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第9話 新たな旅の準備

 ラモーネの街に戻り、ひとまずレトとは別れ、買取が終わり次第またお店で会うことを約束した。冒険者ギルドに行き、ミスリルモールの買い取りを受付のモモさんに申し出る。

「えー、また変な冗談止めてよ~」

 どうやら信じてもらえていないようなので、受付のテーブルの上にミスリルモールを取り出した。

 するとモモは声を出さずにギョッとした目で取り出されたミスリルモールに見入っていた。周りにいた冒険者たちは何事かと注目していたようで、中身がミスリルモールだとわかると大きなどよめきが起こっていた。

「びっくりした……、本当にミスリルモールを討伐してきたのね。――というか外傷がほとんどないわね。一体どうやって討伐してきたの?」

 モモが感心した後に疑いの目を向けてきた。

「それは秘密なので教えられません」

「もう、まあいいわ。それじゃあこれ全部買取って事でいいかしら?」

「あ、それなんですけど、一体いくらくらいになるか教えてもらっていいですか? 相場によっては素材用に取っておきたいので」

「そうねえ……、最近は討伐実績がほとんどなくて結構値段が上がってるから。――こんなところかしら」

 見せてくれた相場の値段は予想よりも高いものだった。これならば一体を売って、残りは素材として取っておくのがいいだろう。

「じゃあ、魔石込みで一体だけの買い取りをお願いします」

「そう、わかったわ。ちょっと待ってて」

 モモは少し残念そうにしていたがしかたない。素材として二体分取っておけるのは大きい。

 ロイは一体分の買い取り額を受け取り、冒険者ギルドを出ることにした。出口まで歩いて行く間に周りにいた冒険者たちの注目を浴びて、ちょうど冒険者ギルドに来ていたライナスにも「やったな」と声をかけられた。

 そしてその後、冒険者ギルドに行くたびに受付のモモさんに「今度ご飯でも食べに行きましょうよ」とよく誘われるようになったのである。


 いつもの如くラモーネにいる時の一日の始まりは魔法講習から始まる。魔法講師のサリー先生から治癒魔法〈ポイズンキュア〉と支援魔法〈ヘイスト〉を教えてもらい、どちらも使えるようにはなってきた。次に覚えたいと思っているのが〈バリア〉だ。物理と魔法の両方の攻撃に対抗することができる優れた魔法だ。ガーディアンゴーレムで強固な守りを実現できているとはいっても隙が無いわけではない。ガーディアンゴーレムは動きが遅く、速い攻撃に対応することが難しい。そこを補えるのではと考えたのが〈バリア〉だ。〈バリア〉ですべてを補えるとは思っていない。ましてやレベルもまだまだ低い段階では実用性にも疑問がある。だが少しずつでも成長していければいいのだ。


 魔法講習を終えて、約束していた騎乗用生物店に向かう。レトとあいさつを交わしてからジャック店長とシャイロンのボボ購入についての細かな内容を話し合った。

 これで今まで徒歩だった時とは違い、遠い場所の依頼や冒険をしやすくなったのは間違いない。それにボボに乗ってゲーデルに会いに行った時に、驚くゲーデルの顔を想像して少し顔がにやけてしまっていたことだろう。それから購入と言っても専属使用権のようなもので、利用する際はこの店からラモーネの門を出て移動することになる。その代わり有料だがボボの世話はこのお店の従業員がやってくれるので難しいことは何もないのだ。


 次に向かうのは、ビルおじさんのいる装備品の店だ。手に入れた二体のミスリルモールの素材と少しのミスリルを持って店へ向かう。

 お店に入ると、奥の部屋からカンカンと何かを叩く音がする。ビルが鍛冶仕事でもやっているのだろうか。

 少し待っていると手を休めたビルおじさんがこちらに気づいて声をかけてくる。

「おう、またきたな。今日はどんな要件だ?」

「手に入れた素材で胴防具を作ってもらえないかと思ってきました」

「ほう、どんな素材だ?」

「これなんですけど……」

「なに! これはミスリルモールじゃねえか。またとんでもないもん持って来やがったな、お前さん。それで、こいつで防具を作ってほしいってことかい。こいつは大仕事だな」

 予想通り驚かれてしまった。やはりミスリルモールはかなり貴重な素材なのだろう。

「二体で二人分を作ってもらいたいです」

「相棒は機工士だったな。だったらそれに合った防具にしねえとな」

「はい、おねがいします」

 父さんが頼っていた人だ。きっといいものに仕上げてくれることだろう。

 防具ことはいいとして、残った素材の歯と爪、糞から取れたミスリルがある。これらはゲーデルに見せて何かに使えるか聞いてみることにしよう。


 装備製作の依頼も済んでゲーデルの進捗状況をリベンダーの村までいって確認しに行くことにする。ボボに乗って行くので時間はかからない。コボルト族との交易で商人のグスタフを引き合わせるために一度ゲーデルにはコボルト族の元まで同行してもらいたいというのもある。グスタフは何日かラモーネに留まるそうだが、またロルダの街へ出発してしまうと次に会えるまでに結構な日数がかかってしまいコボルト族が不安がってしまうかもしれない恐れがあるのでそれは避けたいところだ。


 リベンダーの村に着くと、まずボボと一緒に来たことに村の人たちは驚いていた。行く先々で驚かれると対応に困ってしまうが、最初は仕方がないと割り切るようにした。それから以前この村に来た時より村の人たちが親切にゲーデルの居場所を教えてくれたように思う。ゲーデルが冒険者ギルドでしっかりとお金を稼いでいることを快く思っている証拠だろう。それに、ゲーデルがこの村に幾らかの仕送りをしているという話を聞いて、ちゃんとこの村のことも考えているのだと感心した。

「ロイだ、ゲーデル、入るよ」

 ノックをしてドアノブに手をかける。

「おお、ロイ、久しぶり!」

 勢いよくドアが開けられておでこと手をぶつけてしまう。

「あっ、ごめんよ。ちょっと興奮しちゃって……」

「大したことじゃない、気にしないでくれ。それより調子はどうだい?」

「ああ……、まあ、立ち話の何だし入ってくれよ」

 案内された小屋の中は相変わらずごちゃごちゃと散らかっていたが、作業台の上には開発中と思われる何丁かの銃が乗せられているのが見えた。以前から持っていたものとは別の複数の弾が込められるものや全体的に大きくなって銃身も長くなっているものなどがあった。いろいろと試行錯誤しているのだろう。

 ゲーデルは近くにある椅子を指し「座ってくれ」と合図をし、自分もため息をつきながら椅子に腰かけた。

「実は銃の改良は行き詰っているんだ……。弾の複数装填の実現と飛距離を伸ばすことはできたんだけど、弾の威力を上げようと思うと、今ある素材じゃあどうしても銃身と本体の強度が足りないんだ。今回はここまでかもしれないな」

 行き詰ったといっても改良は十分進んでいたように思う。それに、

「これ、つい最近獲れた素材なんだけど、使えるかなと思って持ってきた――」

「これは、ミスリルとミスリルモールの歯じゃないか! どうやって手に入れたんだよ」

「どうやってって、召喚したスライムとかを使っていろいろと……」

「まあいいや、とにかくこの素材があれば今ある問題が解決できる。よし、こうしちゃいられない、早速作業に取りかかるとしよう」

「あの、そのことなんだけど……。今すぐにここからラモーネにもどって、それからグスタフたちとコボルト族のところまで一緒に来てほしいんだ。例の交易の話さ」

「あー、そうだった。すっかり忘れてたよ。わかった、すぐ準備するよ」

 相変わらずの聞き分けの良さだ。ゲーデルは散乱したものの中からてきぱきと必要なものを鞄に入れていった。改良した銃ももちろん入れて。

「移動は外にいるシャイロンのボボに乗って行く。つい最近買ったから見せるのは初めてだな」

「おおー、すごい。馬より大きいんだね」

 お互い初対面にもかかわらず、すぐに打ち解けたようで安心した。もともとボボは人懐っこいから心配はしていなかったのだけど。

「なんだか今回もロイに助けられちゃったな。なんでいつも僕のことを気にかけてくれるんだい?」

「何だよ、急に、友達だから当たり前だろ」

「そっか」

 ラモーネへ向かうしばらくの間、ボボの足音と頬を抜けていく風の感触だけがそこにあった。

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