序章
幼い頃の寝物語を聞かせてくれたのは曾祖母だった。
今思うとそれは独特な物語で、桃太郎でもカチカチ山でもなく、一寸法師やかぐや姫でもない。
王子様とお姫様が出てきて、笑ったり、怒ったり、泣いたり、そしてまた笑う――絵本を読んでいるわけでもないのに、曾祖母はいつも楽しい話を聞かせてくれた。
それはまるで、思い出を懐かしむような、記憶を蘇らせているような物語だった。
「おばあちゃま。それで? かおる姫はどうなったの?」
曾祖母は添い寝をするような人ではなかった。
幼い私を布団に寝かせて、その布団の隣に正座して背中をぴんと伸ばしていた。
いつも淡い色の着物を着て、幼子を見下ろす視線は優しいものばかりだったのを覚えている。
曾祖母の話す物語の主人公は、いつも「かおる姫」だ。
大きくなってから知ったことだが、それは若い頃、神隠しにあったという曾祖母の妹の名前だった。
かおる姫はとても可愛くて、優しくて、誰もがかおる姫を好きになる。
そんなお姫様だった。
幼い私が布団から曾祖母を見上げると、薄い手のひらが子供の身体の分膨らんだ布団を優しく叩いた。
「かおる姫は、王子様と、お友達に囲まれて、幸せに幸せに暮らしました」
曾祖母の顔は、何より本人が一番幸せそうだった。
だからかおる姫は本当に幸せだったのだと、幼い私は疑うことなどなかった。
そして物語の最後は、曾祖母の口癖で締められる。
「左の真ん中に桃色を、真ん中の上に空色を、右の下に草色を入れて、続きは夢の中に」
不思議な呪文のようだった。
唄うように口にするときの曾祖母の顔は忘れられない。
それは本当に、夢の中にいるような幸せそうな顔だった――
いつも違うジャンルを書いているんですが、こういうのも大好きです。心の思うままに書きます。