第20話 リーリエルの想い人
グランリーフ内のとある場所の小ぢんまりとした小屋でマリンはリーリエルと話していた。
「あのー、これから私はどうなっちゃうんでしょうか?」
「どうもならないわ。私と魔法の修行をしてもらうだけよ。そういえば、あなたの旅の目的は何だったのかしら?」
リーリエルはいつものようにやや無表情に言った。
「私は一人前の魔法使いになりたくて、というか村を追い出されて……。とにかく一人でも生きていける力が欲しいと思って、大きな街を目指して旅をしていました」
「そう、多分追い出されたというのは違うと思うわ。〈バリア〉の魔法に関しての素質は、あなたは私を凌駕しているもの。自分よりも上の領域で、魔法をうまく扱えていない者に対して指導することはできない、と考えていたんじゃないかしら」
「でも、〈バリア〉の魔法だけ上手に使えても、あまり役に立たないんじゃないかと思って、守っているだけじゃ何も変えられないから……」
マリンは幾度となく頭の中にあった自分の不甲斐なさを思い出し、しょんぼりしていた。
「あなた、若いのに頭硬いのね。いつ〈バリア〉が相手の攻撃から身を守るだけの魔法だと言われてきたのかしら。いい?〈バリア〉というのは通すものと通さないもの決める壁であるというだけの魔法よ」
「通すものと通さないもの?」
「ええ、ここグランリーフに入るとき、あなたたちは私が張った〈バリア〉を通ってこれているけれど、魔族と魔族による攻撃、またその他の攻撃は阻まれるように術式が構築してある。今から攻撃魔法や属性魔法をおぼえても、私のような長い時間修練を積んだ者や、魔族の高度な魔法技術の前では歯が立たないのは明白よ。だからマリン、あなたにはその〈バリア〉の応用を習得したほうがいいと考えているの。どうかしら」
マリンにとって一人前の魔法使いとは、様々な魔法を自由自在に扱える者、のことだとずっと思っていたので、リーリエルに提案された内容は想像できなかったことだ。マリンは少し考えた後に、
「私、やってみます!」と言った。
今まで無理にでも〈バリア〉以外の魔法を習得しようとしていたが、できなかった。努力してこなかったからではない。選択が違っていればうまくいくということが証明できれば、過去の自分に報いることができると思ったからだ。
「そう、わかったわ。でも私の修行は厳しいわよ」
「はい、望むところです!」
「その気持ち、いつまでもつかしらね」
リーリエルは不敵な笑みを浮かべていた。
「――ところで、ロイとはどういう関係なのかしら?」
リーリエルは不意に聞いてきた。
「どういう関係って、都市オルデンで私がロイくんたちに声をかけてパーティーに入れてもらうように頼んで入れてもらって、そこから一緒に旅をしてるっていう感じですけど――」
「恋人同士というわけではないのね?」
マリンは「え?」という驚いた顔をした。
「ち、違いますよ! 全然そんなんじゃないです。それに一緒に旅を始めてからまだ日も浅いですし」
「そ、そうなのね」
リーリエルは「じゃあ、私のライバルってわけじゃなさそうね」と聞こえるか聞こえないかわからないほど小さな声で言った。
再びマリンは「え?」という顔をした。
「なにかしら?」
リーリエルは何も言わなかった、という顔をして聞いてくる。
「いや、ライバルがどうって……」
「私はそんなこと言ってないわ。おかしなこと言わないで」
「はあ……」
マリンは思った。私は耳がいい方だ。聞き間違えたとは思えない。でも、まさかエルフの女性は人間の青年のことを好きなるなんて、しかも一回あっただけで。一目ぼれ? エルフって一目ぼれするんだ、と妙に冷静に考えていた。
しかし、リーリエルの顔を見ると、顔が赤くなっている。普段冷静を装っているエルフがこんな顔になるなんて、とマリンは笑い出しそうになるのをこらえた。
「しゅ、修行は明日から行うわ。今日はたくさん食べてよく寝てちょうだい」
「御飯がたくさん食べれるんですか!」
「ええ、お腹を壊さない程度に食べるのは問題ないわ。場所を案内するからついて来てちょうだい」
マリンは急に上機嫌になった。食いしん坊は健在のようだ。




