第11話 〈チャクラ〉
交易の交渉を終えてグスタフたちはそのままロルダへ、ロイたちはラモーネに帰ることにした。ビルに頼んでおいた装備品が出来上がっているころかもしれない。
帰りの道中で手に入れたミスリルモールの素材で、自分とゲーデルの装備を作ってもらっていることを言うとゲーデルは素直に喜んでいた。
魔除けの香をグスタフから分けてもらって使用しながら帰ったせいなのか、もともと魔物が出にくい道なのかはわからないが、魔物に遭遇することはなかった。もし遭遇していたらボボの実力を知るいい機会になったかもしれない。
シャイロンの足は馬よりも速く、それほど時間がかからずにラモーネに着くことができたので、早速装備品の店に立ち寄った。
店に入ると鍛冶仕事がなかったのか、ビルはすぐに声をかけてくれた。
「おう、ロイ、例のやつ出来てるぞ」
ロイのガントレット装備をミスリルモールの素材を使って改良したものと、二人分の胴装備が出来上がっていた。どちらも完成度が高く性能も申し分無さそうだ。見た目はミスリルモールの表皮を他の素材でうまくつなげてあり、ミスリルの色と合わせて落ち着いた色合いに仕上がっている。
「ありがとう、ビルおじさん。大事に使わせてもらうよ」
「おう、そうだ。おめえの相棒のほうはもう少し体に合うように調整しねえとな」
ゲーデルの体に合わせてつなぎ目などを調整してもらうと、さっきまでよりも体に合って動きやすそうな感じになっていた。
「あ、ありがとうございます」
「それにしても今回の装備製作は大仕事だったぜ。また何かあれば俺に言ってくれ」
やはり父さんが頼っていただけあって腕は確かなようだ。
銃の改良作業が残っているゲーデルをリベンダーの村まで送ることにした。その間、ロイは久しぶりに実家に帰って過ごそうかと考えていたので、完成でき次第バハムの町で落ち合うことにした。久しぶりに帰るので積もる話もあり楽しみだ。
現在のステータス
ロイ〈格闘術レベル十五〉〈召喚術レベル二十〉〈錬金術レベル十〉〈治癒魔法レベル十〉〈支援魔法レベル十〉
ゲーデル〈機工術レベル十五〉〈銃術レベル二十〉
実家に帰ると両親はとても喜んで歓迎してくれた。夕暮れ近くで、二人ともそれぞれ好きな飲み物を飲みながら椅子に座ってくつろいでいたところだろう。クレア姉さんを見ないが自分以外にはあまり関心のない人だ、自分の部屋にでもいるのだろう。
「久しぶりだな、少し見ない間にだいぶたくましくなったようだな。それに足音からしてシャイロンで来たのか?」
勘のいい父さんが言った。
「うん、これから冒険をしていくのに必要かなと思って、あと、ミスリルモールをうまく捕らえることができて、まとまったお金が入ったんだ」
「おお、ミスリルモールか、そいつはすごいな」
詳しい捕らえ方を教えると「俺にはできないな」と父さんが言って、母さんは「ロイはすごいわねえ」と素直に褒めてくれた。
「そういえばクレア姉さんはまだ部屋にいるのかな?」
気になっていたので聞いてみた。
「ああ、あいつは今……な」
ランスが理由を言いあぐねていると、
「クレアちゃん、振られちゃったのよ。同じパーティーの男の子に。そいつがひどくてさあ、同じパーティーの攻撃魔法使う女の子にも手を出してたみたいで、そのことを問い詰めたら、もうお前とはパーティーを組まない。って言われたらしいのよ、ひどくない?」
それで自分の部屋に引きこもっているというわけか。
「それは、大変だったね……はは」
たしかにひどい話だが十代の男子に何のフィルターも無しに話していい内容ではないと思った。普段とてもやさしい母さんも言う時はズバッと言う人なのだと、この時気づかされたのだった。
「おい、母さん、ロイが困ってるだろ。それより、これからどうするんだ、またギルドの依頼をこなしていくのか?」
「友達のゲーデルの用事が終わったら、ここかラモーネで合流することにしているんだけど、最終的にグランリーフという場所へ向かおうと思ってるよ」
この言葉を聞いて二人とも真剣な顔つきになった。
「そうか……、お前確か召喚士とモンク、魔法使い、錬金術師のジョブ適正だったよな。もうモンクの〈チャクラ〉は使えるようになったのか?」
「いや、まだ使えないけど」
「なら、父さんが教えるからここで習得してからにしなさい。あそこは強い魔物がたくさんいるから。だが今日はもう遅い、明日から始めよう」
母さんも少し心配そうな顔をしてこっちを見ていた。何にしても強くなることは悪い事じゃない。明日から頑張ろうと思う。そのままになっていると言っていた自分の部屋へ向かう途中にクレア姉さんの部屋のドアが少し開いていて、薄い半そでの上着に下着姿でうつ伏せの状態で寝ている姿が夜の光に照らされているのが見えて、なんとも言えない気持ちになった。
朝食を済ませ、朝の早い時間からランスと、少し歩いた場所にある広い平地で特訓は始まった。
まず〈チャクラ〉とは何なのかということについて説明してくれた。
〈チャクラ〉とは身体強化の一種でモンクのみが使うことのできるものだ。自身で自分の体に魔力を練り込み身体強化を行う。〈チャクラ〉には段階があり、段階が上がるほどに強化具合も上がる。しかし体にかかる負担も上がり、無理をすると死に至ることもあるという。
「じゃあ、まず〈チャクラ〉でどの程度強化されるのか、身をもって感じてもらおうと思う。ロイ、軽めに防御してくれ」
ロイはゴーレムの腕で防御を固めた。
「ほう、新しいな。マルチジョブだとそんなこともできるのか」
ランスはゴーレムの腕を見るのは初めてだった。
「出せる速度も速くていいな、じゃあ、いくぞ」
ランスはロイが構えたゴーレムの腕めがけて拳を打ってくる。ドゴッといってゴーレムの腕がはじかれて上体が後ろに仰け反った。手加減してくれているはずなのに結構な威力だ。
「次はお前の最大防御を出してみろ」
今できるロイの最大防御といえばガーディアンゴーレム召喚による防御になるだろう。〈バリア〉も張れるがまだ実践で使えるレベルではないが、できることはなんでもやることにしよう。
ロイはガーディアンゴーレムを召喚し、〈バリア〉を張った。
「おお、またごついのを召喚したな。ガーディアンゴーレムか。それに強度は無さそうだが〈バリア〉まで張れるとは驚いたな。短期間でここまで強くなってるとは。うーん、そうだな。〈チャクラ五〉ってとこか」
ランスは両手を合わせた状態で「〈チャクラ五〉開放」と言った。
辺りに地響きがして、強烈な圧迫感を感じる。体の表面が視覚的に分かるほどの光をまとっているように見える。これが〈チャクラ〉を開放した状態なのかと思った。
「よし、いくぞ。お前は少し横に離れていろ」
手を横に振って合図を送ってきた。それに応えてロイは移動した。
ランスはガーディアンゴーレムに向かって歩いて行き、一定の距離の場所で構えて力を溜める。そして次の瞬間。
「ハア――」という声と共に衝撃波が起こり、バリアがすぐに破壊された。そしてガーディアンゴーレムが構えている盾に突き出された拳が当たる。ドゴーンと音がして、一瞬止まったように見えたが、拳が振り切られて盾もろともガーディアンゴーレムがゴロンゴロンと転がっていった。その削られた地面の跡を見ると威力の高さがうかがえる。後ろに立っていたら一緒になって転がっていって怪我をしていたかもしれない。あるいはもっとひどい状態になっていたかもしれない。
ロイが呆気に取られて棒立ちになっていると、
「これが〈チャクラ〉だ」
そう言い放った。
今までに見たことがない父親の力を見た。これが元勇者パーティーのメンバーの実力なのだ。そして〈チャクラ〉を習得するまではグランリーフに行ってはいけないとまで言われた。それほど危険なところなのだということだろう。




