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20.新年と贈り物

「みんな、今年もよろしくね。」


「ええ、老い先の短い身ではありますが、

私の方こそよろしくお願い致します。」


「私もよろしくお願いします!

これからもいっぱいお嬢様にご奉仕します!」


「よろしくお願い致します。

今年も誠心誠意お仕えさせて頂きます。」


すっかり外の景色が冬に突入した季節、

私たちは屋敷で新しい年を迎えた。

ハロウィーンの日から数えれば

幾日も過ぎているが、

年を跨いで日付けが最初に戻るのは今日だ。

どうしてこんな何の変わり目でもない時に

年が変わるのだろうかと

小さい頃はよく疑問に思っていたのだが、

年が変わる時期というのは

大事な何かが変わる時ではなく、

いつもの平和な日常の中で

気がついたら変わっている、くらいの方が

人間にとって安寧となるというような

それっぽいことを本で読んだことがある。

しばらくの間は私もそれを信じていたが、

どうやら本当の理由はそうではなく、

千年以上も前にこの世界を構築したという

一人の魔法使いの誕生日だったらしい。

そんな前のことなんて想像もできないが、

それが最も有力な話であることは

世界の誰もが知っていることだ。


「はい、私からみんなへの贈り物。」


そして、新年を迎えた日というのは

その家で一番歳上の人あるいは偉い人から

家族へ贈り物をするのが決まりだ。

この一年が平和で健やかであるようにと

願いを込めた贈り物をして、

家族全員の幸せを祈るのである。


「わぁ…!かわいい太陽でございますね!

ありがとうございます!大事にします!」


今回私が用意した贈り物は、

小さな木の板を彫り出して作った

手のひらくらいの大きさの御守りだ。

昨年とその前の年は手編みのマフラーや

手袋なんかを作ったのだが、

今年は自分の才能を伸ばすためにも

彫り物の装飾に挑戦してみた。

もうしばらくの間は彫り物を

作るつもりなんてなかったのだが、

贈り物は何がいいかと考えた時に

真っ先に頭に浮かんでしまったのだ。

無意識のうちにナイフで切り過ぎることも

この数日の間は起こっていないので、

これなら大丈夫だとも思った。


「ありがたく頂戴致します。

お嬢様の御守りさえあれば、

どんな悪も不運も寄りつかないことでしょう。」


御守りとは言っても、ただの木彫りだ。

それに、彼らに渡した模様も別々である。

シャルルは毎日明るく元気で

周囲のことを照らしてくれるので

笑顔を浮かべた太陽を彫り、

サーはいつも冷静に見守ってくれるので

月と剣を合わせた模様にした。


「ありがとうございます。

おかげで長生きができそうでございます。」


ロアンにはこれからもずっと、

そばで私たちのことを支えて欲しいので、

彼に渡した木彫りは亀と宝石だ。

長生きを象徴する生き物である亀と、

いつまでも美しく輝く宝石の相性は抜群。

身に着けやすいように紐を結んでいるので、

首から下げれば木彫りのペンダントになる。

それぞれが感嘆の声をあげる中、

私は彼らが気に入ってくれたことに安堵した。


「お嬢様、今年も本家のお屋敷からお嬢様宛てに

荷物が届いております。」


サーが持ってきてくれた荷物は二つ。

一つは本家の主であるお母様からで、

赤いリボンのついた小さな箱だ。

もう一つは私の身長よりも少し低いくらいの

大きな箱で、贈り主はリーゼと書いてある。

お母様からの贈り物はいいのだが、

どうして姉であるリーゼからも

贈り物が届いているのだろうか。

新年の贈り物というのは

普通は最も偉い人だけが贈る決まりで、

それ以外の人は基本的に受け取るだけだ。

お母様が本家の主である限りは

娘である私に贈り物が来るのは分かる。

しかし、リーゼは屋敷の主でもなければ

私の母親でもないのだ。


「しかも、何よこれ……。

私ももう子どもじゃないのに…。」


あまりに箱が大きく気になったので

リーゼからの贈り物を先に開けたのだが、

中に入っていたのは大きなぬいぐるみだった。

小さな子どもが欲しがるような

まん丸な瞳をした白色の熊だった。

私ももう14歳で、気持ちは大人だ。

幼少期には大きなぬいぐるみで喜んでいたが、

それはもう遠い過去のこと。

一体、リーゼの中で私は何なのだろうか…。


「リゼルヴァ様らしい贈り物でございますな。」


確かに、リーゼらしいといえばリーゼらしい。

きっと、これを選んだ時は贈り物なんて

大きければ大きい程愛も大きいとか

変な理屈を考えていたのだろう。

全く、これではどちらが子どもなのか

分からなくなってしまうではないか。


「姉さんは相変わらずね……。」


正直に言ってしまえば、リーゼからの贈り物は

最初から期待なんてしていなかった。

過去にも何度か彼女から贈り物をされたが、

そのどれも私の求める物ではなかったから。

中でも特に私の心を傷つけたのは

私が10歳の誕生日を迎えた時のことで、

当時13歳だったリーゼからの贈り物が

かなり高価な魔法の杖だったのだ。

いつまで経っても魔力が覚醒せず、

周りの人間たちから距離を置かれて

いつも一人で泣いていた私に贈られたその品を、

皮肉以外にどう受け取れと言うのか。

高価過ぎるがために捨てはしなかったが、

それは本家の屋敷に置いてきた。

今の私に、杖なんて何の意味もないのだから。


「こっちは……。」


大き過ぎる程大きいリーゼの箱とは対称に、

お母様からの贈り物の箱は小さい。

だからという訳ではないが、

小さな期待だけが私の心を掻き乱す。

私に魔力の才能が一欠片もないことで

屋敷に疑念と不安が少しずつ広がると、

それに伴うように私とお母様が言葉を

交わす時間は減っていった。

しかし、お母様は決して私を見限ったりせず、

新年と誕生日には必ず贈り物をしてくれた。

涙を拭くためのハンカチーフや、

寂しさを紛らすための小鳥。

どれも当時の私にはとても嬉しく、

だから余計とリーゼからの贈り物には

文句を言いたくなっていた。


「……さすがお母様ね。」


小さな箱に入っていたのは懐中時計だった。

しかもただの懐中時計ではなく、

方位磁針も内蔵されていた。

私の手にすっぽりと収まる大きさのそれは、

どこへ行こうとも正しい時間と

帰るべき方向を示してくれるという訳だ。

最近は以前と比べて外へ出る機会が

少しずつ増えてきているので、

いつでもどこでも持ち運べる懐中時計は

これからの私に必要な物だ。

やはり、お母様はいい贈り物をくれる。

私は懐中時計を胸に抱いて、

久しく会っていない母の温もりを思い出していた。

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