第15話 魔導竜ハーディス
グランリーフまでの道のりは、オルデンのギルドで聞いても詳細な場所はわからないといわれた。パーが長老のペーから聞いているといって、手書きの地図も持っていたので、案内を任せることにした。
関所を抜けて北へ進んでからは緩やかな坂道が続いていて、大きな木がいくつも生えていることもある。道幅が狭いところもあり荷車で通るのがやっとだった。
しばらく上へ登っていくと、山間の斜面に薄い緑色の霧が立ち込めていて、それが日の光に照らされて、なんともいえない神秘的な光景であるように思えた。
そんなことを思いながら進んでいると、突然パーが、
「なんか、人の気配というか匂いがするっす」と言った。
辺りを見回してもそれらしい人は、見当たらなかった。
「パー、どのあたりから感じるんだ?」
「あのあたりっす」と言って場所を指さした。
「ゲーデル、ちょっと銃で撃ってみてくれないか」
ゲーデルは辺りをうかがっていた。ロイもガーディアンゴーレムを召喚し、いつでも〈チャクラ〉を開放できるようにした。
「うん、わかった」
ゲーデルはパーが言った場所に向けて銃を放った。
すると、何もないはずのところに銃の弾があたり、軌道の角度を変えた。
次第にあたった場所から布のようなものが見えて、人が姿を現す。
「おい、魔族だぞ!」
薄い青紫色の肌に赤黒い目、かぶったフードからねじれた青黒い角が生えているのが見えた。
魔族は有無を言わさずこちらを攻撃してきた。装飾の付いた長めの短剣がこちらに向かって振り下ろされる。ガーディアンゴーレムは盾で受けるが、盾に傷がつき、魔族の力が強く体勢を崩す。
一瞬の静止状態にゲーデルの銃が命中する。魔族の足に氷結弾が当たり、足が凍って動けなくなる。
「いまだ!」
「おう、〈ゴーレムパンチ〉!」
轟音と共に〈ゴーレムパンチ〉が魔族に命中し、少し吹き飛ぶ。しかし大したダメージにはなっていないようだ。〈チャクラ三〉を開放してからの〈ゴーレムパンチ〉は以前とは比較にならないほど威力が上がっている。かなり強い相手のようだ。
魔族は無表情にこちらを見ている。そして人数を確認するように視線を動かしている。
その後も激しい戦闘は続いた。主にロイが攻撃を防ぎ、ゲーデルがその隙をついて氷結弾で動きを止めてロイが攻撃をする。氷結をすぐに解かれて、ロイの攻撃も避けられ、ゲーデルが攻撃されそうになったらマリンのバリアで守る。バリアが間に合わないときはパーが攻撃に入り、隙を与えないようにする。それでも相手の攻撃を防ぎきれない時がある。ガーディアンゴーレムの盾はボロボロになり、パーも〈パリィ〉で受けるが相手の力が強く何度も吹き飛んでいた。しかし〈パリィ〉のおかげか致命傷は避けることができている。
「ふん、チマチマとやりあっていては埒が明かんな。これで片をつける」
魔族は空中に浮きあがり、浮いた状態を維持している。そして魔法の詠唱を始めて数秒後。
「みんな私の後ろに隠れて!」マリンが大声で言う。
「〈ネザーブレイク〉」
大きな紫色の光が一直線にこちらに向かって放たれる。一瞬の出来事だった。
放たれた魔法はマリンのバリアに当たる。バリアの外にもれた光が周辺の森の地面を削っていく。地面が深く掘られ、真ん中に穴の開いた円のように見えたことだろう。
「みんな、無事か?」
全員がうなずく。
「マリンのバリアのおかげだ」ゲーデルが言った。
砂煙が薄れて魔族の姿が見えてくる。
「ばかな、私の魔法が防がれただと……」
自分の魔法の力に自信があったのか。魔族は明らかに動揺していた。
「〈アークバインド〉!」
どこからともなく声がした。
「しまった!」
いくつもの黄赤色の光の輪が魔族の体を拘束する。縄のように体に巻き付き相手の動きを止める。魔族は空中から落ちていき、木の枝に何度があたりながら地面に落ちた。それから動きはない。
上空から大きな竜が一匹近くに降り立つ。大きな体だが木と木の間を通り、器用に着地した。それと同時に竜人も現れる。おそらく、この竜の背に乗って来たのだろう。胸には宝石のようなものが付いている。もしかしたら竜のオーブだろうか。竜のオーブだとしたら四竜の一人ということになる。
竜人が乗ってきた竜に待っていろ、と合図をしてからロイたちに近づいてきた。よく見ると右腕から光の縄が伸びていて、その先にはさっきの魔族が縛られた状態で引きずられていた。
「お前たち、冒険者か? 私はハーディスという者だ」
ハーディスといえば四竜の魔導竜ハーディスだ。ハーディスは人族よりも一・五倍ほど大きい程度だが、すさまじい威圧感を放っていた。見た目は竜人で青い瞳をしている。黒い鱗を持ち、体のいたるところに魔道具らしきものがついている。そして胸には竜のオーブが黄赤色に薄く光っていた。
見とれていてはいけない。
「はい、俺はロイ、こっちがゲーデル、それからパー、マリンです。ラモーネからオルデンを通って、グランリーフというところへ向かう途中で、隠れていた魔族と遭遇しました」
「なに、グランリーフだと。一介の冒険者には用のない場所のはずだが」
ロイが言った言葉に少し不信感をもったハーディスに、ここに至るまでの経緯を説明した。
「なるほど、その球体から映し出された映像を頼りに、ここまで来たということか。にわかに信じがたいが、話してくれた内容はどれも普通では知りえない事実ばかりだった。ふーむ」
ハーディスは思いあぐねているようだ。その間、ゲーデルの持っている銃を見ていた。
「よし、わかった。ひとまず君たちを信じることにしよう。それにこいつのこともある」
ハーディスは右手を上げて、先ほどの魔族と繋がれた光の紐を見せた。
「一旦、グランリーフの南部へ戻る。お前たちも一緒に来てくれ」
乗って来た竜に捕えた魔族を乗せて、こっちへ来いと手招きをしている。魔族は気を失っているようだ。
「あの、俺たちはシャイロンと荷車でここまで来たので、空は飛べません」
ハーディスはそんなことかという顔をして、
「その心配には及ばん――」
大きな竜はロイたちの荷車を飛びながら足で持ち上げて見せた。
こうしてロイたちはぎゅうぎゅうに詰められた荷車に乗って、竜に運ばれながらグランリーフへ向かうことになった。




