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2.忌み子と婚約

この世界には忌み子という存在がいる。

産まれながらに忌み嫌わられ、

呪いを振りまくと言われている。

代表的な例を挙げると、双子がそうだ。

人間から産まれる命は普通一つだが、

双子は二つの命として産まれてくる。

普通は一つなのに二つの命。

だから、どちらかは本物だが

もう片方は偽物の命だとされ、

その双子が7歳になる頃に

出来の悪い方の子どもを

殺すことが当たり前になっていた。

双子を生かし続けていれば、

周りの人間が不幸になるとかならないとか。

そんな何の確証もない理由で

罪なき命を殺すなんて酷い話だが、

今の現状でいうと私のすぐ近くには

双子のメイドと執事がいる。

それがなぜかという話は、

また別の機会に語るとしよう。


「お嬢様、魔法の訓練のお時間ですよ。」


ただ、忌み子と呼ばれる存在は

双子に限ったことではない。

双子よりももっと希少で、

神に見放されたとも言われる存在がいる。


「魔法、か……。」


それは産まれながらにして

魔力を持たない人間である。

この世界の人間はみんな、

早い者で1歳より若い時に、

遅い者でも10歳になる頃までには

魔法の才能や魔力を覚醒させる。

火を灯し、水を沸騰させ、

植物を操り、動物に変身する。

魔法の種類はその人間が持つ個性であり、

中には貴重な魔法も存在している。

しかし、極稀にいるのだ。

14歳になっても魔力が全く覚醒せず、

何の魔法も使えない人間が。

そのせいで周囲から疎まれて

親からも距離を取られた人間が。

……何を隠そう、それが私だ。


「嫌だなぁ……。」


魔力がない人間が魔法の訓練とは、

実に滑稽というか愚かな話だ。

翼のない人間が空を飛べないように、

魔力のない人間がいくら訓練したところで

魔法なんて使えはしないのに。

訓練を続けていればいつかきっと

魔法を使えるようになるかもしれないと

決意したのはもう過去のことであり、

億劫な気持ちは消えてくれない。


「大丈夫ですよ。

今日こそ使えるようになります。」


シャルルはいつも励ましてくれるが、

どれだけ訓練したところで

魔法のまの字もない程に

私の魔力はスッカラカンだ。空っぽだ。

魔力も特別な力も持たない私は

まさに空っぽで何もない人間だ。

今日はただでさえ客が来ることで

沈んだ気分になっているというのに、

魔法の訓練なんてやっていられない。


「…やっぱり今日は

ピアノを弾きたい気分だからいい。

シャルル、あの人が来たら教えて。」


ピアノを弾きたいなんて嘘だ。

魔法の訓練をしたくないから

手頃な言い訳を考えただけで、

本当は何もせずにうずくまっていたい。


「かしこまりました。」


私が言い訳をしているだけだと

シャルルも理解しているだろうが、

主である私に彼女は何も言わない。

ここにいたのがサーでも同じだろう。

私の心境も置かれている状況も理解して、

何も言わずに付いてきてくれる。

二人のような従者の主であることが、

私の人生における数少ない自慢だ。


「…?音が変……。」


逃げるようにピアノの前に座ったが、

鍵盤から鳴り響く音に違和感がある。

全体的におかしいというより、

いくつかの音だけがズレている。

どうやら調律が乱れているようだ。

広い屋敷にたった三人の使用人。

おまけに毎日弾いている訳ではないので、

当然彼らの手入れなど行き届かない。

サーかシャルルを呼ぶこともできるが、

私は調律器を取り出して

一音一音確かめながら部品を触る。

随分と久しぶりに調律をしたが、

意外と苦戦することはなかった。


「さてと…。」


調律が終わればやっとピアノを弾ける。

現実から目を逸らすために

なんとなくここへ来たが、

調律という作業を終えた後なら

それなりの楽しみに変わる。

だが、棚から無作為に取り出した楽譜を置いて

鍵盤に指を乗せた瞬間、

扉をノックされてしまった。


「お嬢様、ヘクト様がお見えになりましたよ。」


なんとタイミングの悪いことだろうか。

今まさに気分を上げるために

ピアノを弾こうとしていたのに、

こんなにも早く来てしまうとは。


「……分かった。すぐ行くわ。」


憂鬱な気分に支配されながらも、

客をあまり待たせる訳にはいかない。

ピアノを弾くのはまたの機会にして、

私はシャルルと共に客室へ向かった。


「失礼致します。」


シャルルが先導して扉を開ける。

客室にはサーが待機しており、

私が到着すると頭を下げた。

そして、客室にいた彼は私を一瞬だけ見ると、

悪い何かでも見たように視線を逸らす。

目を逸らしたいのは私も同じだが、

彼と会うのが今日で最後だと思うと

最後くらいは向かい合う方がいいだろう。

…正直に言うと、彼とはもう二度と

会うことがないと思っていたのだから。


「や、やぁ…久しぶりだな……。」


「お久しぶりでございます。ヘクト様。」


彼の名前はヘクト。ヘクト・ルミアーデ。

年齢は私の3つ上で、私の婚約者である。

私と彼がまだ幼かった頃に

両親が勝手に進めた婚約ではあるが、

それでもずっと婚約者同士として

仲の良い幼少期時代を過ごしていた。

しかし、年齢を重ねていっても

魔力を全く発現しなかった私は

ヘクトや彼の両親から距離を取られ、

彼との最後の記憶は

彼から石を投げられていた。

随分と多い護衛を引き連れているのを見ると、

どうやらそれなりに出世したか

余程用心しているようである。


「今日はだな…その……あれだ。

子どもの頃の話は忘れて

全部なかったことにしようと…。」


彼と向かい合うようにイスに座り、

彼もまたイスに座り直す。

サーが淹れてくれたお茶には手を出さず、

彼はいきなり本題を持ち出した。

随分と煮え切らない言い方をするが、

それはつまり婚約の破棄である。

いくら親同士が進めた話で

正式な書面もない口約束だと言っても、

明確に両者が否定しない限り

婚約というのは継続している。

互いに貴族の産まれである以上、

そういった約束事はどれだけ小さなことでも

大切に守り抜かなければならない。


「…そうですか。」


今日彼がここへ来たのは、

その婚約を破棄するために他ならない。

私が魔力を持たないまま成長するにつれて、

私は忌み子として嫌われていった。

そんな中、彼とその家族は真っ先に

私から距離を取るばかりか、

石や罵倒を投げつけて

私を本家から追い出すように働きかけた。

その時にすぐにでも婚約を

破棄することもできただろうが、

互いの合意がなければ破棄はできない。

一方的に彼が距離を取ったことで、

図らずも継続してしまったのだ。

魔力を持たない私と双子の従者。

婚約を破棄するためとはいえ、

三人の忌み子が住む屋敷に

足を運ぶのは容易ではなかっただろう。

多くの護衛を連れてきたのも、

それだけ私たちを警戒してのことだ。


「はい、私も子どもの頃のことは

忘れることに致します。」


ルミアーデ家は貴族としては

それなりに力のある家だ。

婚約者としては申し分ないが、

いくら貴族でも好きでもない相手と

結婚するなんて考えたくもなかった。

それに、私が良くても彼や周囲の人間が

決して許さないだろう。

だからこれが最良の選択だ。

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