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12.禁忌魔法と賢者

空間魔法。空間を切り取ったり、

切り取った空間を別の場所へ

瞬間的に移動させることができる魔法だ。

ロアンが持ってきてくれた絵本の中に入って

凶暴化したウサギから逃げる際に

シャルルが使ったのはこの魔法であった。

そして、シャルルと対比するような

魔法を持っているのがサーだ。

それは時間魔法であり、世界の時間を止めたり、

一部の時間だけを加速させたり、

あるいは時間を巻き戻したりできる。

時間と空間に干渉する魔法を

サーとシャルルは持っているのだが、

この二つの魔法はどちらも

禁忌魔法として恐れられている。

魔法のことが書かれている本や教科書には

禁忌魔法には手を出してはいけないと

強調して書かれているのだが、

それはそれらの魔法がこの世界の

理に大きく反しているからだ。

そもそも魔法というのは、

体内にある魔力を炎や水といった

別の物に変換する力のことであり、

他の何かに干渉することを

基本的には前提としていない。

だから、空間や時間といった

物ですらない概念に干渉することは、

魔法としての理に反しているのだ。

サーとシャルルが双子の忌み子だからなのか、

それとも何か別の因果でもあるのか。

どちらにしても、二人の魔法は

私の存在と同等に隠すべきものなのである。


「どうしようか……。」


大雪が降る中でルヴィアを無事に帰すには、

シャルルの空間魔法しかない。

私を絵本の中から出してくれたように、

ルヴィアの周囲の空間ごと切り取って

本家の屋敷に移動させてしまえばいいのだ。

しかし、シャルルの魔法が公になれば

シャルルも私もルヴィアもお母様だって

危険な目に遭うかもしれない。

それだけは避けなければならない。

禁忌魔法というのはそれほどまでに

世界から嫌われているのだから。

ただ、今考えるべきなのは

どうやってルヴィアを無事に

本家の屋敷に帰すかということだ。

シャルルの魔法を使えば簡単で確実。

しかし、それは披露してはならない。

そうやって行き詰まっていると、

突然屋敷の玄関の扉が勢いよく開かれて

聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ルヴィアー!迎えに来たわよー!」


玄関は一階でこの部屋は二階だ。

いくら声がよく通ると言っても、

その声は耳元で叫んでいるような

強い圧力に満ちている。

あまりに型破りな声量をしている人間を

私にはたった一人心当たりがあるのだが、

慌てて部屋を出て一階へ下りると、

そこにはやはり、私の姉の姿があった。


「リーゼ姉さん……!?どうしてここに…!?」


何色にも染まっていない純白の髪をなびかせ、

藤色の瞳は世界を見据えている。

自らの自信を体現するように

仁王立ちをしているその佇まいは、

もはやすでに一族を率いている女主だ。

控えめさを演出するように

黒のドレスをまとっているが、

その漆黒さえ彼女の前では霞んでいる。

そして、何の知らせもなしに

いきなり屋敷にやってくるなんて、

一体全体どうなっているのだろうか。


「り、リーゼ姉様……?

今日はルインレッド家の方々と

お食事会をしているはずでは…?」


そして私以上に驚きを隠せないのは、

今日のリーゼの予定を知っているルヴィアだ。

今朝にはこの屋敷に来るために

本家から抜け出そうとしていたようだが、

それが上手くいかなかったということは、

それだけ大事な用事だったのだろう。

ルインレッド家といえば、

先日私とサーが出かけた街は

そのルインレッド家の領内にある。

街を一つ統括しているだけあって、

それなりというか、貴族の中でも

かなり上澄みの貴族である。


「えへへ…抜けてきちゃった!」


そのルインレッド家との食事会から

抜け出してしまうなんて、

お母様から大目玉を喰らうどころの話ではない。

下手をすれば一ヶ月の間、

お菓子を食べさせてもらえないかもしれない。

甘いお菓子が大好きなリーゼからすれば、

その罰はあまりに重いもののはずだ。

しかし、当の本人はというと、

まるで罪の意識がないのか、

屈託のない子どものような笑顔を浮かべている。

……そうか、あれが本当の笑顔か。

いやいや、そんなことは今はいい。


「抜けてきたって……。

お母様には止められなかったのですか…?」


「もちろん止められたよ?

大事なお食事会なんだから

ちゃんと最後までいるようにって。

でも、外見たらすごい雪で、

もしかしたら雪のせいでルヴィアが

帰って来られないんじゃないかって思ったら

ご飯のおかわりなんてできないじゃない?

それで、アーゼンさんに私のかわいい妹が

雪のせいで泣いているかもしれないから

行かせて欲しいってお願いしてみたら、

笑って許してくれたの!」


「それは許したというより、

単に断れなかっただけでしょう……。」


話を聞いているだけで頭痛がするようだ。

リーゼからの頼みを断るなんて、

たとえ一国の王であっても不可能だろう。

何を隠そう、リーゼは大陸の中でも

特に優れた人間に与えられる

賢者の称号を持っているのだから。

17歳にして『絶凍の白雪姫』という

あまりに冷たい二つ名を冠しており、

麗しい美貌も相まってその知名度は

大陸の外にまで届いている。

現在、賢者の称号を持っているのは

リーゼを含めても12人しかいないが、

成人にも満たない若さで賢者に至った人物は

歴史上でも数える程しかいない。

そんなリーゼに頼まれてしまったら、

断れるのは彼女と同じ賢者くらいだろう。

お母様も苦労しているはずだ。


「リーゼ姉さん、本当に良かったの?

大事な食事会だったんでしょ?」


私は恐る恐る聞いてみる。

リーゼは大陸全土で注目されていて、

一方の私は魔力のない忌み子。

大切に思われているとは言え、

貴族としての役割を放り出して

こんなところに来たと知れれば、

彼女の評判に傷がつくかもしれないのだ。

もしそのせいで賢者の称号を

剥奪でもされてしまったら、

私は私を許すことができなくなる。

しかし、私の不安が顔に出ていたのか、

リーゼは私を優しく抱きしめてくれた。


「大丈夫、大切な妹のためだもん。

世界中を敵に回したってへっちゃらよ。」


リーゼの強さは魔法の実力だけではない。

彼女から語られる言葉は

全て彼女の心からの本音で、

そしてそれを決して曲げないのだ。

確かな意志と芯の強さ。

それが彼女を賢者にまで成長させた。

こんな姉を持つことができて、

自慢ではないはずがない。


「さてと、本当はもっと色々話したいけど、

明日の会議は遅れる訳にも

途中で抜け出す訳にもいかないから、

今日のところは帰るわね。」


「会議?」


「ほら、私って賢者でしょ?

もうしばらくしたら大陸の賢者が集まって

大きなお祭りを開くことになってるの。

明日はその準備のための会議。

色んな催しをやるみたいだから、

時間があったら来てみるといいわ。」


数年に一度、大陸の賢者たちが

同じ場所に集められて新たな魔法の披露や

魔法の研究発表が行われる大賢者祭。

私も存在自体は知っていたが、

魔法に関することはいつも敬遠していたので

今まで見に行ったことはなかった。

しかし、そこにリーゼが参加するのなら、

姉の晴れ舞台を見るために

行ってみるのもいいかもしれない。

明日はハロウィーンだというのに

家族の団欒より優先すべき会議とは、

世界の偉い人は行事よりもお祭りらしい。

さすがのリーゼも、同じ賢者たちが

集まるような会議であれば、

家族のために抜けることはしないようだ。


「じゃあまたね。ルヴィア、帰るわよ。」


「ルヴィア、リーゼ姉さん。

おやすみなさい。また来てね。」


「はい、おやすみなさいお姉様。」


二人の背中を見送ると、

ロアンとサーが玄関の扉を開ける。

まだ大雪の降りしきる中で

どうやって帰るのかと

少しの不安を抱いたが、

それは全くの杞憂に終わった。

何もない場所に現れたのは、

リーゼが魔法で作った氷の馬車だった。

車輪は滑らないようにトゲのような

形になっており、引っ張る馬の足も

蹄ではなく尖った爪になっている。

魔法で作っているがこそだ。

この馬車なら雪の上でも平気だろう。

そして、その速度も普通の馬車とは

比べ物にならない程の速さだった。

あっという間に見えなくなった馬車を

しばらくの間見つめながら、

私は白い息を雪の中に混ぜていた。

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