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16.雪像とお説教

「ふう…食べた食べた。」


サーが作ってくれた昼ご飯を食べてから、

ようやく雪像を披露する時間となった。

と言っても、すでに私の作品は

みんなの前に晒されているので、

まずはその感想をもらう時間だ。


「ほおぉ…美しくも力強いこの翼と目……。

まるで本当に生きているかのようですな。

素晴らしい雪像でございます。」


様々な角度から観察しながら、

ロアンが感嘆の声をあげる。

私自身でも驚くような出来ではあるが、

ロアンは王に仕えていた過去があり、

それなりに芸術にも精通していたらしい。

おじい様に拾われた後は

主に屋敷の芸術品を管理しており、

鑑定眼はおじい様の折り紙付きだ。

そのロアンから褒めてもらえるなんて、

まさか本当に才能を開花させてしまったのか。


「さすがお嬢様!

でも、私たちも負けてませんよ!

サー!見せてあげてください!

これが私たちの愛の力です!」


私の作品の鑑賞もほどほどに、

シャルルが威勢よく胸を張る。

彼女の隣りに立っているサーも

それなりに自身があるようで、

覆っていた布を勢いよく剥いだ。


「こ、これは……!」


凛々しい顔つきの中にある確かな幼さ。

世界を見据える真っ直ぐな目と

生きるべき方向を指す右手。

翻したスカートのなびく様子は

荒れた海のようにうねっており、

立ちはだかる様子はまるで神話の一節。

そのあまりに完成された姿を見た瞬間、

私は息を飲んでしまった。

しかし、そこに立っている少女の

顔をよくよく見てみると、

その顔に私は見覚えがあった。


「どうですかお嬢様!

これぞ私たちの愛そのもの!お嬢様雪像です!」


「……。」


言葉が出てこなかった。

言葉が出ない程嬉しいとか感動したとか、

そういう意味では決してない。

これがシャルル一人だけの暴走なら

理解することもできたのに、

この雪像はサーも一緒に作っていたはずだ。

なのにどうしてこんなことになったのか。

そしてなぜシャルルもサーも

やり切ったような表情をしているのか。

普段ほとんど表情の変わらないサーまで

珍しく自信に満ちている。

しかし、ここを下手に掘り下げると

もっと酷いことになるかもしれないので、

私は何も言わず、考えることさえ放棄した。


「…ロアン、どっちの雪像がいい?」


ロアンに振ったのは逃げではない。

元々ロアンに決めてもらう約束だった。

ロアンが軍配を上げた方が勝者で、

勝者に送られる賞品は……栄誉だ。


「これは難しい選択ですな…。

お嬢様の雪像にも負けじ劣らず、

サー君とシャルル君の雪像は

お嬢様の生き様を描いたような

素晴らしい格好をしております。」


もはや勝者がどっちだとか

そんなこともどうでもいい。

別に私の像を作ってくれたこと自体が

嬉しくない訳ではないのだ。

自分のことを大切にしてくれて

嬉しくない人などいないだろう。

ただ私は、重い、と思ってしまった。

私への忠誠心や愛情を表現するなら

もっと他の形にして欲しいと思った。

私のことを想って作ってくれた二人に

申し訳ない気持ちも抱きながら、

私は心が小さいだろうかと自問した。


「コホン、では私の独断ではございますが、

今回の雪像対決は展覧館での評価も

高いと思われる美しい鳥を作られた

お嬢様の勝利と致します。」


勝負の結果は私の勝ちのようで、

私はほっと胸を撫で下ろした。

もしもサーとシャルルが勝っていたら、

勝者の権利みたいなもので

主にシャルルから何を要求されたか分からない。

展覧館での展示を想定してくれたロアンには

後でこっそりと褒美を与えよう。


「負けてしまいましたか…。残念です。」


「…悔しいですが、お嬢様の魅力を

再現することができなかった私たちの負けです。」


落胆するサーとシャルル。

サーの悔しそうな表情など初めて見るが、

彼の目は決して光を失っていない。

ここまで精巧に私のことを模しておきながら、

まさか別の機会にこれよりもっと完全に

私を再現するつもりではないだろうか。

もしそんなことをするつもりだとしたら、

その時は全力で止めさせてもらおう。


「それでは、せっかく作った物を

壊してしまうのはもったいないですから、

玄関の前に飾っておくのはいかがでしょうかな。」


そしてもうこの話は終わりだと

撤収するつもりだったのだが、

ロアンがそんなことを言い出した。

飾るというのはもしかしなくとも、

二人が作った私の雪像と

私が作った鳥の雪像のことを言っているのだろうか。

鳥の雪像はともかく、私の見た目をした物を

玄関先に置いておくなんて、

恥ずかしい以外の何の感情を抱けというのか。

当然許可するはずがない。


「いいですね!そうしましょう!」


しかし、私の気持ちとは裏腹に

なぜシャルルはこんなにも乗り気なのか。

サーもいつの間にか雪像を飾るための

土台を雪で作り始めているし、

まさか彼も乗り気だというのか。

しかしそれでも私はそれを許さない。

ここが人の気配なんてない森の奥の屋敷で

わざわざ見に来る人間がいないとしても、

自分の雪像を飾るなんて出来ない。

ただの運動のつもりで外へ出たのに、

どうしてこんなことになってしまったのか。


「絶対にやめて。」


私の気持ちを置いて話を進める彼らに

どうしようもない怒りを感じた私は、

みんなで暖炉の部屋に戻り、

3人を冷たい床に座らせて

とても長いお説教の時間にした。


――――――――――――――――――――――


せっかくのハロウィーンだというのに、

屋敷の空気は少し重い。

普段から色々と怒られているシャルルはともかく、

サーとロアンにまでお説教をしたのは

ここに引越して以来初めてのことだった。

本家の屋敷から追い出された当初は

世界や自分自身のことが憎くて

身の周りにある物全てに

怒りと悲しみの矛先を向けていたが、

それはあくまでも私自身の問題であり、

サーやロアンたちに非などなかった。

しかし、今回は違う。

主である私の機嫌を損ねたのは

先程の彼らの行いが原因だ。

少し理不尽な気がしなくもないが、

私の機嫌を取ることも含めて彼らの義務であり、

それこそが主と従者という関係である。


「はぁ……。」


私は逃げるように部屋の扉を閉めて

一人ベッドの上で膝を抱えながら、

遠くから響くシャルルの泣き声を聞いていた。

私だって別に怒りたくて怒った訳ではない。

彼らは普通の従者以上に私のことや

屋敷のことを気にかけてくれているし、

私も彼らのことを大切に思っている。

なのにどうしてすれ違ってしまったのか。

私はただひたすらにこの現実から

目を背けるしかできなかった。


「ねぇ、あの雪の鳥さんはキミが作ったの?」


「……っ!?」


不意に耳元で聞こえた声。

それは聞き馴染みなどないはずなのに

妙に心に届いてくるような声だった。

声のした方に視線をやると、

私の瞳がその存在を捉える。

そして、私は言葉に詰まった。

彼、いや彼女かもしれないその存在は

私の手のひらくらいの全長しかなく、

煌めく白銀色の羽が生えている。

人間とは一線を画す美しいその姿は、

いつか本で読んだことがあった。

数千年の歴史を持つこの世界には

人間以外にも言葉を話す種族がいて、

かつて人間が起こした世界戦争を

偉大な力と高い知性で鎮めてくれたという。

過去の遺物であり、生きる伝説。

その内の種族の一つが、

今私の目の前にいる妖精である。

小さな体に膨大な魔力を秘めており、

時折人間にイタズラをして遊んでは

食べ物を盗んでいく。

しかし、妖精が住んでいる家には

不幸が訪れないと言われ、

もし彼らの姿を見かけても

何もしないという暗黙のマナーがある。

ただし、彼らの方から話しかけてきた時に

どうしたらいいのかを私は知らない。

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