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第24話 カランとの特訓

 出てきたはいいが行く当てなどなかった。とりあえずカランがいる場所まで向かったのだが、中に入る気になれない。ひとしきりその場を行ったり来たりしていると、

「何してんだ、お前」

 後ろを振り返るとカランが木の枝に逆さ吊りの状態でぶら下がっていた。

「まさかそこで寝てたんですか?」

「いや、お前を観察していた」

「あの……、暇なんですか?」あきれた様子でロイが言う。

「自慢じゃねえが、暇だぜ」

 堂々としていて潔さすら感じる。「よっと」と言って地面に降りてくる。着地後は奇妙な四足歩行で近づいてくる。

「何ですか、その変な歩き方は……」

「失礼な、エレガントと言え」

「はあ……」正直ロイはついていけないと思った。

「あの、これ外してくれませんか?あなたが着けたんですよね」

 首元を指さしてこれだとカランに向けて言った。

「それはできねえ相談だな。そうだな、この前みたいに俺様に一発食らわせられたら考えてやってもいいぜ」

「なるほど、いいでしょう。受けて立ちますよ」

「そうこなくては、では移動するぞ。いい場所を知っている」

 カランはそう言うと地面から木の枝を生やし始める。伸びていく枝は円をつくり、やがて木の車輪が二つ出来上がる。車輪どうしがつながれて、真ん中とその前方に乗り場が出来上がる。

「よし、できたぞ。乗れ」

「あの、俺シャイロンいるので連れてきますね……」

 嫌な予感しかしない。得体の知れない乗り物には乗れない。

「お前には漢のロマンがわからんようだな。全く嘆かわしい。いいから乗れ」

 カランはロイを無理やり自分の後ろに乗せて、車輪の真ん中から伸びた枝に足を乗せて車輪を回しはじめた。するとその乗り物は勢いよく前へと走り出した。

「ふはははははー、きもてぃいい―。なあお前も気持ちいいだろ?」

「ま、まあ風は気持ちいいですね」

 もはや誰もこいつを止めることなどできない。

「そうだろう、そうだろう。まだまだいくぜー!」

 足の回転がまた速くなった。完全に興奮状態だ。すると突如としてカランの背中から何本もの枝が生えてきて、枝の骨組みに葉の板が二枚できあがり翼となった。翼は羽ばたき始め、その浮力で徐々に宙に浮かんでいく。

「きたきたきたきたー! うっひょー」

 翼によって完全に空を飛行し始めてもなおカランは足の回転を止めなかった。翼と足の動きは連動し、足の回転なしでは翼は羽ばたかないとでもいうようだった。

 極めつけにカランは前傾姿勢になって臀部を持ち上げて足の回転を速めた。その際に当然その臀部がロイの顔の目の前にきたことは言うまでもないだろう。だがその姿勢のおかげなのかわからないが翼と足の動きが速くなり飛行速度も増していった。なかなかの速度が出ていて、高度も上がってきている。この状況はともかく景色と風の流れがとても心地いいと感じていた。

「そろそろ着くぞ」

 カランは翼の角度を変えて着陸に備えた。それと同時に足の回転も止まっていた。おそらく人族の頭では理解できない力学が働いているのだろう。

 標高が高い位置にある広い草原だ。ここならだれかに邪魔されることはないだろう。

 着陸のために翼をばたつかせる。先ほどまでの興奮状態からは考えられないほど丁寧な着陸で、振動がほとんどなかった。

「着陸は上手なんですね」

 そう言われたカランは「ニヤ」と気持ち悪く笑って少し得意げにしていた。それを見たロイは言うんじゃなかったと後悔したのだった。

「いい場所だろ? 俺のお気に入りなんだ」

「そうですね、いい場所ですね。でも約束、忘れてませんよね?」

 ロイは首輪を指さしてそう言った。

 二人は少し離れて距離を取る。

「ああ、漢に二言はねえ。一発だ」

「それを聞いて安心しました」

 ロイは力を溜めはじめる。

「ガーディアンゴーレム召喚、ゴーレムの腕〈チャクラ七〉〈オートヒール〉!」

「首輪が付いている状態で〈チャクラ七〉までいけるか。だがまだまだだ。それじゃ足りねえ。しっかり鍛えてやらねえとな、いいぜかかってきな」

 カランが言葉を言い終わると同時にロイが一気に距離を縮めて〈ゴーレムパンチ〉を放つ。しかしカランが作り出した樹木の壁に阻まれてしまう。パンチの衝撃風がカランの横を通り過ぎるが、腕組みをして微動だにしていない。それでもロイは〈ゴーレムパンチ〉を放ち続ける。

「はっはっは、弱い弱い」カランが余裕を見せている。

「それならこれはどうですか?」

 ロイはガーディアンゴーレムで腕を突っ込ませて、地面ごとカランを宙に放り投げた。

「おいおい、俺がきれいに保っている場所をいきなりめちゃくちゃにするんじゃねえよ。全く」

 放り投げられた地面は崩れてバラバラになっていく。

 ロイは足を踏ん張り思いっきり空中に飛び上がる。近づくとカランは腕を変形させ手伸ばし、ロイを横からはたきつける。

 ロイは〈バリア〉を張って落下を防ぎ、再びカランに向かって突進する。しかし方向が少しずれていて、横を通り過ぎてしまう。

「通り過ぎてんじゃねーかよ」カランが馬鹿にしたように言う。

「これでいいんですよ」

 ロイはすぐさま〈バリア〉を張って軌道を変える。そしてもう一度カランに向かって〈ゴーレムパンチ〉を繰り出した。

 だがこれも防がれてしまう。後ろ側からの見えにくい場所からの攻撃にも関わらず、状態は前を向いたまま、肩から腕が曲がってロイの攻撃を受け止めていた。

「後ろに目でもついてるんですか?」

 ロイが少し皮肉っぽく言った。

「ああ、ついてるぜ」

 そう言うと後頭部辺りに見えていた小さな隙間が広がって黄緑色の瞳が見えてきた。

「俺に後ろという概念はねえ」

「何でもありですね」

「これは一発入れるのは無理じゃねーか?」

「まだまだこれからですよ」

 その後も二人の戦いは夕暮れ時まで続いた。もらったパンは当然硬くなっていた。

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