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15.運動と雪

食べ過ぎてしまったのなら、

その分体を動かせばいいだけだ。

魔法を使うことができる者でも、

体の中で脂肪に変わるエネルギーと

魔力として変換できるエネルギーは違う。

だから効率よく体の肉を落とすには

肉体を直接動かすのが最も効果的だ。

……と本に書いてあった。


「という訳で、雪だるまを作りましょう。」


外の気温は比較的過ごしやすいが、

雪が溶けてしまうような温度ではない。

昨日降った雪はほとんど残っているので、

雪だるまを作るには十分だ。

特に裏庭には誰も足を踏み入れていないため、

足跡一つない白の絨毯が広がっている。


「わーい!雪だるま!

私、下の大きい方作りたいです!」


どうやら体力の有り余っているシャルルは、

積もった雪の上で子どものようにはしゃいでいる。

腰や膝を痛めてはいけないので、

ロアンだけは温かいお茶を用意して

裏庭の屋根付きテーブルに待機させた。


「それなら私は頭を作るわね。

サー、手伝ってくれる?」


「承知致しました。」


雪だるまの作り方は単純で、

まず最初に雪を集めて手のひらくらいの

大きさの雪玉を作ったら、

それを雪の絨毯の上でコロコロと転がす。

たったこれだけだ。

しかし、上手く転がさないと

雪玉の形が綺麗な球体にならず、

かわいい雪だるまにならない。

全体の形が均等になるように気をつけながら

転がしていくと、次第に雪玉が大きくなる。


「とりゃぁぁぁぁぁぁ!」


威勢のいい声をあげながら

走っているシャルルの方を見ると、

すでに私の背丈と同じくらいの

大きな雪玉を転がしていた。

しかし、それ以上大きくされると

上に乗せるのが大変になってしまう。


「ちょっとシャルル。

あまり大きいと上に乗せられないわ。」


「分かっていますよお嬢様!

とびきり大きな雪だるまにしましょう!」


私の言葉を理解していないのか、

シャルルの足が止まる気配がない。

眺めている間にもシャルルの雪玉は

どんどん大きくなっていく。

このままでは、裏庭の雪が全て彼女の

雪玉に吸収されてしまう。

止めさせようとも思ったが、

今の目的は体を動かすことだ。

後のことは考えないようにして、

全力で大きな雪だるまを作ってやろうではないか。

それに、たまには子どものように

無邪気にはしゃぐのもいいだろう。


「サー、私たちも本気を出すわよ!」


「お嬢様の仰せのままに。」


私一人の力ではシャルルに

追いつくことはできないだろうが、

サーと一緒ならどうにかなる。

シャルルに負けないように

私も全力で雪玉を転がした。

そして、その結果どうなったかというと、

裏庭の雪をほとんど使い果たして

屋敷の表の庭まで移動した果てに

玄関の扉より大きな二つの雪玉ができた。


「ちょっとやりすぎたわね……。」


「も、申し訳ありません!

私が後先考えずに作ったせいで

こんなことになってしまって……!」


「いいのよ。私も張り切っちゃったし。

それよりこれをどうするか考えましょう。」


私の額には少しの汗が浮かんだ。

普段運動はほとんどしないのだが、

たまにはこうして体を動かすのも悪くない。

サーが差し出してくれたタオルで汗を拭き、

ロアンが淹れてくれたお茶を飲みながら

目の前に立ちはだかる巨大な雪の塊を見る。

上に乗せようにも、この大きさでは

持ち上げるのはとても難しいだろうし、

もしバランスが崩れてしまったら

雪の下敷きになるかもしれない。


「うーん…、上には乗せられないけど、

雪だるまは作りたいのよね……。」


「お嬢様、それでしたら大きな雪だるまではなく、

少しずつ削って二つの雪像を

作ってみてはいかがでしょうか。」


大きな一つではなく、小さな二つ。

確かにいい案かもしれない。

それなら今までの頑張りを無駄にすることなく

好きな物を作ることができる。

しかも塊から削って作るなら、

単純に雪玉を重ねるよりも

複雑な形にすることができる。

雪だるまにはならないが、

そういえば私は別に雪だるまが

好きで作りたいと言い出した訳ではないのだ。


「いいわね。そうしましょう。

サー、道具を持ってきてちょうだい。」


「すぐにお持ち致します。」


サーが道具を取りに行っている間に

どのような形に切り出すか考える。

簡単でかわいい丸い雪だるまにするか、

あるいは大胆に攻めて動物にするか。

今、私の美学的センスが問われている。


「お持ち致しました。」


サーが道具を持ってきてくれたので、

いよいよ雪玉に刃を入れて削っていく。

しかし、普通にやっても面白味に欠けるので、

私は一つ提案することにした。


「ありがとう。それじゃ、私は一人でやるから

そっちはサーとシャルルの二人ね。

作り終わったらロアンに見てもらって、

ロアンが気に入った方の勝ちね。」


「分かりました!お嬢様が相手でも

私は手加減なんてしませんよ!」


思えば、私の美学的センスを披露することも

サーやシャルルのセンスを見ることも

今までに一度もなかった。

もしかしたら、思いもよらないセンスが

開花してしまうかもしれない。

そう思うと気分も上がってくる。


「…よし。」


用意された道具はスコップやナイフ、

枝を切るためのカッターなど様々だ。

しかし、ほとんどの道具は私は使ったことがない。

子どもの頃に砂遊びで使ったスコップくらいだ。

ならばここは無理をせず、

いくらか経験のあるスコップ一本で勝負しよう。

そして、作るのは鳥だ。

ここよりもずっと南の地域にいるという

美しい鳥を前に本で見たことがある。

それを雪像で再現するのだ。

まずは大胆に削って全体の形を決め、

少しずつ全容を形作っていく。

首や頭などの細い部分や

羽一枚一枚に特に気を使いながら、

一匹の鳥をここに具現化させる。


「できた……!」


完成した作品を見て、自分でも驚いた。

雪の上で翼を広げている真っ白な雪の鳥。

雪で作っているので所々が透けており

それが僅かな儚さを演出しているが、

確かな存在感のある立体的な羽と

力強さのある目のおかげで

本物の生き物のように感じられる。

そのあまりの美しい姿に

作った本人である私が心を奪われてしまい、

まるで、展覧館に展示してある

プロが作った作品のようだ。


「あれ…?みんなどこ……?」


一秒でも早くこの鳥をみんなに

見てもらおうと思ったのだが、

周りを見ると庭には私しかいなかった。

隣りにいたはずのサーやシャルルも

いつの間にかいなくなっており、

二人が作っていた雪像には布がかけられている。

一体なぜ私だけ取り残されているのか

不安に駆られ始めた時、

屋敷の玄関からシャルルが出てきた。


「あっ!お嬢様!完成したんですか?」


「うん、今できたところ。」


「ではみんなを呼びますね!

サー!ロアン爺!来てくださーい!」


シャルルが大きな声で屋敷へと呼びかけると、

すぐにサーとロアンが銀の蓋をしたお皿を

いくつか持ってやってきた。

それを見た瞬間に私のお腹が鳴り、

私はお腹が空いたことも忘れて

雪像を作っていたのだと理解した。

気がついた時に彼らがいなかったのは、

私が集中できるようにしてくれたのだろう。

いなくなったことに気がつかない程に

集中していたなんて、私には魔法の訓練よりも

何かを作る方が向いているらしい。

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