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17.妖精とれんこん

「ねぇ、キミが作ったの?」


妖精からの問いかけにどう答えたらいいのか、

私には皆目見当もつかない。

しかし、黙っている訳にもいかない。

とりあえず正直に答えたらいいだろうか。


「うん、私が作ったよ。」


雪の鳥というのはおそらく、

屋敷の玄関前に飾られている

鳥の雪像のことだろう。

私の形をした雪像は雪で埋めておいたので、

飾られているのは鳥の雪像だけだ。

そしてそれを作ったのは私なので、

妖精の方を見ながら言った。

これが妖精の持つ魅力なのか、

なんとなく彼から目が離せない。


「ふーん。そーなんだ。」


彼の方から聞いてきた割には、

興味があるのかないのか分からない返事だ。

彼はキラキラと煌めく羽を動かして

風に舞う葉のようにゆらゆらと

部屋の中を飛んでいる。

人間の理解を超える存在とは、

みんな彼のように自由なのだろうか。


「ところで、キミはどうして泣いているの?」


「…え?」


自分の頬に触れてみると、

人の肌ではない温もりを感じた。

彼の言う通り、私は泣いていた。

どうやらサーたちを叱った時のことを

自分で思っていた以上に気にしていたらしい。

鏡で顔を確認してみても、

目が少し赤くなっている。


「……なんでもないよ。

ただ、自分が嫌になっただけだから。」


「ふーん。」


またこの反応なのか。

一体彼は何をしに来たのだろうか。

妖精が人前に堂々と姿を見せるなんて

今まで聞いたこともないのに、

私とこうして言葉を交わしている。

もし私が忌み子と知ったら、

一体どのような反応をするのだろう。


「それって、キミが魔力無しだから?」


「……っ!?」


心を読まれたのかと思った。

妖精ならそれくらいできても不思議はない。

しかし、私に魔力がないことを

どうやって知ったのか分からないが、

人が気にしていることに

何の前置きもなく触れてくるなんて、

やはり彼は人間ではないらしい。


「あの頃とは何もかもが違うから、

今の世界はキミにとってさぞ生き辛いだろうね。

でも、それが神の決めたことなら

キミは受け入れるしかないよ。」


一体、彼は何を知っているというのか。

あの頃とはいつを指しているのか。


「あなたは、何を知ってるの…?」


私は彼の思惑を知りたくて口を開いたが、

彼がそれに答えてくれることはなかった。

部屋の外から誰かの足音が聞こえると、

妖精は逃げるように消えてしまったのだ。

空で弾ける泡のように一瞬に、

部屋には私と足音だけが残される。


「お嬢様、夕食のご用意ができました。」


部屋の外から聞こえるサーの声。

不用意に扉を開けることのない彼が

来てくれて良かった。

今扉を開けて部屋に入られるのは

私にとっても妖精にとっても

いいことではないと思ったから。

ただ姿を消しているだけなのか

もうこの部屋にいないのか分からないが、

彼らのような存在は人間から

隠れるように暮らしているという。

魔力に敏感な者であれば、

部屋に残った妖精の煌めく鱗粉だけで

何かを察してしまうとも限らない。

それに、私の泣き腫らした瞳を

見られるのはとても恥ずかしい。


「…もう少ししたら下りるわ。」


「かしこまりました。

それではお待ちしております。」


泣き腫らしている上にお説教の後ということで

本当は食欲なんてほとんどないのだが、

なんといっても今日はハロウィーンだ。

年に一度の大切な日で、

サーの街に出かけた時に彼は

私の大好きなれんこんを用意すると言った。

こんな日を一人で過ごすなんてありえない。

家族と離れて暮らすようになっても、

彼らはずっと私のそばにいてくれたのだから。

遠ざかっていくサーの足音を聞いてから、

私は顔を洗うために部屋を出た。

少しの間は妖精が出てきてくれるかどうか

待っていたのだが、美しい羽をした彼は

再び現れてはくれなかった。


「お待ちしておりました。

さぁさぁ、こちらの席にお座り下さいませ。」


夕食の場所は食堂ではなく暖炉の部屋だ。

多くの家具が魔道具となっている今でも、

暖炉などの古代的な道具は失われていない。

むしろ、温かな空間を作るには

魔道具を使うよりも向いている。

時折パチリパチリと音をたてながら

焼けた木の香りを放つ暖炉は、

いつも屋敷の空気を温めてくれる。

あれだけ大きな声で泣いていたシャルルも、

この部屋に入れば笑顔が浮かんでいた。

私の沈んでいた心でさえ、

暖炉の火に温められているようだ。

妖精のことも今は忘れていようと思える。


「……いい匂い。」


ロアンに促されてイスに座ると、

サーが料理を運んできた。

こんな大きな皿をどこから持ってきたのだと

言わんばかりに丸テーブルの半分以上を

埋めている巨大な楕円形の皿からは、

冷めないように蓋をしているのに

既に鼻馴染みのあるいい匂いが漏れている。

香りだけでその蓋の中に

れんこんが眠っていると分かるが、

さすがに皿が大きすぎる。

一体、れんこんを使ったどんな料理を

今年は作ってくれたのだろうか。


「お嬢様、心のご用意はよろしいでしょうか。」


「うん、大丈夫。」


「それでは…どうぞご堪能あれ。」


サーが蓋に手をかける。

そしてそれを開けると、

真っ白な湯気と共に巨大なれんこんが

そこに鎮座しているのが見えた。

あまりの存在感を放つれんこんに

私は思わず声が漏れてしまう。

馬の顔よりも遥かに大きなれんこん。

それはまるで、木から切り出した丸太だ。

周りに散りばめてある葉や木の実は

れんこんの良さを最大限に引き出すための

ホンの少しの脇役に過ぎない。

丸太のように巨大なそのれんこんは、

煮るのにどれだけの労力を要したのだろうか。


「これは…すごいわね……。」


もはや言葉すら出てこない。

まさに圧巻の存在感である。

こんな物を用意されてしまっては、

今日の怒りなんてどうでもよくなるではないか。

いや、既にもうどうでもいい。

そもそも大して怒っていた訳でもないのだから。

あの時はサーたちが私の姿をした雪像を

作ったことに少しの寒気を覚えてしまっただけだ。

だから、今日のことはもういい。


「ではお嬢様、こちらを。

今年もよろしくお願い致します。」


サーが渡してきたのは包丁だ。

ノコギリのように長く、そして細い包丁。

これで私に何をさせようかというと、

答えは単純かつ至極当たり前のことだ。

私は両手でしっかりと包丁を持つと、

ゆっくりと巨大なれんこんに刃を落とす。

れんこんが動かないように

サーとシャルルが抑えてくれて、

私は包丁を握る手に力を入れた。

れんこんという野菜は硬く、

中まで熱を通したところで

簡単には柔らかくなってくれない。

しかし、私が包丁を入れたれんこんは

驚く程あっさりと刃を通してくれた。

ノコギリのように一生懸命力を入れなくても、

軽く押したり引いたりするだけで

一番下まで見事に切ることができた。

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