13.反抗と願い
初めて彼らと出会ったのは、
私に物心がついた頃だった。
お城みたいに広い屋敷の庭へ出ると、
いつも二人が私のそばにいてくれた。
私たちを囲むようにして
たくさんの執事やメイドもいたが、
幼い子どもの視界には入らない。
三人の世界の中に私はいた。
「今日ねっ、砂のお家を作るの!」
私が貴族の次女であり、
二人が古くからこの家に
仕えてきた家の子どもというのもあって、
歳の近い人間をそばに置いて
私の成長を促そうとしていたのだろう。
二人は気がつくとそこにいた。
しかし、屋敷にいる大人たちは
いつも睨むような視線で
二人のことを見ていたので、
幼い頃の私は少しの恐怖を感じていた。
二人と血の繋がっている両親でさえ、
時々二人のことを無視する程だ。
それがどうしてなのかは
私がもう少し大きくなってから知ることになるが、
その理由を知った瞬間の私は、
目の前が真っ赤に見えるくらいに
激しく動揺したのを覚えている。
だって、私と遊んでくれる彼らは
いつもとても優しかったから。
私が彼らを嫌う理由なんてなかった。
ただ双子だというだけで
殺されなければいけないなんて、
そんなの許せるはずがない。
自分で言うのも烏滸がましいことだが、
私は子どもの頃から素直でいい子だった。
明るく元気で愛想もあって、
教えられたことは何でも覚えた。
貴族として当然のことだと
色々なことを教育として叩き込まれたが、
何一つとして反抗したりしなかった。
……しかし、あの日あの時だけは
どうしても全ての大人に
正面から立ち向かわなくてはならなかった。
「サーもシャルルも、いなくなったら嫌!」
それは私が5歳で、
二人が7歳を迎えた日であった。
双子として産まれた子どもは、
7歳を迎えた時に出来の悪い方を
殺さなくては呪われてしまう。
そんな古臭い言い伝えのせいで
どちらかが殺されてしまうなんて、
当時の私には耐えられなかった。
サーからは上品な言葉遣いや
ご飯の食べ方を教わっていたし、
シャルルからは女の子らしくも品のある
所作や仕草を教わっていた。
二人とも私にとって大切な友達であり、
そばにいてくれるべき存在だった。
「お嬢様…これもお嬢様のためなのです。
どちらかを殺さなければ、
お母様やお父様にもご迷惑がかかるのです。
ですからどうか、そこを退いてください。」
「嫌!嫌ったら嫌!」
もちろん、最初から忌み子のことを
理解できていた訳ではない。
忌み子という言葉の意味さえも
5歳の頭では到底理解できないことだ。
ただ、その時の私には
後ろにいる二人を大人たちに渡してしまうと、
もう二度と彼らに会えないと思った。
泣きそうにしていた二人の目を見て、
私は大人たちに何を言われようと
そこを退かないと決意した。
そして幸いだったのは、
私が貴族の娘だったことだ。
私のわがままを聞くことは
屋敷にいる大人たちにとっては義務であり、
私の機嫌を損ねることは
死罪はなくとも追放を意味する。
だから誰も私に強く逆らうことができず、
果てしないまでに困り果てていた。
「では、代わりの者を用意致します。
そうすればその二人がいなくても平気でしょう。」
「嫌だもん!サーとシャルルがいいもん!」
後にも先にも、私があれだけ強情を
貫き通したことはなかった。
しかし、私がどれだけ牙を剥いても
所詮は小さな子どもの反抗だ。
おじい様やお母様が直接出てきたら、
その命令によって執事たちは
私から二人を取り上げるだろう。
実際、ついに痺れを切らした執事は
屋敷で二番目に地位の高いお母様を
呼びつけてしまった。
あの時のお母様の困った表情は
今でも私の脳裏に焼きついているが、
親の顔が何色に染まっていようと
私に退く選択肢などなかった。
「…あなたたちは下がりなさい。」
様々に考えを巡らせた後で、
お母様は静かにそう言った。
その場にいた執事やメイドたちは
互いに顔を見合わせていたが、
余計な口を挟むことはせずに
頭を下げて去っていった。
睨むような視線の大人がいなくなって
一息つきたいところだったが、
目の前にいるのはお母様だ。
私はお母様の言葉にどう答えるかで
二人の運命が決まると直感した。
「どうしても、その子たちがいいの?」
「…うん。」
「呪われるかもしれないのよ?」
「いいもん。オバケなんて私が追い払うもん。」
「そう……。」
呪いというのは幽霊の類いではないのだが、
幼い頃の感覚では似たような物だった。
それに、たとえ何が相手であっても
当時の私は同じことを言っただろう。
根拠なんてものは何もない。
ただ、絶対に逆らってはいけないお母様に
正面から立ち向かってでも
守らなければならないものがあっただけだ。
しかし、これはお母様にとっても
悩ましい決断だったと思う。
サーとシャルルが双子だということ以外に、
娘である私に魔法の才能の片鱗が
全く見えていなかったのだから。
姉のリーゼは当時8歳にして
屋敷にいる大人を魔法で圧倒していたし、
妹のルヴィアに至っては産まれた日に
赤ちゃん用のベッドを破壊していたらしい。
姉妹が圧倒的な才能を開花させているのに、
私には未だ何の魔法も発揮できていない。
下手をすればサーとシャルルより前に
私を殺すことになっていたかもしれない。
というよりも、双子を生かし続けていることが
私の不幸の原因ではないかと
思ってもおかしくなかった。
だからこそ二人のどちらかを殺すべきだと
執事たちも言っていたのだが、
お母様ははっきりと決断した。
「……いいわ。二人のことはあなたに任せる。
その二人には今日からあなたの
専属従者になってもらうから、
あなたの好きなようにしなさい。」
あまりに予想外の言葉に
私は理解が追いつかなかった。
いや、今になって思い返してみても、
なぜこの時お母様が二人のことを
私に預ける気になったのか分からない。
ただ、当時の私からしてみれば、
この先もずっと二人と一緒に
いられることだけは分かった。
「サートラント、シャーレール。
今夜私の部屋に来なさい。」
おじい様が何と言うかは分からないが、
少なくともお母様からの許しは降りた。
そのことがただただ嬉しく、
私は二人を強く抱きしめていた。
「はい、承知致しました。」
「シャルルも承知しました!」
部屋に二人を呼びつけたのは
色々と言うことがあったのだろう。
その夜にお母様に何を言われたのかは、
聞かない方がいいと思ったので
特に言及することはなかった。
そして、背中を向けて去っていくお母様に
私は大きな声で言った。
お母様、ありがとう、と。
しかし、これからもずっと一緒に
いられると思ったのも束の間。
専属従者になるにあたって
相応しい力を身に付けさせるために
訓練する必要があると、
私と二人が会える日は極端に減ってしまった。
二人との時間を過ごせるようになったのは
それから実に7年が過ぎた頃で、
魔法の才能をいつまで経っても見せない私が
12歳の誕生日を迎えた日に、
本家の屋敷から離れた森の屋敷に移されたのだ。
お目付け役のロアンとサー、シャルル。
4人での生活が始まって
もうすでに2年の時が流れているが、
今もまだ私は魔力に目覚めていない。
「お嬢様、朝でございますよ。」
そして今日も、朝はシャルルに起こされる。




