第23話 大陸の謎
ベッドの上で目が覚めたロイは自分の手の平を確認した。生きている。体全身がだるかったが動く分には問題ない程度のものだ。カランが出した植物に取り込まれてからの記憶がない。どのくらい寝ていたのだろうか。そうだ、みんなはどうしているだろう、探さなければ。
なまっていて、きしむ体を少し強引に動かしてベッドから起き上がる。いつの間にか着ている服がかわっていた。誰かがかえてくれたのだろうか。ということはその人に裸を見られたことになると思って、少し恥ずかしくなった。服自体は薄手の布だが寒さは感じない。質のいいものなんだと感じた。それから首に何かが巻かれていて取れない。手で触った感触からすると皮でできた首輪のようなもの。だが今考えても分からないことだ。それに身体的には今のところ何の問題もないのだから。
寝ていた部屋を出ると食欲をそそる匂いが漂ってきていた。急にお腹が空いてきた。ずっと眠っていて何も食べていなかったのだ、無理もない。
匂いをたどってついた部屋にはリーリエルが後ろ向きで立っているのが見えた。物音がしたのかこちらに気づき、小走りでこちらに向かってきてそのままの勢いで抱き着いてきた。それは数秒間続いた。
「……これはどういう状況かな?」
いきなりのことで驚いてしまった。それにリーリエルが何故ここにいるのだろうかとも思った。
「よかった、動けるようになったのね」
「うん、さっき起きたばかりなんだ」
「そうだ、お腹空いているでしょう? 食べていってよ」
「そうさせてもらおうかな、起きたら急にお腹が減ってきたんだ」
「ちょっと待ってて、すぐに用意するから」
リーリエルはてきぱきと動き、次々と料理がテーブルの上に置かれていくのだが……。
それはとても料理の見た目とは思えないものだった。どろどろとしていて、色は暗緑色をしている。どの料理も同じ色で形でしか違いが判らない。時折具材の下から空気が浮き上がって来ていてぽこぽこと音を出している。目の前にいるのがエルフの若い見た目の女性ではなく老婆だったら、このまま自分も食材として使われてしまうのではないかと思ってしまったことだろう。
「見た目は悪いんだけど、味はおいしいから」
リーリエルは中に何が入っているのか説明してくれた。いろんな薬草や聞いたことがないような生物の名前、その効能などを教えてくれた。
「おいしい!」
恐る恐る食べてみると、味は匂いの通りとてもおいしかった。これほどまでに見た目と味に差がある食べ物は今までなかった。
「よかった、まだたくさんあるからよかったらおかわりしてね」
早く体調を元に戻したいという気持ちもあってか、何度もおかわりをしてお腹いっぱいにこのどろどろのものを食べた。
「そうだ、他のみんなはどこにいるの?」
お腹が満たされて安心したのか、ふと思い出した。
「大丈夫よ、ここにはいないけどみんなそれぞれの場所で、今後に備えるためのことをしているわ。マリンはここの近くで私と一緒に修行をしているし、ゲーデルはハーディスがいるヴェン、パーはヘルレイムがいるイズリットというところにいるわ。詳しい場所は後で地図を渡すときに教えるわ」
「ありがとう」
お互い目を見て頷いた。
「あと、これはカラン様からロイが目覚めたら伝えてくれと言われたことなのだけど『いつでも相手になってやる、かかって来い』と言っていたわ」
「かかって来いって、最後はわざと思いっきり殴られてたじゃないか……」
「場所は最初にあったところに大抵はいると思うわ」
「わかったよ、ありがとう」
「あともう一つ、今から言うことはもっと大事な話よ」
リーリエルはさっきまでとは違い真剣な顔つきになった。
「大事な話?」
「そう、これはアースガルド大陸に生きるすべてのものに関わる話。ロイはこの大陸の生き物がどうやって生まれたか知っているかしら?」
「どうやって? さあ、全然わからないです。地面の中から出てきたとか?」
「ふふふ、違うのだけど、かけ離れているとはいえないわね。実はこの大陸に生きているすべての生物はグランリーフにある世界樹から生まれてきたものなの。魔族を除いてね」
「え、まさか、そんな……、信じられない。実際に人間の子供は親から生まれているじゃないか」
「ええ、そうよ。でも一番初めの人間は世界樹から生まれているの」
「そんなの信じられないよ」
「確かにそのことを証明することはできないわ。知っているのも今となってはカラン様だけだから。でもこれが真実よ」
この大陸の生物の始まりについてなど考えもしなかったが、二千年以上生きているカランが言っているのなら信じるしかないのかもしれないと思った。
「それはそうとして、じゃあ魔族は違うってどうしてなんですか?」
「魔族に関してはまだ情報が足りなくて確証はないのだけれど、捕らえていた魔族から魔法を使って聞きだした内容から、世界樹から生まれたものと魔族では生きていける空気が違うのではないかということが推測されるの」
「推測? それにあの魔族は今どこにいるんですか?」
「いっぺんには説明できないから一つ一つ答えていくわね。まずあの魔族は死んだわ。石のように硬くなってね。治療を尽くしてはいたけど効果はなく、次第に手足から体全体に灰色になって崩れ落ちてしまったの。それはつい昨日のことよ。このことから考えられるのは捕らえられた時を想定して事前に石化の呪いのようなものをかけられていたか、ここの環境が影響しているかのどちらかだということになったのだけど、石化に関してはコカトリスという魔物がいることもあってか治療が確立されているので、その可能性は低いということになって、やはり環境による影響、空気にあるということになったの」
「まさか、そんなことが……」
「それから、あの魔族から魔法で聞きだした内容は、私たちと同じように世界樹――ここでは魔界樹と呼ぶようにする――があって、そこから私たちの領土に一番近くにできた大きな実(通称王の実)から生まれたのが魔王オスヴァルトで、他にも魔影のエヴァリスト、双極のベルンハルトとレオンハルト、悦殺のイサドール、霧衣のソーンダース、巨壊のゴッドフレイという魔王に匹敵するほどの力をもった魔族がいる、あるいは生まれてくるというものだった。避けられない領土争いに平和的解決はないわ。ロイ、あなたの力を貸してほしいの」
「魔王に匹敵する存在がそんなにたくさんいるなんて……、どうしようもないじゃないですか。それにお互いの領土でそれぞれうまくやっていけばいいじゃないですか」
「そのことも考えたのだけれどできないの。現に魔族は私たちの領土に攻め込んできているし、それに世界樹の領域の広がりはカラン様では止められなくて『俺はあくまで世界樹の核であって本体じゃねえ、だから広がりを止めるのは無理だ』そう言っていたわ」
「そんな……、じゃあ戦うしかないのか。そんな中で僕は役に立てるんだろうか」
「大丈夫よ。カラン様から引き上げてもらった力もあるし、修行していけばあなたはまだまだ強くなる。それに私たち以外にも仲間はたくさんいるわ」
「確かにそうですね。でもちょっと考えさせてください」
いろんなことを知り過ぎて頭が混乱してきていたロイは「少し外に出てくる」と言って外に出ようとした。
「あ、待って。これよかったら持って行って」
渡されたのはパンに野菜と肉が挟まれたものと水が入った革袋で、これは見た目もおいしそうなものだった。
「いつ目が覚めるかわからなかったから……」
リーリエルは少し困った表情で微笑みを浮かべていた。それから「体にもいいし……」と小声で言っているのも聞こえた。
そのことを汲み取ったロイはできる限りの作り笑いをして応え、外に出かけることにした。




