体操
アイツは突然思いつき、テレビで習得したダイエット方を始めた。
アイツは三日坊主どころか、一日しか持った事が無い。三日続けば良い方だ。今回は、どれ位続くだろう。
だけど……アイツの姿……。ププッ。
台の下に足を突っ込み、横向きに寝転がり、横腹の筋肉を鍛えるべく、上体を起こす。
それを何度も繰り返している。
それをじっと見ていると、その姿はだんだんとトドに見えて来る。
「まるで、トドだ……」
俺がボソリと呟いた言葉に、アイツは体操を止めガバッと立ち上がった。
「トドじゃ無いもん! フン、フン!」
と、アイツは膨れっ面をする。
「ぞろりん! アイツ、あんな事言うよ……酷いよね」
と、アイツは誰かに話し掛けた。
ん? 誰に話し掛けてるんだ? そう思って俺は振り返ってみた。
「!!」
「お前! 何フィギアに話し掛けとると? 痛いわ!」
「あぁあ。なみちゃんのウエスト良いなぁ」
「は?? それ細過ぎだろ! もうそれ、内蔵無いって! ねぇ」
俺はリビングにやって来た姉一号に同意を求めた。
「本当だ! 内蔵無いって!」
姉一号が、話しに加わる。
「女って、なんで細く成りたいと?」
「まぁ、ほら、あれさ。トドだって人魚に憧れるんだよ」
「あ~。成る程ね」
「あっ。トドじゃ無いわ、ジュゴンだった」
「あんま、変わらんて!」
アハハハ…。
俺と姉一号が軽快に話を進めると「失礼な!!」とアイツは、違う体操を始めた。
ぎこち無い体操を繰り返し、その日は終わった。
次の日。
「あぁぁぁぁぁ、筋肉痛ぅぅぅぅぅl! いたぁぁい!」
アイツが大声で叫んでいる。うるさい。
「今日も頑張る!」
今日もするのか……あの「トド体操」思わず出た言葉に、アイツは敏感に反応した。
「トド体操じゃ無いもん! もうトド体操はしないもん!」
膨れっ面だ。
「トド体操って言ってるし…」
「うるさい!」
あっ……キレた。
今日の暇つぶしが出来た。コイツをいじる事。
いつもは、弟をいじっているが。遊びから帰って来るまでは、コイツをいじり倒そう。
ププッ
「トド体操」
「だから、トド体操じゃ無いもん。お前もやって見ろ! トド体操」
ははっ。又言った。バカだこいつ。ププッ笑えるぅぅ。
動く姿はコミカルだ!
何日か経った。
今回は、頑張るな。もう一週間続いてる。何でだ……
そうか、解ったぞ。
俺の卒業式と入学式があるからだな……
又、無駄な努力を……
「誰も見らんて!」
「だって。スーツが、キッチ キチなんだもん! 少しは細く成んなきゃ!」
は~ははは。無駄な努力を……
【母の呟き】
いやあ。ほら、もうそろそろ健康の事を考えないといけない年齢だから、ねぇ。