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週末☆トリップ  作者: 秋野真珠
第一部
13/56

12 箪笥の向こう ⑦

「は、初めてじゃないって・・・ここに、他にも日本人がいるんですか? どこに?」

驚いたまま問いかける秋乃に、リリアがにっこりと笑う。

綺麗な人の笑顔は、相手の心も穏やかにする効果があるものだ――と秋乃は初めて知った。

「アキノはタンスから来たのでしょう? それはキリのタンスなのでしょう?」

「そ、そうです・・・」

「そのクロゼットからだったかしら?」

リリアが示す先には、秋乃が出て来たヴァレリーのクロゼットの扉が開いたままになっていた。

まず歩き出したクリフォードに従い、秋乃もリリアに手を引かれベッドから降りてその扉に向かう。

「聞いた話の通りだと、この壁にはタンスが――ほら」

クリフォードは扉を全部開ききってクロゼットに光を入れ、掛けてあった服を隅へ押しやると、そこには本当に秋乃の曾祖母のタンスがあった。

「え・・・っえ――? あれ、だって・・・いつの間に? どうして?!」

クロゼットの奥の壁に、まるで生えているように箪笥が置いてある。

この床に倒れたときは、真っ暗で後ろを気にする余裕もなかったが、最初から秋乃の背中にこの箪笥はあったのだろうか。

触れると、それは馴染みのある感触だった。

金具の錆び具合も、秋乃に見慣れたものに違いない。

ただ、小引出が左側から右側になっていて、3ヶ所出しっぱなしになっている。

その場所は、秋乃がなんとなくでビー玉を入れたあの場所だった。

「まぁ、これがタンスね? 大きな入れ物ね!」

リリアは初めて見た、と箪笥を前にはしゃいでいる。

そこでもう一度秋乃は首を傾げる。

箪笥を知っていたのではないのだろうか――秋乃は矛盾を感じていると、それが顔に出ていたのか苦笑したクリフォードが教えてくれた。

「我々は、見たことがあるわけではないんだ。ただ、ずっと昔から教えられてきたことを、知っているだけだ。この開いたままの部分を押すと――今度はこちらからニホンへの扉が開く、と」

「――?!」

秋乃の驚愕は、このとき一番大きな反応だった。

目を丸くして、クリフォードを見上げる。

「どうした?」

「か・・・帰れる、の?」

「ニホンに? もちろんだよ」

「ほん・・・本当、に?」

しっかりと頷くのを見て、リリアを見ると、綺麗な王妃も同じように頷いた。

それで、秋乃は何かが切れたようにその場に座り込む。

まさに電池が切れたように、へたり込んだのだ。

「アキノ? どうしたの?」

心配するリリアの声に、秋乃は声もなく笑ってしまう。

帰れる――それがこんなにも嬉しかったことはない。

不安で不安で仕方なかったのは、名前も解らないような恐怖に圧迫されてたように感じたのは、もう帰れないのでは、という漠然としたものが秋乃のどこかにあったからだ。

それがあっさりと解決して、今手の届くところに自分の安全で平和な場所があると知って、力が抜けるほど安堵したのだ。

「なんだ、帰れる――帰れるんだ、ああもう、びっくりした、本当、びっくりした・・・っあの仕事も終わってないし、部屋も片付けてないし、ああもう、本当、びっくりした!」

安堵すると、同じことしか言えなくなる。

秋乃はただ、この混乱全てがびっくりした、だけの事件に収まると解って繰り返した。

その秋乃の手を床から取ったリリアは、綺麗な顔に少し憂いを浮かべていた。

「アキノ、帰れるのだけれど――すぐに帰ってしまうの? 少しくらいここにいてちょうだい? 私、貴方に会って聞きたいことがたくさんあるの」

「えーはいはい。何でも、いくらでも答えますよー」

秋乃はここにきて、初めて笑顔になった。

すぐ手を伸ばすところにどこでもドアのような扉があるのなら、いっそこのファンタジーを楽しんでしまえ、という余裕が出て来たのだ。

目の前にいるのは夢に見ていたお姫様だ。

実際には王妃様らしいが、見た目にはお姫様に違いない。

そのお姫様は、輝くような笑顔になった。

こんな眩しい人を初めて見た――と秋乃は目を眇める。

「アキノは、なんだかカオル姫に似ているわ。もしかして、ヒナコ様に繋がる方なのかしら――?」

もう驚きつくした、と思っていた秋乃は、再度驚いた。

ヒナコ――雛子は、曾祖母の名前だった。


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