跳ぶ
計太郎小学一年の夏だった。
「俺、行ける!」
「いや、いや、いや、いや」
皆で止める。
「大丈夫!行ける!」
「無理、無理、無理、無理」
ここは遠浅の海。今は干潮で干潟が現れている。
海に向かって真っ直ぐに延びる細い道路沿いに、海水が取り残された小さな小川状のモノがあった。計太郎が向こう側に跳ぼうとしているのだ。
「大丈夫!跳べる!」
両手の拳を握り締め、よぉいドンの形を取っている。
「いや、だから…。無理だって」
皆、苦笑している。
きっとあそこの海藻の所に、着地しようとしているのだ。
俺達は知ってる。あの海藻の下には海水がある。でも計太郎はあそこに地面があると思い込んでいるのだ。
「あの海藻の下には海水があるよ?」
「大丈夫!行く!」
「いや…だから」
と言いかけた時には、弟はもう跳んでいた。
ビシャッと海面に着地した弟は、大慌てで向こう側へ足を踏み入れた。
固い地面に見えたその場所は思った以上に柔らかく、踏み込む場所を間違えると、ズボッと深く入ってしまう。それもその筈、元々海底なのだから。
今にも泣きそうな顔。
皆は、大爆笑。
「だから無理って言ったじゃん」
「だって…出来ると思ったもん。…どうやって帰ろう…」
半泣き状態だ。
父が不揃いに並んだ石の上を歩いて向こう側へ渡る。弟の手をひいて、一歩づつ
「この石に足を乗せて」
と誘導する。
やっと、こっち側へ戻れてホッとしている。
弟は、運動が苦手だ。と言うより、鈍臭い。なのに、なぜ跳べると思ったのか、不思議でならない。




