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19.木彫りとステーキ

ハロウィーンも明けたただの一日。

私は自分の才能を確かめるために

大きめの薪をいくつかと

彫刻刀を用意してもらった。

初めてのことで私自身でも驚いたが、

どうやら私には彫刻の類いの才能があるようで、

雪玉を削って作った雪像は

かなりの完成度を誇っていた。

本当はまた雪玉を削りたかったのだが、

今の外の天気は荒れ狂うような猛吹雪。

雪は積もりそうだが、

迂闊に外へ出ると私まで埋まってしまいそうだ。

なので、とりあえずは木を削って

新たな作品を作ってみようと思う。


「まずは全体を削って……。」


鳥の雪像を作った時と同様に、

まずは丸い木から全体の大まかな

イメージを掴むために削っていく。

それから少しずつ細部を削って

自分の作りたい形を作るのだが……。


「か、硬すぎて疲れる……。」


スコップで簡単に削れる雪とは違って、

よく乾燥させた木は硬い。

大まかに全体を削りたいのだが、

ろくに鍛えていない非力な私では

こんなものはただの重労働だ。

しかし、すぐには諦められない。

時間をかけて努力するということにおいて、

私の右に出る者なんてはそうはいないのだ。

サーの力もシャルルの力も借りずに

コツコツと彫刻刀を握り続け、

やっと上半分の形を整えることができた。

この調子で下半分も整えられたら、

いよいよ本格的に削っていく。


「お嬢様、昼食のご用意ができました。」


「えっ…?もうこんな時間……!?」


作業を始めてまだ数十分程度だと思ったら、

進んでいたのは短い針の方だったようだ。

どうやら私は集中すると

周りのことが見えなくなる質らしい。

雪像を作っていた時も気がつけば

サーたちがいなくなっていたし、

ご飯を食べることも忘れていた。

そして、過ぎた時間を意識した途端に

お腹の音がぐぅっと鳴り響いた。

仕方なく作業を中断して、

私は昼食のテーブルにつく。


「お嬢様…?ナイフの斬れ味が良くないのですか?」


今日の昼ご飯は羊のステーキだったのだが、

とっくに切れている場所を

私は無意識のうちにずっと切り続けていた。

肉の下に敷かれた野菜も当然だが、

更にその下の皿まで少し削れている。

手が勝手に動くとはまさにこのことで、

あれだけ木を削っていた後遺症だとでもいうのか。

ともあれ、これは由々しき事態だ。

一刻でも早く木彫りを完成させて

自由な手を取り戻さなくては、

いつか屋敷の皿を切ってしまいそうだ。


「ロアン、サー。私が完成させるまでは

ナイフを使う料理は控えてちょうだい。」


寒い時期になると温かい料理は必須なのだが、

ステーキやハンバーグといった料理は

食べる直前にナイフで切って食べてこそ美味しい。

そのような料理を自らの意思で

絶たなくてはならないと考えると

それだけでお腹が怒ってしまいそうだが、

今回ばかりは仕方ないと言わざるを得ない。

彼らにも迷惑をかけるだろうが、

どうか今な私のために納得して欲しい。


「かしこまりました。

良い作品が出来上がることをお待ちしております。」


シャルルだけは残念そうにしていたが、

執事長からの了承も得られたところで、

私は昼食を早々に食べて作業を再開した。

今の私に求められているのは、

少しでも早く木彫りを完成させて

日常の料理を取り戻すことだ。

ロアンも私の作る作品にそれなりに

期待しているだろうし、早く見せてあげたい。


「頑張ろう。」


───それから7日程が過ぎ、

毎日の魔法の訓練をおざなりにしてまで

作業に没頭していた私はついにそれを完成させた。

右手を前に突き出して凛々しく立つ姿は、

まるで絵本の中で世界を救った偉大な魔法使い。

風になびく髪には躍動感があり、

今まさに魔法を使っている最中だと感じられる。

踊るように広がっているドレスは

彼女の女性らしいメリハリのあるシルエットを

とても隠しきれておらず、

作り物のはずなのに羨ましく思う程である。

しかしそれも無理もない話で、

この木彫りのモデルにしたのは私の姉であり

賢者にもその名を連ねているリーゼなのだから。

子どもの頃から憧れている姉の姿を

私なりに想像して彫ってみた結果、

このような英雄が誕生してしまったのである。

我ながら再現度が高く、そして美しい木彫りだ。


「ほおぉ…これもまた見事でございますな。

特に髪やドレスの揺れる様子を

ここまで再現なされている作品は

他に見たことがありませぬ。」


「わぁ、立派なリゼルヴァ様ですね!

なんと言いますか……かっこいいです!」


「美しくも力強いリゼルヴァ様の

堂々とした立ち振る舞いが

よく表現されている素晴らしい作品でございます。」


ロアンやサーたちからの評価も上々で、

達成感と安堵から私はやっと一息ついた。

雪像に比べれば時間はかかってしまうが、

冬が明ければ溶けてしまう雪と違って

木彫りなら時期を選ばない上に丈夫だ。

もしも今後、私が一人でお金を

稼がなければならなくなったら、

こうした物で商売をするのも悪くない。

いや、むしろ今すぐにでも商売を始めれば、

忌み子という烙印から逃げ出して

普通の人間になれるかもしれない。


「みんなありがとう。

……でも、しばらくはお休みかな。」


普通の人間になりたい。

そう願った回数ははっきりと覚えていない。

百か千か、とにかく途方もない回数だと思う。

身近だった人たちからは蔑まれ、

家族からも離れて暮らすようになり、

その中で幾度となく死にたいとも思った。

キッチンからナイフを盗んだこともある。

全てを諦めて、死んでしまえば楽になれる。

しかし、私は今もこうして生きている。


「明日からも魔法の練習しないといけないから。」


私が普通の人間になりたいと願うように、

私の周りにいる人たちもみんな、

私に魔力が宿ることを祈ってくれている。

母も姉も妹も執事もメイドもみんなだ。

毎日そばにいてくれるし、手紙もくれる。

それだけ私に期待してくれているのだ。

だから、少なくとも周りにいる人たちが

私のことを見限らない限り、

私は私の可能性を否定する訳にはいかない。

たとえそれがいつの未来になるとしても、

最後までこの筋だけは貫き通す。

それが今の私が生きる理由だ。


「では、お嬢様の作品の完成を祝って、

本日は牛のステーキを焼きましょう。」


おっと、そのことをすっかり忘れていた。

木彫りが完成するまでの間は

ナイフを使う料理を出さないようにと

言っておいたんだった。

しかしそれも今日で終わり。

しかも完成祝い兼解禁記念ということで

高級品である牛のお肉を用意してくれるとは、

やはりロアンは私のことを分かっている。


「わーい!牛のお肉!」


シャルルの気分も高揚しているようだ。

私もシャルルに引けを取らない程に

心の温度が上がっているのだが、

子どものようにはしゃぐ訳にもいかない。

顔だけはいつも通りを装って、

私は彼らが呼ぶ前に席についていた。

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