに――自分の最後の記憶はどこだ、と必死に頭を働かせるが、なかなかそれは戻ってきてくれない。
その秋乃に、救いの手があった。
天蓋の向こう、部屋のドアがノックされて、声がかかる。
「アキノ? 入ってもいいかしら?」
「・・・っはい!」
柔らかな朝に相応しい優しい声に、秋乃は反射で返事をした。