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8.街とお出かけ

「もっと知りたいな……。」


シャーレール・バンオンス。

愛称、シャルル。

彼女の好きな物は私だ。

私という個人とその体、

私が保有している物にまで

彼女の好意は及んできている。

今朝も寝起きの私にキスを迫り、

着替えを堂々と覗こうとしてきた。

魔力がなく、忌み嫌われる私を

彼女はずっと慕い続けてくれている。


「私のことでしたらいくらでもお教え致しますよ。

上から82、64、77です。

ちなみに本日の下着は黒色です。」


そんなことは誰も聞いていないのだが、

こうしてシャルルは自身のことを

一切隠さないどころか

赤裸々にさらけ出してくる。

だからこそ私は彼女のことを

それなりに理解しているつもりなのだが、

彼女の双子の片割れであるサー、

サートラント・バンオンスのことは

未だによく分かっていない。

私が本家の屋敷から追い出されて

ロアンやサーたちと過ごすようになってから

すでに2年あまりが経つにも関わらず、

私はサーの好きな物を何も知らない。


「よし、決めた。」


そこで今回は思い切って、

サーを街に誘ってみることにした。

二人で街を色々と見て周り、

彼の好きそうな物を探る。

従者のことを知るのも

立派な主としての義務である。

そうと決まれば早速サーを呼び出しだ。

サーを呼ぶためのベルを鳴らすと、

彼もシャルルと同様に

ものの数秒で部屋までやってきてくれる。

そして、彼を街へ誘った。


「街への買い出しでございますか。」


「うん。ずっと屋敷にいるのも退屈だし、

たまには外へ出て珍しい物でも探したいの。」


「承知致しました。

御身はこの私が必ずお護り致します。」


少しは拒むと思ったが、

サーはあっさりと認めてくれた。

従者たる者、主の言うことには

決して逆らわず、決して疑問を抱かない。

その忠誠心に少し良心が傷んだが、

これも互いに必要なことだ。

若い男女が二人きりで出かけるのは

いわゆるデートではないかと

一瞬だけ頭を過ぎったが、

私とサーはあくまでも主と執事。

そこに色気なんて微塵もない。


「お嬢様…私を置いていかれるのですね……。」


わざとらしく涙ぐむシャルルを置いて

私はサーと共に街へ向かった。

私たちの住んでいる屋敷は

街から離れた森の奥に建っており、

私の祖先が夏の暑さから逃れる避暑地として

何十年も前に建てさせたそうだ。

しかし、いざ建ててみると

街からは遠い上に周囲は森で迷いやすく、

虫や獣などが絶えずやってくることもあって

使われることはほとんどなかった。

こんな辺鄙な場所の大きな屋敷なんて

他に買い手がつくようなこともなく、

一族でも手に余していたのだが、

私に魔力がないことが分かると

隔離するように私をそこへ追いやった。

一族の中に忌み子がいると知られれば

他の家族たちまで危険に晒されるので、

こうした人のいない森の奥に隠したのだ。

処分に困っていた屋敷と

隠し通さなければならない私。

誰からも必要とされていないという点では、

私とこの屋敷はとても似ているように思う。

そして、お目付け役を命じられたのは、

すでに隠居を決めていたロアンだ。

私のおじい様に拾われてから

本家のために仕えていた彼だが、

若いメイドや執事が育てば

無理に彼を雇い続ける理由はない。

私の最低限の生活を守るためのロアンと、

忌み子として厄介者扱いされていた

双子の執事とメイド。

世界から隠れるように私たちは暮らしてきた。


「到着致しました。」


屋敷のことを思い出しながら

サーの横で馬車に揺られること1時間と少し。

私たちはルインレッド領の街に到着した。

ここの名前は初代ルインレッド家の

当主の名前からアレルの街と言い、

山や森に囲まれている立地と

王都から離れていることもあって、

いわゆる田舎の街である。

しかし、この街は海に面した地域から

王都へ行く途中に位置しているので、

道行く人間のおかげでそれなりに発展しており、

ここへ来れば大抵の物は手に入る。


「こちらのコートをお使いください。」


サーから渡されたのはただの黒いコートだ。

私の身分や存在を知られると

色々と厄介なことになるので、

あらかじめ目立たないような

庶民的な服を着てきたのだが、

念には念を入れろということだろう。

頭からすっぽり覆い隠すように

黒いコートを身にまとった。

サーも私と同じように、

普段のピシリとした執事服ではなく

下男のようなラフな格好をしている。

こんな機会でもなければ、

彼のこんな姿は見られないだろう。

街に入ってすぐの所に馬車を停めて、

二人でアレルの街並みへ足を踏み入れる。


「では行きましょうか。姉上。」


私は普段通りに彼をサーと呼ぶが、

徹底的に身分を隠すために

彼は私のことを姉上と呼ぶ。

食料の買い出しなどは

主にロアンとサーが担当しており、

私が街に来ることはあまりないが、

屋敷を出る時には私は

サーやシャルルの姉という設定になる。

年齢的には二人の方が歳上なのだが、

設定とは言え私より上になりたくないらしい。

妙なところで律儀だと思う。


「あれは何かしら。」


二人で並んで歩いていると、

街の人間たちがどうにも騒がしく、

街のあちらこちらに飾り付けがしてある。

以前来た時にはもっと静かで

落ち着いた雰囲気だったのだが、

何かの催しでもやっているのだろうか。


「もうすぐ冬が来ますから、

ハロウィーンの準備をしているのでしょう。」


「そういえば、そんな時期だったわね。」


そうか。もうハロウィーンの季節か。

この国では冬が迫った時期になると、

ハロウィーンという行事がある。

冬というのはその強烈な寒さのせいで

一年で最も命が空へ連れて行かれる季節であり、

天界で溢れた命が雪となって

落ちてくるとされている。

現代となっては暖を取るための

魔道具も一般家庭に流通しているので、

寒いからと言って簡単に死ぬことはないが、

家畜も屋内に引きこもり、

植物さえも育たない冬には

仕事をするために外へ出る人間も減る。

結果だけを見て言い換えるなら、

冬はほとんどの人間が家から出ない季節だ。

だからこそ、冬を迎える前にみんなで

楽しく騒いで春での再会を誓い合う。

それがこの国のハロウィーンだ。


「ハロウィーン自体は好きじゃないけど、

れんこんがたくさん出るから嫌いじゃないわ。」


れんこんは私が特に好きな野菜で、

旬となるこの時期にはたくさん出回る。

ハロウィーンではこのれんこんの穴に

特殊な紙で作られた手紙やメッセージを

これでもかというくらいに詰めて、

鍋で丸ごと煮込んで食べるのだ。

日頃の感謝や未来への希望といった、

中々口では言えないことを

家族や友人たちと共に飲み込む。

友人どころか家の人間とも

まともに近づかない私にとっては

楽しい行事ではないが、

単純にれんこんが好きだから嫌いにもなれない。


「今年もとびきり大きなれんこんを

ご用意しておりますので、

ぜひお楽しみになさってください。」


「うん、楽しみにしてる。」


彼らが用意してくれるれんこんは

私の想像を遥かに超えてくる。

去年は馬の顔よりも大きな

オバケれんこんだったので、

今年はどんなれんこんを用意してくれるのか、

今から楽しみで仕方がない。

しかし、私はしまった、と思う。

れんこんは私の好きな物で、

サーが好きな物ではない。

今回街に来たのはハロウィーンの準備で

盛り上がっている街を楽しむためではなく、

サーの好きな物を探りに来たのだ。

気を取り直して、私は歩みを進める。

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