生野拓登 1
「おい、拓登。金貸してくれよ」
「ああ、いいよ」
「あ、俺にも!」
「ああ、わかったよ」
「「サンキュー、拓登!必ず返すわ」」
そういって返してくれた人は一人もいない。
僕はお人好しで知られている。お人好しだから引き受ける。お人好しだから代理で怒られる。お人好しだから使われる。お人好しだから金も貸す。そして、お人好しだから返されなくても怒れない。
お人好し。それが、僕の存在意義なのかもしれない。
お人好しじゃなかったら、僕は影にかすんでいただろう。皆と親しくなれなかったろう。前はお人好しであることがいいことだと思っていた。
でも、最近、そうは思えなくなった。
物を運んでいる間。怒られている間。僕は、自分が何をしているかわからなくなる。
これが仲いいってことなのか?違うだろう。僕は自問自答する。
それで、次は貸さないぞって思っても、やっぱり貸してしまうお人好しだった。
僕は「月刊宇宙人」を定期購読している。
SFとか好きで、そのせいでいじめられていた。今は隠しているけど、ばらしたらまたいじめられるだろう。
変わりたくて、強くなりたくて 月刊宇宙人を読んでいるとちょっと強くなれる気がする。
今月の月刊宇宙人に、とんでもないことが書いてあった。
「宇津谷博士の大成功 強くなりたい君へ」
思わず月刊宇宙人を握りしめてしまった。