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第七話『共喰い 下』




 



 その辺り一面が、真っ赤に染まっていた。




 たった一分にも満たない間に地獄と化した其処では、辺りにいた人間達が悲鳴を上げて逃げ惑っている。その悲鳴に男は酷く不機嫌そうな顔をして、まだあどけなさの残る顔を顰めた。のそのそと脱いでいたサンダルを履けば、その赤い水溜りがぴちゃぴちゃと音を立てた。

 そのすぐ足元には右腕を無くし右下の背中辺りを大きく欠損した男と、少し先の道路には、首から上を無くした首無しの男が石ころのように転がっている。


 もう既に人が逃げ去った道には三人しかいない。最も、うち二人は生きているというにはあまりにも悲惨な姿に変わっているのだが。


 足元に横たわる男を、まるで蟻を踏み潰すかのようにサンダルを履いた足で踏み越えた男は、地面に落ちて無惨に潰れたシュークリームの前へとしゃがみ込んだ。中のクリームが溢れ出たそれは、横たわる男の作る血の水溜まりに半分沈み、もう食べ物とは言えない代物へと変わっている。


「まだ食べてないのに……。まあ、いいや…、ハチに買ってきてもらお……」


 そう言って、男はゆっくりと立ち上がった。















 




 ゾクリ____と、その瞬間男は背後に異様な気配を感じた。


 野生の本能かのように素早く振り返ると、其処にはさっきまで首を無くして道に転がっていた筈の石ころの姿。


 

 

 此奴、死んだはずじゃ____


 


 ゆらりと此方を向いたまま立ち尽くしている石ころ__回道は、爆散するようにして弾け飛んだ筈の頭が再生し、目や鼻や口をしっかりと形作って、元通りの姿で此方を向いていた。

 

 そのとても奇妙な光景に、男は目を見開く。先程自分が壊したはずの首から上が元通りに再生しているのだ。


 


 何で、此奴は生きてる____?


 


 男がそう思うと同時に、此方を見ていた回道が男の元目掛けて走ってきた。


「……っ」


 しかし走ってきたと思った瞬間に襲い掛かる鋭くて長い爪。走るというより飛び掛ってきたという表現の方が近いようだった。

 

 とてつもない速度で飛び掛ってきた回道の様子は、どこか可笑しい。目は燃え上がるように赤く血走り、白髪の混じった黒髪は全てが真っ白に染まって、口から覗く歯は牙のように鋭く尖っていた。そして何より、十本の指から生える爪は鋭く長く、背を折り曲げて男へと狙いを定めるその姿はゆらりと朧気に揺れ、人間というより(けもの)のようだった。


 一瞬の出来事で不意を突かれた男は避けるのが遅れ、回道の鋭い爪が頬を掠める。素早く回道から距離をとった男が頬へと手を滑らせると、ぬるりと赤い血が男の青白い肌を伝っていた。


「……お前、ほんとに人間?」


 回道へと問い掛けた男が首を傾げる。しかし、問い掛けた回道からは、「ゥヴ……」と小さく唸るだけで返事がない。


「僕、確かに頭壊したよね。何で頭部(それ)、再生してんの?」


 トントンと自分の頭を指しながら男が問い掛けるが、唸るだけでやはり回道からの返事はない。いや、返事がないというよりは、まるで声なんか届いていないかのような。


「……あー、面倒くさ……、やっぱどうでもいいや」


 くしゃりと頭をかいた男は、心底面倒臭そうに顔を歪めた。そして先程履き直したばかりのサンダルを脱いで裸足で地面に立つと、指先まである大きめのパーカーを腕まで捲って不健康そうな青白い肌を太陽の下に晒した。

 


 

 

「____全部壊せば、それでいいか」



 



 ヒュッと風を切るように飛び出せば、あっという間に回道の背後へと回り、左足で回道の左脇腹へと蹴りを入れる。バァンッという破裂音と共に、回道の左脇腹部分は大きく弾け飛んだ。そのまま男の蹴りの勢いでうつ伏せに地面に転がった回道の身体からは、大量の血が零れ落ちる。

 そんな回道にはお構い無しに、転がる回道の元へと素早くやって来た男は、裸足の足で回道の両脚を踏み、またもや内側から弾け飛ぶように爆散させた。「ア゙ァ゙ァヴッ」と藻掻き唸る回道を冷たく見下ろし、青白い両足を飛び出る回道の血で真っ赤に染め上げた。うつ伏せに倒れた回道の両腕を、膝を付いて青白い手で抑え込むようにして掴むと、またもやバァンッという破裂音と共にぐちゃりと回道の両腕は爆散した。

 

 左脇腹部分が欠け、四肢を失った回道の姿はどう見ても生きている人間の姿とは言えない。



 

 男は立ち上がって静かに回道を見下ろす。まるで回道の出方を探るように。


 すると、「グル゙ァ゙……ッ」と喉を鳴らしながら、回道の身体はとんでもないスピードで欠損した部分を修復し始める。修復する回道の身体は、ビキビキと音を立て、欠けた部分を一つずつ驚異的な速さで再生している。


「……化け物かよ」


 回道の姿に男が小さくそう零した。


 すると、それが合図かのように回道は再生した身体でバッと起き上がるとくるりと空中を一回転しながら男から距離をとった。すっかり再生した両脚で地面を踏み、真っ白な髪の毛から覗く赤く血走った瞳を光らせると、一直線に男の身体へと飛び掛かった。



 


 

 それは、正に地獄絵図だった。





 

 「ガルァア゙ッ」と唸りながら回道が男へと腕を振り上げる度、その腕を男が自分の腕で庇うと、ぶつかった瞬間に回道の腕が爆散する。男の異能力なのか、男の肌に回道の身体が触れる度、回道の身体は何度も何度も飛び散った。

 

 幾度となく飛び散る身体に、辺りにはどんどん血の湖が出来る。それを二人が踏みつける度に、其処はびちゃびちゃと不気味な音を立てた。回道の肌は何度も再生した事により、その真新しい部分は少し赤味を帯びていた。




 

 ずちゃっと音を立てて、男が回道の攻撃を避けながら地面を滑るようにして降り立つ。


「あ……?」


 降り立った男のすぐ足元には、横たわったままピクリとも動かない仲平の身体。自分の足場に横たわる仲平の身体に、心底不機嫌そうに顔を歪めた男は、何の躊躇もなくピクリとも動かないその身体に向かって足を下ろす。


「……チッ邪魔だな__」












 


 その瞬間、グワッと足を下ろす男の真下に現れた回道の姿。


 

 ッ此奴、いつの間に____!



 男の反応が遅れるのも、それもその筈。今までとは比にならない速度で、仲平の身体を守るようにして男の足元へと現れた回道は、その身をかなり低く低姿勢にして、下から獲物を狩る獣のように、下からその鋭く尖った爪を男の顔目掛けて突き刺した。


 

 速いッ____!!



 ビュッと空を切った回道の爪が、間一髪で避けた男の左腕へと突き刺さる。突き刺さった爪を無理矢理振り払った男は、ズサーッと地面を滑って後退った。

 仲平を守るようにして立った回道の血が、指を伝って地面に横たわる仲平の身体へと流れ落ちる。


 回道の爪によって傷付けられた男の左腕からは、無理矢理振り払った事でポタポタと赤い血が滴っている。その血が、細く不健康そうな男の青白い肌を汚しては地面に伝い落ちた。




 


 その瞬間、男の纏う空気が変わる。




 

「は……?…僕が、壊されたの……?此奴に?……こんな、弱い奴に……?」



 ぶつぶつと呟いては、血が流れ落ちる自分の腕を見つめる。


 

 ただを捏ねる子供ように。癇癪を起こす前の子供のように。



「有り得ない……、僕は強い。…弱い奴(お前)には壊されない……。僕は、強い奴(壊す方)なんだ……。

 


 強い奴()に壊されるのは、弱い奴(お前の方)だ____」




 

 その瞬間、男の身体中を這うようにして赤紫色の痣のようなものが現れる。スッと黄緑色の目を鋭く光らせた男が、バチバチと音を鳴らしながら紫色の稲妻のようなものを身に纏わせて回道に飛び掛かった。


 目を光らせて宙に浮き、持ち上がる髪が角のように浮かんで、背を曲げて四肢を広げながら飛び上がる胴体はまるで牛のようで。



 

 地面に映るその影はまさしく、牛鬼のように悍ましくて、恐ろしい。



 地獄のように赤く染まる此処に、二つの獣同士が今、衝突する____

















 

 





 パァァンッッ!!









 

 二つの攻撃がぶつかる寸前、二人の間を隔てるようにして双方の攻撃は弾かれた。それはまるで、見えない盾に阻まれているように。全くもって攻撃を通さないその盾は、二人の攻撃を弾きながら凄まじい風を巻き起こしている。



 

 何かに気付いたような男は腕を下ろし、スタッと地面へと着地した。男の身体を覆っていた痣が、スゥっと消えていく。

 

 攻撃が弾かれた事で起きた風によって尻もちをついた回道を後目に、男は右側へと視線を向ける。


 

「ちょっと……邪魔しないでよ____弥子」


 

 男が声をかけた方には、酷く焦った様な顔をした狐塚の姿。右手を前へと出している様子から、おそらく先程の二人の攻撃を弾いたのは狐塚の能力なのだろう。不機嫌に顔を歪め、狐塚を睨み付けながら親しげにその名前を呼んだ男は、狐塚と知り合いなのだろうか。


(かい)……、お前……っ」


 困惑した様子の狐塚は、此方を睨み付けながら裸足で立つ男を、(かい)と呼んだ。狐塚はそのまま男の横へと視線を向けると、そこにはいつもと様子の違う回道と思われる人の姿。


 そして____



 

「……仲平…?」



 守るようにして前に立つ回道の後ろには、右腕が無く右下の背中辺りが大きく欠けた仲平と思われる人が、ピクリとも動かず血の溜まった地面に横たわっている。


 懐と呼ばれた男は、この状況に不機嫌そうに舌打ちを零した。


「…あーあ、せっかく良いとこだったのに__」



 突如、ブォンッと男の背後が音を立てた。とてつもない殺気に男が素早く振り返ると、そこには大きく腕を振りかぶった高専寺がいて____





 

 バァンッッ!!



 

 と、空気と空気がぶつかり合うような衝撃音をさせながら、辺りには一際強い突風が吹いた。


 凄まじい勢いで放たれた高専寺の拳を、ギリギリその細い腕で耐えた男は至近距離で高専寺と睨み合う。


「……っねぇ、不意打ちは卑怯なんじゃないの?___狼」


 狐塚同様、高専寺の事も親しげにそう呼んだ男は、どうやら高専寺とも知り合いなようだった。

 

 高専寺は男から少し距離をとって地面へと着地する。男の腕に拳を打ち込んだ高専寺の拳は、第二関節部分の皮膚がボロボロと壊れ、ボタボタと血が滴っている。対する男も、高専寺の拳を受けた右腕は皮膚が裂けたのかポタポタと血が流れ、骨が砕けたのか腕はだらしなくぶら下がっている。

 怒気を孕んだ高専寺の瞳が、男の姿を射抜いた。


「……お前、随分汚れたな」


 高専寺のその言葉に、男は不気味に口角を上げて笑う。


「____仲平ッ!!」


 そんな二人の空間を切り裂くように、緊迫した狐塚の声が響いた。声のする方へと視線を向けた高専寺の目が見開く。目を見開いた高専寺の視線の先には、身体の右側を大きく欠損した仲平を抱き抱えて必死に呼びかける狐塚の姿。


 

 そんな光景に、男は首を傾げて笑った。

 


「あぁ、仲平(あれ)……お前等の友達?なんか、簡単に壊れちゃったよ」

「お前…………____」



 そんな男に青筋を立てた高専寺よりも先に、白い何かが男へと飛び掛った。



 

 パァンッ!と、またもや甲高い衝撃音が耳を劈くと、男と白い何か__回道の間が見えない盾に阻まれて凄まじい風が巻き起こる。


「ヴガルァア゙!!」

「ッしっかりしな回道!其奴とは戦わなくていい!!」


 「落ち着け!!」と、回道に向かって声を荒らげる狐塚は、腕に仲平を抱えたまま右手を前に広げて、やはり二人の間を盾で隔てていた。


「おい!回道どうなってやがるッ!!」

「知らないよ!暴走して、こっちの声が聞こえてない!!」


 「くそッ!」と、珍しく焦った様子で吐き捨てた高専寺は、依然として盾を隔てて向こう側にいる男に飛び掛かろうとする回道の元へと駆け寄る。


「おい回道しっかりしやがれ!!其奴はもういい!!」

「ガル゙ァア゙ッ!!」

「お前ッそれ以上能力使うんじゃねぇ!!」


 高専寺は男に飛び掛かり続ける回道の身体を羽交い締めにしながら、首に右腕を回して離れさそうとする。しかし、口から鋭い牙を覗かせて血を吐き続ける回道の身体は、盾を隔てた此方側を冷たい瞳で射抜く目の前の男を映したまま止まらない。



 

 一体どれ程、回道の身体は壊されたのだろうか。



 

 至る所を破壊され続けた身体は、制服も無惨に破け、新しく再生した皮膚がそこから覗いている。元々の皮膚と比べて少し赤味を帯びた真新しい皮膚は、回道が何度も身体を再生し続けた事なんてひと目見るだけで分かった。

 

 この辺り一帯の道は回道の血が至る所に飛び散っていて、あちこちに大きな水溜まりを作っていた。この辺り一帯が噎せ返るような血の匂いで充満している。その匂いに、高専寺は酷く顔を歪めた。


 

 一つ舌打ちを零すと、高専寺は拘束していた腕を離し、回道の襟足をグッと後ろへと引いて正面に回り込むと、そのまま回道の胸倉を掴んで強く地面へと叩き付けた。


「ガハッ」


 と、血を吐いて回道が倒れる。すかさず馬乗りになった高専寺が、その拳で回道の頬を殴った。加減しているとはいえ、かなりの強さで殴られた回道の動きが鈍くなる。

 

 そして、未だ赤く目を血走らせたままの回道の胸倉を、高専寺は再度掴み上げると____。



「おい、てめぇに言ってんだ回道 廻!!!てめぇは化け物(それ)でいいのかよ!!?」



 その声に、ピタリと回道の動きが止まる。相変わらず赤く血走ったままの虚ろな瞳が高専寺を移し出す。



 

「てめぇにはちゃんと名前があンだろうがッ!!


 しっかりしやがれ!回道 廻____!!!」



 
















 


 ____酷く頭痛がする。


 気持ちが悪い。全身が燃えるように熱くて、真っ暗な所をずっと彷徨っていた気がする。


 自分というものが分からなくて、ずっと、ずっと、探して歩いていた。身体中が痛くて、もう泣きそうだったんだ。





 

 


 

 

"……ぐ、る"




 

 ふと、誰かの声が聞こえた。


 初めて聞くはずなのに、酷く懐かしいその声が、僕を導いてくれる。



 "ま……るな、"



 走っても、走っても遠い声。どうして、僕は届かないんだ。



 "……がんばれ、廻"



 はっきりと確かに名前になった言葉。ふわりと下から掬い上げられるように、どんどん視界が明るくなっていく。

















 呼ばれた名前に答えるように、名前はそれを形つくった。





 

 

 赤く血走った瞳がスゥーッと引いて、回道は元の茶色い瞳を取り戻した。真っ白に染まっていた髪の毛は、じわじわと根元に吸収されるようにして白髪混じりの黒髪に戻り、鋭く生えた牙はなくなり、長く尖った爪は元通りになる。そうしてその姿は、「回道 廻」へと戻っていった。




 

「め……ぐ、る……っ」

「っ…………戻ったかよ?」





 譫言のように小さく自分の名前を零した回道の瞳から、ツーッと涙が一筋流れる。その様子に、高専寺は小さく息を吐き出した。

 









 


「っろ、ぉ……くん」


 目の前の彼の名前を呼んだ自分の声は、何故か少し掠れていた。ガンガンと痛む頭に加えて、全身がズキズキと酷く痛む。

 ホッとした顔をして僕に手を差し伸べる狼君に、僕は状況が整理できなくて混乱する。頭の中がごちゃごちゃする。


 狼君の手を借りて、ズキズキと痛む身体を起こして立ち上がる。狼君の後ろには、どこか見覚えがあるひ弱そうな男が、僕達に冷たい瞳を向けて立っていた。その男は全身にベッタリと血を付けていて、ポタポタと血の滴る右腕は骨が砕けたかのようにだらしなくぶら下がっている。



 彼は一体、誰なのだろう。



 整理出来ない頭の中は、混乱したみたいにぐちゃぐちゃで。頭の中が、何か血のようなもので真っ赤に染まっているみたいだ。



 何かずっと、悪い夢を見ていたような____



「くそッ、狼!急いで学園まで運んで!!!」










 

 

 


 ふと、弥子君の声が聞こえて視線を向けた。弥子君が腕に抱えている、真っ赤な誰か。



 ____その瞬間、僕は全てを思い出した。



「ッあ……あぁ……っ」

 


 ビデオテープを巻き戻すように、鮮明に映し出される、赤、赤、赤____。


 





 

「悠太君!!!!!」



 ガラガラとした声を荒らげて弥子君の元へと駆け寄ると、思い出した記憶と全く同じ赤色に染まった悠太君の姿。何度問い掛けてもその顔が僕を見て笑う事はなくて。


「どう…しよっ、悠太君が……息、してないんだ……っ」


 身体の右側が大きく欠損した悠太君を、狼君の背中へと慎重に素早く背負わす弥子君に、ガチガチと歯を鳴らしながら問い掛けた。そんな僕をちらりと見て、背中をバシッと強めに叩いた弥子君が、僕の両肩を強く掴んで無理矢理目を合わせた。


「落ち着いて、回道。まだ微かにだけど、仲平の心臓は動いてる。このまま急いで廃人のとこまで仲平を連れていけば、今ならまだ助けられる」

「い、なみせんせ……に…」

「幸いにも此処から学園は遠くない。狼が背負って全速力で向かえば、もしかしたら間に合うかもしれない。だから動揺する暇があったら、一刻も早く仲平を学園まで運ぶんだ」


 強い目力でそう言った弥子君に、僕は狼君の背中に背負われた悠太君を見る。助かるだなんて考えられない程のダメージを負った悠太君を、弥子君は稲見先生なら救う事が出来ると言った。それがたとえ一%にも満たない可能性だとしても、今はただそれにさえも縋っていたかった。


 なんとか頷くと、弥子君は僕を引っ張って立ち上がらせた。

 

 しかし、此処から急いで学園に向かうって言っても、あの男はどうするんだ。此処を血塗れの地獄絵図へと変えたあの男が、黙って僕達を行かせるなんて考えられない。


 僕がちらりと男のいる方を見ると、そんな僕に狼君が言う。


「彼奴は気にしなくていい、もう追うな」

「っでも」

「もう何もしてこねぇから。彼奴は長期戦を酷く嫌う……、手負いの彼奴が、お前だけならまだしも三対一になったこの状況下で、深追いしてくる事はねぇよ」


 その言葉に男の方を見れば、狼君の言ったように僕達を追うような様子は見られなかった。


 

 あの時と同じように、裸足のまま、血の溜まった地面に立つ彼が僕を見て首を傾げる。


「……ねぇ、お前ほんとに人間?」

「ぇ……」


 突然問い掛けられる言葉に、僕は情けない声が漏れた。


「何回壊しても壊れないし……。あぁ、もしかしてお前が不死身の能力者?」

「!」


 男は僕を見て思い出したかのようにそう言った。明らかに動揺する僕に、狼君が「彼奴の話は聞かなくていい」と僕の踵を蹴る。そんな狼君の様子に、男は可笑しなものでも見たかのように顔を歪めて笑い始めた。


「え…なに、狼。今度は其奴なの?ずっと可愛がってた野良猫の次は、今度は其奴?」


 「ちょ、笑わさないでよ……っ」と、男はそう言って心底可笑しそうに笑う。その異様な光景に僕は全身が震えてくる。


 

「あーあ…でも彼奴、悲しむだろうなぁ……」


 

 笑い過ぎで目に溜まった涙を、青白く細長い左指で掬う。


 そして、ゆらりと頼りなく地面に立った男は、スッと左指を此方へと向けて____。


 

「___野良猫の次は、その()()()拾ったんだ?」



 その男の指先は、真っ直ぐに僕の姿を捕らえていた。


 聞き馴染みのあるその言葉に、心臓がドクンッと大きく波打つ。

 

 問い掛けられた言葉に、狼君は男に背を向けたまま何も喋らない。僕の前に立つ狼君の顔は見えない。


 そうして狼君は、何も語らぬまま、背中に背負った悠太君を稲見先生の元へと届ける為走り出した。


 

 これは、何の話__


 

 考える僕の思考を遮るように、弥子君が軽くトンッと僕の肩を叩いた。


「……今は、仲平が最優先」

「っう、うん……」


 全くもって温度を持たない弥子君の瞳に少しの怖さを覚えながらも、僕達はもう既に姿の見えない狼君達を追いかけて走った。


「………………」


 走り出す直前、弥子君はほんの少しだけ男の方を振り返った。

 男の方も同様に弥子君を見つめていて、何も言葉を交わすことのない二人は、ただただお互いを瞳に映して見つめあっていた。その瞳はどちらも全く温度を持っていなかったけれど、何か言いたげに、何かを訴えるように、ただ静かに見つめあっていた。

 

 すぐさま弥子君は僕と共に走り出したけれど、あれは一体何だったのだろう。


 

 小さく首だけを振り返れば、血に濡れた其処に青白い肌の彼だけが、ゆらりと異質に立ち尽くしていた。



 


 二人は、彼と知り合いなの______?



 

 





















 __


 学園内保険診療所 病院内__




 物音一つしないこの空間に、僕達の息遣いだけが小さく響く。時間はすっかり夜になり、僕達以外人のいないこの空間で、誰かが息をする度、どんどん空気が薄くなるかのように苦しくなっていく。


 程なくして、コツコツと音を立てて僕達の元へと足音が近付いてくる。足音のする方へ、僕達は一目散に駆けて行った。


「稲見先生……」


 稲見先生は僕達の姿を見ると、口元を覆っていたマスクに手をかけて下ろしていく。そして一つ深く息を吐き出した。


「……ギリギリだったな。あと少しでも遅かったら、俺でも間に合わなかった。

 

 ……今は、ゆっくり眠ってる」


 その言葉に、僕は稲見先生の後ろにある扉を開けて中へと入った。


 消毒の匂いが鼻を掠める。真っ暗な病室では、窓から射し込む月明かりだけが頼りだった。無機質なその空間は、ピッピッと一定のリズムで音が鳴っており、その音を背に僕は真ん中にあるベットへと近寄った。

 

 僕は彼の名前を呼んで呼びかけるけれど、静かに目を閉じた悠太君は、月明かりに照らされて眠ったまま真っ白なベットの上から動かない。いつも頭の上で留められているクリップピンは外されていて、長めの前髪が悠太君のおでこを覆い隠していた。

 

 僕はそっとその口元へと顔を近付ける。口元の酸素マスクからは、小さく悠太君の呼吸音が聞こえてきて。


「っ……」


 フッと脚の力が緩んだかのように僕は床に座り込んだ。耳に届いた悠太君の呼吸音が、やっと僕に生きている事を実感させた。その事実を認識した脳が、僕の目へと水を流した。込み上げてきた涙が、恐怖と、自責と、安堵を滲ませて、ポロポロと頬を伝って流れていく。

 

 座り込んで肩を震わせる僕の後ろでは、狼君と弥子君が安堵したように深く息を吐いては、お互いの手の甲をぶつけて小さく喜んでいた。



 

「……正直、自信はなかった。お前等が運んできた時の其奴の状態は悪過ぎて、もう助けられねーと思った」


 振り向くと、後ろに立つ稲見先生が静かに語り始める。安心したように眠り続ける悠太君を配慮してか、先生は煙草を吸っていなかった。


「でも、救えた____。


 お前等が、一生懸命走って、迷わず俺のとこに連れてきたお陰で、其奴の心臓はまだ微かに動いてたからだ」


 狼君と弥子君の間に立った稲見先生は、雑に二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。そして二人の前に座り込む僕の前に座り込んで目を合わせる。


「此奴の生命(いのち)は、間違いなくお前等が救ったんだ。胸張って誇っていい、だからもう泣くな」


 ガシガシと乱暴に、それでいてとても優しく僕の頭を撫でた。撫でられた優しい振動に、また一つ頬を伝って涙が零れ落ちた。

 僕は目に溜まった涙を乱暴に拭って、稲見先生の瞳を見つめた。


「稲見先生、どうやって悠太君を……?」


 僕の問い掛けに、ゆっくりと稲見先生は立ち上がった。それに続いて僕も立ち上がると、稲見先生はそっとベットに眠る悠太君の布団を捲る。布団を捲ると、そこには無くなっていた筈の右腕が元通りに生え、大きく欠損していた右下の背中辺りも綺麗に元通りの形を取り戻した悠太君の身体があった。


「右腕が……!それに、背中も……」


 一体どういう事だろう、と稲見先生に疑問の眼差しを向けると、先生はそっと布団を元に戻して悠太君の身体を優しく撫でた。


「俺の能力…「復元」は、自分以外を対象とするあらゆる生命を復元する事が出来る。たとえ四肢が無くなろうが、身体に穴開けようが、全部綺麗に元通りの形に戻す事が出来る」

「全部……」


 


 "「あとこの人、SS級の異能力者」"


 

 

 そう言った弥子君の言葉を思い出す。


 すごい、これがSS級の異能力者の力……。



 

「ただ、俺が救える生命()には条件がある」

「条件……?」


 皆目見当もつかないその条件に、僕は首を傾げた。稲見先生は悠太君の身体の上でそっと指を滑らせると、心臓の位置でピタリと止める。


 

「____心臓が動いている事だ」


 

 ドクンと心臓が波打つ。


 

「まあ正しくは、身体に血が通っている状態だけどな」


 優しく悠太君の頭を撫でた稲見先生に、僕が「血って…?」と聞くと。


「俺達能力者の力の源は、この身体に通う血だ。復元するには其奴自身の血が必要になる。身体を治すにも、元通りに形をつくるのにも、其奴の新鮮な血が体内を通っていないと俺は復元する事が出来ない。


 だから、心臓が動いてねーと救えねーんだよ」

「だから、弥子君心臓が動いてるって……」


 そう言った僕に、弥子君はいつも通り優しく微笑んだ。あの時、弥子君が焦ってパニックになる僕にそう言ったのは、稲見先生の能力の事があったからだったのか。


「あと、俺がこの手で其奴の心臓の位置に触れねーと能力も使えねーけどな」


 目を伏せてそう言った稲見先生の瞳が、長い前髪に覆い隠される。ドクンッドクンッと波打つ心臓は、今も僕の身体に血を巡らせ続けているのだろう。




 

 僕は波打つ心臓の上をくしゃりと抑えて、恐る恐る口を開いた。


「……懐、って…誰なの?」


 僕の言葉に、狼君と弥子君、そして稲見先生までもが目を見開いて僕を見た。


「名前、呼んでた……。あの人の事、二人は知ってるの……?」


 敢えて知らないとも答えられる聞き方をしたのは、答えを識るのが怖かったからなのかもしれない。


 病室内を、静寂が包む。ピッピッと規則正しい音だけが響いて、額を汗が伝った。


 きっと数秒にしか満たないその時間が、僕はとても長く感じた。程なくすると、俯いたままの弥子君がゆっくりと話しを始める。


「彼奴は……、懐は、俺達の幼馴染みだったんだ」


 敢えて過去形を使った弥子君の言い方に、妙な違和感を覚える。俯いたままの弥子君の表情は見えない。


「名前は、丑三 懐(うしみつ かい)。歳は俺達の1つ下で、今はまだ16歳だ」


 確かに、彼のまだあどけなさの残る顔が印象的だった。でも、あの殺傷能力の高い異能力と、それを完璧に使いこなす彼の強さ。その彼が自分よりも歳下だというその事実が、僕はとても恐ろしかった。


「懐も、幼稚舎から学園に通う生徒の一人だった。


 …………四年前までは」


 彼も、学園の生徒だった?妖を祓う、御役目を担う能力者の一人だった____?


 なら、どうして彼は、その力を人間(僕達)に向けて使ってたんだ。




 

 一体____


 


「なにか、あったの……?……その、四年前に」


 僕の質問に、この場の誰も答えない。真っ暗なこの空間では、窓から射し込む月明かりだけが頼りで。俯く三人の顔は、影がかかってお互いに見えない。それが余計に、僕の心臓を加速させた。

 


 程なくして、この静かな空間を弥子君の声が切り裂いた。

 


「……突然、消えたんだ。誰にも言わず、何も言わないで。黙ってこの学園を去って、俺達の前から突然居なくなったんだよ」


 ポツリと、静かに弥子君はそう告げた。一度語り出すと、弥子君は一つ一つを思い出すかのように目を瞑って、そっと壁にもたれ掛かる。


「居なくなった懐を、俺達は必死に探した。小さな頃からずっと一緒にいたんだ。彼奴は知らないことが多いから、一人にするのが心配だった」


 過去を思い出しているのか、その声は酷く後悔に滲んでいて、自責に押し潰されてしまいそうにも聞こえた。


「……意外にも、懐の情報はそれからすぐに届いたよ」


 弥子君は、眠っている悠太君の元へと歩み寄った。安心たように眠る悠太君の頭をそっと撫でる。


 

 そして____




 


「能力を持たない人間を含む、能力者数十人を殺した異端者(いたんしゃ)として____」



 

 

 ゾクリと背筋が凍り付く。凍り付いたのは、僕なのか、この空間なのか。とにかく、僕はその言葉が受け止めきれなかった。


 

 だって、殺したって、僕と変わらない子供が……?


 

「殺したって……」

「そのままの意味だよ。なんの力も持たない人間も、祓う力を持つ同族の能力者も、みんな殺したんだ」

「っ……」


 その言葉の悲惨さに、声にならない悲鳴が漏れ出る。そして同時に思い出した、人を傷付けるのになんの躊躇も躊躇いも無い彼の姿を。


「祓う為の能力を持ち、それを祓う為に使う俺達を異能力者と言うのに対して。その力を私欲に使い、人間や能力者に危害を及ぼす者の事を異端者って言うんだ。

 そして、学園に異端者とみなされた者は、例に漏れず全員処刑対象になる」

「処刑、対象って……」


 脳が、理解したくないと赤信号を出している。だってそんな恐ろしい話は、この学園に来てから一度だって聞いたことがない。


 悠太君から手を離した弥子君が僕の方を振り返る。月明かりに照らされた弥子君の黄色い瞳が、光を反射して鋭く光った。


 

「____殺されるってことだよ」


 

 あの時と同じ、全く温度のない瞳が僕を見ていた。全身に僕の血を送り届ける心臓が、ドクドクと早い鼓動を奏でる。血が通っている筈なのに、指先はまるで血が通っていないみたいに冷たい。


「殺されるって、っどうして……」

「人を殺したんだ。裁かれて殺されるのは、当然でしょ」


 当たり前のようにそう言った弥子君の瞳には、まるで温度がない。いつもの優しい笑顔が、まるで思い出せない。


「っなにも、殺す事なんて」

「この世にはさ、死刑って存在するでしょ。重い罪を犯した者を、等しく平等に裁くために。正義の前に掲げられたそれは、古くからこの世の均衡を守る為に作られた、人間達による力の抑止力だ。

 この世の均衡を乱す者は、その正義の為に等しく殺されなくちゃいけない。そうでもしないと、作り上げた平和が、脅かされてしまうからね。

 だから、この世の均衡を乱す者は、平和()の為にも裁かれなくちゃいけないんだ」


 淡々と話す弥子君は、こんなにも温度が無かっただろうか。殺す、殺されるって、何でそんな事を平気そうに話せるんだ。僕には、理解が出来ない。


「……でもっ、それで殺すなんて、極端すぎる気が__」

「じゃあ回道は、仲平があのまま彼奴に殺されてたとして、殺さなくていい、許すって言えるの?」


 グッと言葉が詰まって、僕は何も言えなくなる。少し語気を強めた弥子君の言葉が、グサリと心臓に突き刺さる。




 

 あの時の事はあまり覚えていない。

 


 悠太君が傷付けられて、彼に自分の頭が吹き飛ばされそうになるところまでしか、はっきりと思い出せない。



 

 ただ、ずっと目の前が真っ赤に染まっていたんだ。


 それが怒りなのか何なのか、目が燃え上がるように熱くて、熱くて。

 

 その中で僕は、何も考えられないまま、ただひたすら、殺したい、殺してやりたいって、怒りに任せてそう思っていたんだから。



 


「ぼ、くは………」


 僕は否定する事も、肯定する事も出来なかった。


 冷たく見下ろしていた弥子君が、情けなく言い淀む僕から静かに視線を外す。僕の顔を見ただけで、何も答えられない僕の気持ちを察したかのようにして、遠くを見つめて一つ息を吐いた。


「これは世の理なんだ。定められた理を、俺達が崩す事なんて出来ない。

 だから彼奴は、殺さなくちゃいけない。人を殺す奴は、自分も殺される覚悟がある奴だけだ」


 他人事のように言った弥子君の横顔が、月夜に照らされる。何も感情を感じないようなその表情は、一体何を考えているんだろう。

 

 そんな弥子君に、僕はやっと言葉を口に出した。


「……弥子君は…、二人は彼の幼馴染み、なんだよね……。ずっと、小さな頃から一緒にいたのに……二人は、何とも思わないの…?」


 その問い掛けに、室内は一際冷たく静まり返った。それは心電図の音に掻き消されて、息遣いすらも聞こえないほど静かに。


 

 ゆっくりと、空を見上げるかのように、弥子君は天井を見上げた。遠い過去の記憶を追い求めるかのように。遠い過去を見ようとするかのように。

 


「……もう、四年も経つんだ」


 

 狼君も、稲見先生も、それぞれが想いを馳せるように。此処にはない、遠くの何処かを見つめていた。



 

 弥子君はそれ以上、もう何も言わなかった。



 

 再び静まり返った室内に、トサッとどこかにもたれかかるような音が聞こえて。音のなった方を向くと、稲見先生が壁にもたれかかって、ぼんやりと少し先の床を見つめていた。


「……彼奴の能力は、「破壊(はかい)」だ。自分に触れるもの全てを破壊する。身体の内側から細胞を破壊する事も、外側から肉体を破壊する事だって出来る、破壊力に特化した能力を持つ異端者だ」


 過去を思い出すかのように、稲見先生は静かに語る。その言葉に、あの時何故自分達の身体がいとも簡単に壊されたのかを、僕はやっと理解する事が出来た。


 

 それは、なんとも恐ろしい能力だった。僕達とは相反する思考を持つ彼が、絶対に持って産まれてはいけないような。


 

「B級の御役目では有り得ねー損傷の仕方してるとは思ったが、……懐だったのか」


 稲見先生はスッと目を細めて、どこか納得したようにそう呟いた。


 依然として、室内の空気は重くて冷たい。僕は震える唇で、壁にもたれかかったまま何も喋らない彼に問い掛けた。


「野良猫って、なに……?」


 僕の言葉に、狼君がピクリと反応して顔を上げる。


「野良猫の次は、化け物()だって……。一体、あれは、何のことを言ってたの……?」

「…………」


 少し怯えながら頼りなく問い掛けた僕に、狼君は何も答えず、ただただ僕をじっと見つめていた。


 

 間もなくして、狼君はスッと僕から視線を外すと。



 

「…………さあな。昔の事なんか、もう忘れちまった」


 

 そう言った狼君に、僕は何も言えなかった。


 敢えて識らないと答えられる聞き方をしたのは、僕がそれを識るのが怖かったのもあるし、それは彼等にとって触れられたくない事かもしれないと思ったからだ。


 だから、狼君が忘れたと言うのなら、僕はそれ以上何も言えないのだ。






 


「……ぅ」



 ただ静かに時間が過ぎるこの空間に、小さく唸るような声が聞こえた。



 その声に弾かれるように其方を見ると、其処には薄らとぼんやり目を開ける悠太君の姿____。

 


「ッ悠太君!!?」


 僕は急いで駆け寄って顔を覗き込んだ。悠太君の名前を口にしながら覗き込む僕に続いて、狼君も弥子君もベットの方へと集まってくる。


 少しばかりぼーっとした瞳が、僕達の姿を捉える。何回か小さく瞬きをした後、酸素マスクの下で唇が小さく震えた。声が少し出づらいのか、酸素マスクに阻まれてその声が何を言っているのか分からない。

 

 そんな僕の顔を見てか、悠太君は先程治ったばかりの右腕を持ち上げると、ゆっくりと酸素マスクを口から外した。


「なに、聞こえな__」

「……ぶ、じで……よか…た、です」


 

 ふわりと、安心したように微笑んだ。


 

 まるで、あの時自分の身に起きた事なんか、少しも知らないかのように。名前を呼ぶ僕の姿を見て、心底安心したように眉を下げて笑った。

 


 目が、熱い。何かが込み上げてくる。僕を見て安堵したその笑顔に、頭の中がぐちゃぐちゃになる。




 

 どうして____





 

「……どうして、そんな風に笑ってるのっ……」

「め…ぐるく、ん……?」

「なんにもっ、良くなんか…ないよ!!」


 大声を出した僕に、悠太君の肩がびくりと跳ね上がった。僕を見て目を丸くした悠太君が、ゆっくりと上半身を起こして僕を見上げてくる。そんな悠太君に、稲見先生が「まだ動くんじゃねーよ」と声をかけるけど、そんなの聞こえていないみたいに、悠太君はただ驚いた様に僕を見上げている。


「いつもいつも……っ、人の事、ばっかり心配して笑って……、悠太君っ…ッあのまま、死んじゃうかもしれなかったんだよ!!」


 ボロボロととめどなく言葉が溢れた。




 

 

 とても怖かったんだ。

 

 最後の最後まで僕の事を気にかけて「逃げろ」ってそう言おうとしたのも、目が覚めてすぐに僕を見て安心した様に笑ったのも、その全部が怖かった。


 自分は何にも無事じゃない癖に、自分の事なんか少しも顧みないで平気そうな顔して、安心した様に僕を見て笑う悠太君の優しさが、僕には何一つ理解出来なくて怖いんだ。




 

 こんなにも大きな声は出した事が無かったけれど、止め方なんて分からなかった。怪我人の悠太君を気遣えばこんな事言うべきじゃないんだけど、でも勝手に出てくるんだ。それに比例するように、呼吸が荒くなって肩の震えは大きくなる。それでも僕の口は止まらなかった。


「……僕がっ弱いから……!狼君や、弥子君みたいに強ければっ、こんなに悠太君が傷付く事は無かった、のに……ッ」

「……廻君、」

「ッ僕なら、良いのに!僕は大丈夫だから……っ」

「廻君、聞いてください」

「…っ僕は死なないんだからッ……、悠太君が傷付く事なんてなかったんだ!!」

「廻君!!!!!!」


 初めて聞く悠太君の大きな声に、僕はやっと空気を吸い込んだ。左腕に感じる人の体温。治ったばかりの悠太君の右手が、僕の左腕を強く掴んでいて、確かな温度が服を伝って僕に届いた。

 

 僕はいつの間に下を向いていたのだろう。怒気を孕んだ悠太君の声にゆっくりと顔を上げると。少し吊り上がった大きな目は、大粒の水溜まりを作っていて、少しばかり震えながら僕を真っ直ぐに見つめる悠太君は、ボロボロと涙を零しながら泣いていた。


「どうしてっ廻君はそうなんですか…!僕なら良いってなんですか!僕なら大丈夫って何なんですかっ!」

「ゆ、悠太君……?」

「ッ廻君なら傷付いても良い理由なんて、どこにも無いじゃないですか!!!」




 

 ____息が、止まる。




 

 そんな事は、言われた事も無かったし、考えた事も無かった。だって、当たり前の事だから。幾ら傷付いたって僕は死なないんだから、幾ら傷付いたって何の問題も無いんだから。

 

 なのに僕の腕を強く掴んで、涙を流す悠太君はとても悔しそうな顔をしていて。ボロボロと零れる涙を拭う事はせずに、頬を赤くして怒ったように言葉をぶつけてきた。

 

 やはり治ったばかりの体は辛いのか、大きな声を出した事で、悠太君は嗚咽を堪えながら大きく呼吸をしていた。



 

 悠太君の言葉が頭に届く前に、僕の目は勝手に大粒の涙を流していた。



 


「廻君だって、傷付いたらちゃんと痛いじゃないですか!!どうしてそんな事が分からないんですか!!」




 

 ボロボロと栓を失った蛇口のように、僕の目からは水が溢れ出てくる。



 

「廻君は化け物なんかじゃないッ、僕達と同じ人間なんです!!!」



 

 ああ、もう____








 

 


「っふ、……うぅっ…」


 ついに堪えていた声までも溢れてきた。拭っても拭っても溢れ出てくる。僕を強く見つめたままの悠太くんも、ずっと涙は零したままで。僕のものか悠太君のものか分からなくなった涙が、ベットに零れ落ちては小さな水溜まりを作っていった。


 


 彼の真っ直ぐ過ぎる優しさが、ずっと怖かった。


 彼のような善人は物語の中だけの、空想の人物だけだと思ってたから。彼が化け物()に向ける優しさが何でなのか理解出来なくて、ずっと怖かったんだ。


 

 でも、やっと分かった____




「廻君が傷付くのは、僕だって悲しいんです!!」



 


 悠太君は、ずっと僕を人として見てくれてたからだ。



 

 何度だって再生する化け物()を、たった一人の人間として見てくれていたからだ。僕が悠太君を心配するように、悠太君も僕を心配してくれていた。そんな簡単な事に気付くのに、僕はこんなにも沢山の時間をかけた。


 僕が傷付くと悲しいんだと、涙を流して教えてくれる悠太君が、今ここで変わらず生きていてくれる事が、こんなにも嬉しい。




 

「悠太君……っ、あの時、何にも出来なくて…ごめん……、それから、ありがとう……っ」


 僕は悠太君を見て、僕の大好きな彼の笑顔を真似て笑ってみせた。


 悠太君はそんな僕の顔を見て驚いた顔をした後、そっと腕を掴んでいた手を下へと滑らせて、僕の手をギュッと握った。


「僕の方こそ、ごめんなさい。……廻君、心配してくれてありがとうございます」


 いつもと違って下ろした前髪が、頬を伝ってきた涙とぶつかって毛先を濡らしていた。前髪から覗く悠太君の顔は、涙でぐしゃぐしゃで赤くなっていたけれど、それは僕の大好きな眩しい笑顔だった。






 


 カチッという音が、僕達二人の涙声が響く室内に木霊した。音の方へ振り向くと、どこから取り出したのか病室内でライター片手に煙草に火をつける稲見先生の姿。


 稲見先生は壁にもたれかかったまま、咥えた煙草を吸い込んで深く煙を吐いた。


「……てめーら、ここは病室だぞ。少しは静かに出来ねーのか」

「あ……ごめんなさい」


 また一つ煙を吐いた稲見先生に、僕と悠太君は声を揃えて謝った。稲見先生は僕達の方は一切見ずに、煩わしそうに煙草を吸う。

 

 ……いや、病室で煙草も駄目でしょう。



 

「病室で煙草も駄目だろ、仲平患者だぞ」

「目覚めてんならもう患者じゃねーよ」


 僕の言葉を代弁したように言った狼君に、稲見先生はとんでもない暴論で返す。でもそのお陰で、重かった室内の雰囲気が少しだけ軽くなったような気がする。

 少しだけ軽くなったこの雰囲気に、悠太君は狼君達の方へと向き直った。


「狼君、弥子君、二人もありがとうございます。二人が僕を、学園まで運んでくれたんですよね」


 僕と悠太君が二人して泣きあっていた事もあってか、狼君と弥子君は悠太君が目覚めてからも話す事はしなかった。改めてお礼を言った悠太君に、弥子君は少し眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。


「……いや、お礼なんて言わなくていいよ。寧ろ、ごめん」


 弥子君が小さくそう言うと、悠太君は何か思い出すかのように悲しげに眉を下げて笑った。


「……やっぱり、懐君だったんですね」

「ああ」


 悠太君の言葉に、狼君が静かに肯定の言葉を並べる。


「随分背が伸びてたので、気付きませんでした」


 「僕より高くなってましたよ」と、切なげに笑った悠太君が、自分の頭の上に手を当ててみせる。彼は元々この学園の生徒だったのだから、悠太君が彼の事を知っているのなんて当たり前の事なのに、その事実はどこか非現実的だった。


「……俺達が一緒だったら、二人が傷付く事はなかった」


 少し俯いてそう言った弥子君に、狼君が同調するようにして顔を上げた。そして狼君は、僕と悠太君の方を見ていつもより低い声で吐き出した。


「……助けれなくて、悪かった」


 その言葉は、まるでお礼なんか言われる立場じゃないって言っているみたいで。そんな二人に、悠太君は窓の外を見つめて小さく笑った。


「二人は、昔からずっと……僕のヒーローなんです。…………だから、ありがとうございます、なんですよ」


 にこりと笑った悠太君が、窓から視線を戻してこちらを振り向いた。その笑顔に、狼君も弥子君も困った様に眉を下げて笑う。


「ほんと……仲平には敵わないね」


 降参したように肩を落とした弥子君の顔に、やっと温度が戻る。狼君が優しく悠太君の頭を撫でると、悠太君は照れ臭そうに笑った。僕の瞳に映る二人が、いつも通りの二人に戻って、僕は静かに息を吐き出した。


「稲見先生もありがとうございます。お陰で僕、命拾いしたみたいで」

「おー」


 ヒラヒラと気怠げに手を振って、やはり稲見先生は煙を吸い込んだ。


「てめーら怪我すんなって言った傍から瀕死で帰って来やがって……」

「うっ……」


 「すみません……」と謝った僕達は、呆れたように言う稲見先生に、揃って肩を下げた。そんな僕達に、煙草を咥えたままゆっくりと近付いて来た稲見先生は、ポンっと優しく僕達の頭に手を置くと、優しく見下ろして。


「命は大事にしろよ、その身体はてめーらだけのもんじゃねーからな」


 兄のように優し気な瞳が、僕達を見ていた。頑張ったなとでも言うように、そっと優しく頭を撫でる。僕はその体温が大好きだった。


「ありがとう、ございます」


 その言葉に、稲見先生は小さく笑った。

 


 笑った顔、初めて見た____








 



「____施設内は全域禁煙じゃなかったっけ?仁」



 

 突然、僕達以外の声が室内に届いた。



 

 声の方へと視線を向けると、扉の横で竜胆先生が壁にもたれかかりながら立っていた。

 

 コンコンと小さく壁を叩きながらにっこりと笑って、腕を組んで此方を見ている。竜胆先生の言葉にピタリと動きを止めた稲見先生は、ゆっくりと声の方へと振り返るとげぇっと顔を顰めた。

 

 そんな稲見先生に、竜胆先生は薄い笑みを浮かべたまま、僕達の元へと歩いてくる。


「しかも患者の前で……、いっそ減給してもらおうかな」

「……目覚めてんだからもう患者じゃねーだろ」

「何子供みたいな事言ってんの、ほら貸しな」

「…………クソ」


 先程と同じく暴論を返した稲見先生だったけど、呆れた顔をして手を差し出した竜胆先生にしぶしぶ手に持っていた煙草を渡した。一体どこから取り出したのか、灰皿を手にした竜胆先生が慣れた様子で煙草の火を消す。ベット横の机に灰皿を置くと、後ろで舌打ちをする稲見先生を尻目に、竜胆先生は僕達四人に向き直った。


「本当に、無事で良かったよ」


 安堵したように眉毛を下げて笑った竜胆先生が、僕と悠太君の頭を優しく撫でた。


「悠太も、廻も、無事で良かった」


 上から降り注ぐ暖かい言葉に、僕の涙腺はまた緩みそうになる。


 竜胆先生の手は不思議だ。まるで薬みたいに、傷んだ心に染みて溶け込んでくる。


 僕達から手を離した竜胆先生は、くるりと狼君と弥子君を振り返った。バツが悪そうに目を逸らしてこちらを見ようとしない二人に、竜胆先生は何も言わず僕達と同じように、ただそっと優しく頭を撫でた。


 そして___


 

「よくやった」


 

 それ以上何も言わなかったけど、きっと竜胆先生も全て知っているんだろう。何も間違っていないとでも言うように、ただそれだけを口にした。

 

 それでも二人の顔が晴れることは決してなかったけど、竜胆先生はそれも分かっているみたいだった。



 

「さ、今日はもう遅いし帰ろう。悠太も、ゆっくり休むんだよ」

「はい」


 竜胆先生は、ベットから起き上がった悠太君の肩を押して寝かせると、また一つ優しく頭を撫でた。僕は「ほら、帰った帰った〜」と、僕達の背中を押す竜胆先生に連れられて扉へと向かう。


「悠太君っお大事に!」

「廻君も、また学校で」


 ひらひらと小さく手を振って笑う悠太君に、僕達は病室を後にした。




 

 すっかり真っ暗になった廊下には、僕達以外の人の姿は無い。僕達五人の足音だけが、響いている。



 

「ねえりんどー、もう夜ご飯終わってた?」

「当たり前でしょ。もうとっくに終わってるよ」

「んじゃ、りんどーと廃人で奢ってくれよ」

「何で俺まで巻き込まれてんだよ」


 僕は四人の一歩後ろを歩いた。みんなすっかり元通りになって、楽しそうに笑っている。ギャーギャーと仲良さげに騒ぎ立てる四人の様子に、つい顔が綻ぶ。


 そんな僕を、前を歩く狼君と弥子君が不思議そうに振り返った。


「回道は何か食べたいものある?りんどーと廃人が奢ってくれるってさ」

「へ……僕も?」

「何言ってんの、当たり前でしょ」


 まさか僕も一緒に食べるとは思っていなかったから驚く。首を傾げた弥子君の顔は、何言ってんだとでも言いたげだ。

 そんな僕を見てか、僕の隣に来た竜胆先生はそっと僕の顔を覗き込む。


「廻はさ、もっと我儘になっていいんだよ」

「我儘?」


 よく分からなくて聞き返す僕に、竜胆先生は優しく大人の顔で微笑む。


「もっと自分の気持ちに素直になっていい。君の周りにいる人達は、ちゃんと君を想ってるよ」


 その言葉に僕はそっと前を見ると、狼君も、弥子君も、稲見先生も、みんなが僕を見ていて。じわりと何かが心に滲んで、染み渡るように疼いた。



 

 僕は一度、きゅっと唇を結んだ後、意を決して口を開いた。


「……お寿司が、食べたい…です」


 おずおずとそう言った僕に、みんなは一瞬驚いた顔をした後、僕を見て優しく微笑んだ。


「良いね、お寿司久しぶりだし」

「仁の好きなカニサラダもあるしね」

「てめっ恭平!!」

「別に良いじゃねぇか可愛くて」

「てめーも笑ってんじゃねーよ!!!」



 

 騒がしいこの空気感が、僕は嫌いじゃない。



 

「俺回る寿司がいい。回転寿司にしようぜ」

「やっすい奴だなてめーは」

「回転寿司の良さが分からないなんて…、おっさんになったんだね廃人」

「んだとてめー」

「何してるの廻、ほら行くよ」

「あっ、はい!」


 ぼーっと四人を眺めてたせいで、また遅れていた僕に竜胆先生が手招きする。少し駆け足でその輪の中へと入っていけば、僕もすっかりみんなと同じだった。







 







 

 

「____あー、わり。俺煙草吸ってから行くわ」


 白衣のポケットから煙草を取り出した稲見先生が告げる。


「程々にしなよ」

「おー、すぐ行くわ」


 呆れたように言った竜胆先生に、片手を上げた稲見先生はスタスタと僕達に背を向けて歩いて行く。既に煙草を咥えた稲見先生の背中が、どんどん小さくなっていく。



















 __


 学園内保険診療所 医務室____



 ギィっと椅子にもたれかかった事で、そこは歪な音を立てた。月明かりだけが窓から射し込む真っ暗な室内で、椅子に浅く腰掛けた稲見は、脚を組みながら煙草に火をつける。赤く火の灯る煙草を吸えば、煙と共に深く息を吐き出した。




 


 ゆっくりと吐き出した煙と共に思い出すのは、昼間高専寺と交わした会話の記憶____





「とぼけんな、分かってんだろ。彼奴の身体(能力)について、まだ話してない事あっただろ。


 ____なあ、何で言わなかった?」

 

「………………………………」


 背を向けたまま、高専寺は視線だけを後ろをにいる稲見に突き刺した。再度問い掛けられた言葉に、稲見は静かに煙草を灰皿へと押し付ける。


「随分酷なことを言うんだな」


 その言葉に、高専寺は少しだけ稲見の方を振り返った。


「異常なまでの再生能力を持つその身体は、致命傷どころか、塵も残らねーぐらいに消されても、またどこからともなく再生する。……つまりてめーの存在は、俺達が想像するよりもずっと遥か昔から存在してる可能性がある、と……そう言えと?」

「………」

「何も知らず記憶もねー彼奴に、お前はそう言えと?」

「……、あぁ」


 少し影を作った高専寺の表情からは、何を考えているのかは読み取れない。その返事にギィっと深く背もたれにもたれかかった稲見は、下を見つめて小さく冷笑を零した。


「人であろうと生きる彼奴に、まだ可能性でしかない話をするのは、随分酷な話じゃねーか」


 稲見は下を向いていた顔を上げて、少しだけ此方を振り返った高専寺を見上げる。


「識らない方が幸せな事もある……、てめーが一番分かってんだろ」


 僅かに眉を顰めた高専寺の顔が、影で一段と暗く染まる。小さく舌打ちを零した高専寺は、正面から稲見に向き直って赤い瞳を鋭く光らせた。


「………じゃあ、彼奴の再生能力が()()()()と酷似してる事も、言わねぇつもりなのか」


 二人はお互いを瞳に映したまま、視線を逸らす事はない。



 


「自分の事を識らないままでいんのが、彼奴にとっては正しい事なのか?」









 

 

 

 

 深く吐き出した煙が、暗い室内に溶けて消える。昼間の高専寺との会話を思い出していた稲見の瞳は、黒く濁っていて何を思っているのかは分からない。

 

 火をつけたばかりの真新しい煙草を灰皿に押し付けると、稲見は沢山の資料が貼られた壁に向かって手を伸ばす。医療関係の資料が壁を覆い尽くす中、何枚かの資料を捲ると一枚の写真が顔を出した。


 

 その写真に写っているのは、三人の学生だった。それには学生時代の稲見と竜胆も写っていて、真ん中には稲見、左側には竜胆の姿があった。その右側には同い歳くらいの男も写っていて。薄く金色を滲ませた綺麗な白髪と、赤色の瞳が印象的だった。

 ホースを手に持って笑うその顔はとても楽しそうで、隣の稲見も竜胆もとても楽しそうに笑っている。びしょ濡れで笑い合う彼等三人は、とても仲が良さそうだ。



 

 月明かりが射し込む室内で、稲見は静かにその写真を見つめる。





 

「てめーが居なくなってから、善も悪もよく分からねーよ……」






 きらりと月明かりが稲見の瞳を光らせば、それはまるで泣いているようにも見えて、消えそうで酷く切なげな声が、ただ響く。稲見の右側で笑うその人物に、そっと指を滑らせる。





「なあ、(ひょう)____」


















 


 第七話『共喰(ともぐ)い ()』-完-

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