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18.ハロウィーンと笑顔

まるで牛のステーキ肉のように、

れんこんの切り口から煮汁が溢れる。

それと同時に閉じ込められていた香りが

部屋いっぱいに広がっていき、

すぐに鼻の奥まで届いてきた。


「お上手でございます。お嬢様。」


「ありがと。でも、これは私でも

切れるくらい煮込んでくれてるからよ。」


サーが私を褒めてくれるが、

これだけ柔らかく煮込んであれば

たとえシャルルでも失敗しないだろう。

現に、私が最初の一刀を入れた後は

シャルルが食べやすいように切り分けている。

それぞれの皿にれんこんが盛られて

その横に肉団子が添えられると、

ハロウィーンの定番料理の完成だ。

肉ではなくれんこんが主役というのが

特別感があって昔から好きだった。

そして、サーの毒見が済んでから

私はれんこんを口へ運ぶ。


「これ、今朝のスパイス?」


「はい。お嬢様のお口に合うようでしたので、

こちらが満を持しての自信作でございます。」


今朝にサーがトマトスープに使ったスパイスと

同じような香りが口の中に広がる。

柔らかく煮込まれたれんこんは

本来持っている甘みの中に

スパイスやハーブを包んでいた。

それが私好みのいい塩梅で、

とても満足のいく味に仕上がっている。

やはりサーの料理の腕前は

本家の屋敷にいる料理長にも引けを取らない。

次から次へとれんこんを口に運び、

シャルルにおかわりを頼む。

柔らかいパンより少しハードなものに乗せて

スープを染み込ませれば、

それだけでご馳走様である。


「これが、気持ちの味かしら……。」


そして、このれんこんを食べる際に

決して忘れてはいけないことがある。

それはこのれんこんが

ハロウィーンのための料理だということだ。

朝ご飯が終わったすぐ後に

サーから特別な紙とペンを渡されて、

私は様々な願いや想いを書いた。

普段言葉にできないことを紙に書き、

温かい料理と共に飲み込む。

どうしてこんなことが風習として

この国に根付いているのかといえば、

ハロウィーンにれんこんが用いられるのは

その穴に願いの紙を入れて煮たことが始まりで、

みんなで顔を合わせるなら日々の願いや愚痴を

お互いに吐き出そうと誰かが言った。

しかし、この国の人々は昔から

口下手な国民性を持っていたようで、

直接言葉にするのではなく

料理の中に隠すという習慣がついたらしい。

他の国でのハロウィーンというのは、

悪い空気や不幸を追い出すために

家の屋根に登ってみんなで歌を歌ったり、

子どもの成長を祈るために

抜けた歯を細かく砕いて風に撒くらしい。

広い世界を知っているロアンが

時間の空いている時に教えてくれた。

私もどちらかといえば

口下手に分類される人間なので、

気持ちを紙に書いて食べるという

この国の習慣には大いに助けられている。


「お嬢様はどのようなことを

お書きになったんですか?」


れんこんとパン、肉団子を一心に

食べ続けていると、シャルルが聞いてきた。

紙に書いた内容を聞くのは

暗黙の了解としてマナー違反なのだが、

そんなことは気にしていないらしい。

別に私としても書いた内容のいくつかは

話してあげてもいいのだが、

一つ話せば二つも三つも

話さなくてはならないような

空気になってしまいそうなのでやめておこう。


「色々よ。シャルルのこととか

シャルルのこととかシャルルのこととか。」


「わ、私のこと!?

一体何をお書きになったんですか!?」


「秘密よ。話すはずないじゃない。」


「あわわ…お嬢様……。」


今日はいつもより派手にお説教をしたので、

もしかしたら彼女の中で何か

思うことがあったのかもしれない。

しかし、シャルルのことを書いたのは事実だが、

悪態や愚痴を書いた訳ではない。

彼女の笑顔にはいつも助けられているし、

サーやロアンと共によくやってくれている。

確かに、改めて欲しいことがない訳ではないが、

そういったことも含めてシャルルという人間には

今のままの彼女でいて欲しいと思っている。

サーもロアンも同様だ。

彼らにも今のままでずっと一緒にいて欲しい。

…というような内容を書いた紙を

中が見えないように丸めてサーに渡しておいた。


「ほっほっほ。楽しいハロウィーンですな。」


そして、空気を変えるようにロアンが言った。

こうして周囲の空気を読んで

適切な言葉を発することができるのは、

この屋敷ではロアンしかいない。

しかし、それが大きな罠であることを

すぐに察することができたのは

私とサーの二人だけである。


「楽しくないですよぉ…。」


その罠に見事に引っかかるシャルル。

ならばその落とし穴の更に深い場所に

彼女を引きずり込むのは私の役目だ。


「あら、シャルルは私と過ごすハロウィーンは

楽しくないの?それは残念……。」


「お嬢様!?い、いえ違います!

私、お嬢様とご一緒なら地獄でも楽しいです!」


「まぁ、私は地獄に堕ちるの?

私、そんなに悪いことをしたかしら…。」


「ち、違います!今のは何といいますか!

ついうっかり口を滑らせてしまっただけです!」


「ついうっかり本音を滑らせてしまったの…?

つまり本当に私が地獄に堕ちると……?」


「お嬢様ー!違うんですー!」


「ほっほっほ。本当に楽しいですなぁ…。

サー君もそう思いませんか?」


「……えぇ。心から。」


笑顔の耐えない屋敷…とはいかないが、

こうして今年のハロウィーンも

無事に4人で迎えられている。

平和で、明るく、広い屋敷。

家族と離れ離れになっていたとしても、

今の私の人生は決して不幸ではない。

それを改めて認識することができた。


「サー!笑ってないで助けてくださいー!」


シャルルの元気な悲鳴が

雪の降り出した空まで響いていた。

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