滝本信彦 3
「編集長。俺、やっぱり小説書きます」
そう編集長に告げたのは、12月下旬の朝だった。
編集長は、1月号の記事だけ書いてくれといった。それが終わったら出版社へ行けとも。
考えに考えた結果だった。成功したい。その思いが昔からどこかにあったからかもしれない。俺は、小説家として名を残そうと決意した。
もちろん、失敗の可能性も考えた。それでも、何とか老後まで持つだろう。
皆は祝福してくれた。一番長い付き合いだった江本は、どでかい花束を持ってきた。
大晦日まで仕事をして、除夜の鐘がなり終ったらここを去る。かっこいい設定。
白髪も見えてきた四十代は、実は目立ちたがり屋だった。
[『おじいちゃん、宇宙人はやっぱりいなかったよ。でも、人間ならいっぱいいたよ。僕は、人間と友達になるよ』おじいちゃんの写真が少し揺れた。おじいちゃんの顔が笑った気がした]
エンターキーを押して、『宇宙人探索』の最終話を挙げた。
パソコンを閉じて、通勤バッグも閉めて、最後に編集部をぐるっと見渡した。
除夜の鐘はまだ鳴っている。ついでだから、そう広くない社内を一周して来よう。
さすがにこの時間帯に人はいなかった。警備員のおっさんもいないから、少し不安になった。
会社の外に出た。この辺は夜は暗い。人の気配もない。除夜の鐘はまだ鳴っている。
「ザ・スペースコーポレーション」
江本たちはお祝い&お別れパーティーを開いてくれた。12月号にやめることをかいたら手紙がいっぱい来た。編集長は給料袋の中に手紙を入れていた。
「ザ・スペースコーポレーション」
もう一度つぶやくと、涙が出た。
除夜の鐘は、鳴りやんでいた。
変な終わり方でごめんなさい。
文才がないもので……
もしかしたら続編を書くかもしれません。
その時はよろしくお願いします。