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11.妹と姉

「今年は積もるのが早いわね。」


ハロウィーンを明日に控えた日、

屋敷の外には雪が積もっていた。

一面に広がる純白の庭を前にすると、

心まで白く染まっていくようだ。

例年通りでは雪が積もるのは

ハロウィーンが過ぎてからなのだが、

どうやら今年は冷え込むのが早いらしい。

雪の絨毯はまだ浅いが、

冬の寒さを感じるには十分だった。


「うぅぅ……何も残らなくて良かったですぅ…。」


私はシャルルとサーの三人で

屋敷の前の雪かきをやっていた。

シャルルの努力の結果なのか、

それとも彼女の運が良かったからなのか、

例の服にはシミも汚れも残らなかったのだ。

なので、シャルルが春まで毎日外の

雪かきをする話はなくなったが、

罰関係なく雪かきは必要なことだ。

誰も外に出たがらないというだけで、

どうしても外に出る用事や

会いたい人はいるものなのだから。


「このくらいで十分かな。

二人とも、中でお茶にしましょう。」


馬車が入っても大丈夫なように

道を確保したら雪かきは終わり。

あとはもうすぐ来るであろう客人を

ゆっくりと待つだけだ。

ロアンが淹れてくれた温かいお茶を

静かに飲みながら、

私たちはその客人を待った。


「お嬢様、お客様がお越しになりました。」


しばらく待っていると、

サーが来客に気づいて教えてくれる。

私はすぐに部屋から飛び出して、

玄関の扉が開けられるその時を

今か今かと待ちわびた。

そして、外からの冷たい風と共に

真っ赤なドレスのお姫様が姿を見せる。


「お久しぶりです。お姉様。」


護衛も無しに現れた私の妹は、

外に積もった雪を被ったかのように

真っ白な髪を長く伸ばし、

自身の左眼を隠している。

去年会った時は長さが足りずに

瞳を隠し切れていなかったが、

この一年で伸ばしたらしい。

隠れていない右眼は紫色のアジサイのようで、

野生の獣を彷彿とさせるツリ目をしている。

前髪を伸ばしているのは、

その目つきの悪さを誤魔化すためだ。


「久しぶりね、ルヴィア。

雪が降ってて寒い中来てくれてありがとう。

お母様やリーゼ姉さんは元気?」


私の愛すべき妹、ルヴィア。

私とは三つ違いの11歳で、

去年くらいから自分の目つきの悪さに

コンプレックスを抱いている女の子だ。

おじい様の訃報を知らせるために

リーゼ姉さんと共に来てくれた時に、

その悩みを姉妹の前だからと打ち明けてくれた。

私たち姉妹は基本的にはお母様の

容姿を受け継いでいるのだが、

ルヴィアの目つきだけは

お父様に似てしまったようだ。

だからなおさら、彼女は自分の

目つきを好きになることができない。

そして、鋭い眼光とは裏腹に

ルヴィアは臆病で繊細な心の持ち主だ。

慣れていない人の前では

緊張して上手く話すことができず、

自分の胸の内を隠してしまうことも多い。

それでも私と姉の前では

頑張って話をしてくれるので、

とても可愛がっている。


「はい。とても元気です。

特にリーゼ姉様なんて、

今朝はここへ来るためにお屋敷を

抜け出そうとしていたくらいでした。」


「ふふ、姉さんらしいわね。」


私たち三姉妹の長女、リゼルヴァ。

成人を来年に控えた17歳で、

次に本家を継ぐ者の最有力候補だ。

自信家で、凛然とした振る舞いに

魔法の才能も特出しているばかりか、

その美貌はすでに屋敷の外へ飛び出して

王都にまで轟いていると聞く。

私たちの自慢の姉だ。

だからこそ、私のような出来損ないが

彼女の妹であることが

彼女にとって最大の足枷になっている。

リーゼは私のことを足枷だなんて

微塵も思っていないだろうが、

屋敷にいる全ての人間のために

私という存在は隠され続けているのだ。


「外は寒かったでしょう。

すぐに温かいお茶を用意させるわ。」


今年は例年よりも冷え込むのが早い。

馬車でやってきたとはいえ、

それなりに寒い思いをしたはずだ。

ルヴィアの手を引いて暖炉の火が

燃えている部屋までやってくると、

ロアンたちが迎えてくれる。


「久方ぶりでございます。ルヴィアお嬢様。

お元気そうでなによりでございます。」


「ロアン爺、お久しぶりです。

サーとシャルルも元気そうで安心しました。」


「お気にかけて頂きありがとうございます。」


「私も会いたかったですよ、ルヴィアお嬢様!」


去年と一昨年のハロウィーンの前日に2回と

おじい様の訃報を知らせるための1回で、

ルヴィアがこの屋敷に来るのは

今回で4回目になる。

過去の3回はいずれも姉の

リーゼと共に来ていたのだが、

成人を控えている姉はお見合いやら

貴族への顔見せやらで忙しいようで、

私に会えなくて寂しいという文言の手紙を

ルヴィアから受け取った。

魔力がないからと多くの人間から

迫害されている私であるが、

二人の姉妹とお母様だけは今でも

私のことを大切に思ってくれている。

ハロウィーンの前日には

わざわざ来てくれる上に、

私たちが生活するためのお金だって

毎月かなりの金額が送られてくるのだ。

そして、リーゼの手紙の一番最後に

書かれていたお母様の文字は

相も変わらず綺麗なままだった。


「さぁ、こっちに座って。

色んなお話を聞かせてちょうだい。」


ルヴィアとロアンは私がまだ本家の

屋敷にいる時からの顔見知りだが、

ルヴィアがサーとシャルルに会ったのは

こっちの屋敷に移ってからのことだ。

最初はもちろんルヴィアが緊張してしまって

ほとんど会話ができなかったが、

今では本調子とまではいかないものの、

ルヴィアが隠れずに話ができる

数少ない知り合いになった。


「姉さんって理想が高いから、

お見合いは大変でしょう。」


「はい。おかげでお母様は毎日

たくさんの紙を睨んでいるので、

コーヒーの減りが早くて大変だと

メイド長が悲鳴をあげています。」


それから私たちはルヴィアからリーゼや

お母様の話を聞いたりして会話に花を咲かせた。

本家では近頃、リーゼのお見合い相手が

毎日のように訪れているのだが、

貴族の後継ぎとして自分にも他人にも

厳しい人間に育っている彼女は

次から次へと追い返しているらしい。

彼女が甘い顔を見せるのは、

もう姉妹の間だけになってしまったのだろうか。


「私からのお話は以上です。

お姉様は近頃はどうお過ごしですか?」


ルヴィアからの無垢な質問。

彼女には私を陥れるつもりも、

追い詰めるつもりもないだろう。

悪意などないことは分かり切っている。

他の人間が聞けば大した意味のないような

普通の質問に聞こえるだろうが、

私にとってはその限りではない。

つい先日、私は辛い想いをしたばかりなのだから。


「そうね…私はいつも通りよ。」


別に先日街であったことは関係なくとも、

私にはそう答えるしかない。

事実として、私は本家を出てからもずっと、

魔法を使えずにいるのだから。

そして、私のいつも通りという言葉が

何を指しているのか、

ルヴィアは遅れて気がついた。


「ご、ごめんなさいお姉様…!

私、そんなつもりじゃ……。」


「いいのよ謝らなくて。私の方こそごめんね。」


歳下に気を遣わせるなんて、

そんなことはあってはならない。

たとえ魔法が使えなくとも、

せめてそれ以外では姉らしくいたい。

あわあわと慌てるルヴィアの手を握り、

私は笑顔を浮かべた。

うまく笑えているか分からないが、

今はこれで納得してもらいたい。

それに、悪いのはいつまで経っても

魔法が使えない私なのだ。


「ルヴィアお嬢様。もうすぐ陽も落ちますが、

外では雪が降っております。

雪の中を馬車で行くのは危険ですので、

本日は泊まっていかれてはいかがですかな?」


そして空気を変えるように

ロアンが話題を提供してくれた。

話に夢中になっていて気づかなかったが、

もう時刻は夕方だ。

いつもなら完全に暗くなる前に

本家へと帰るルヴィアだが、

窓の外を見ると雪が降っていた。

それも視界が霞む程の大雪だ。

こんな雪の中を帰るのは危険だろう。


「…私もそうしたい気持ちなのですが、

明日は朝からリーゼ姉様の付き添いで

出かけなくてはならないのです。

ですから、遅くとも明け方までには帰らないと…。」


リーゼの付き添いということは、

お見合いかそれに準ずる何かだろうか。

大切な用事があるのなら、

無理にルヴィアを泊めることはできない。

しかし、だからと言って外の大雪の中を

帰すなんてことはもっとできない。

安全に彼女を本家の屋敷に帰すだけなら、

シャルルの魔法を使えばいい。

ちらりとシャルルの方を見ると、

私の視線に気づいてニコニコしていた。

だが、シャルルとサーの魔法のことは

ルヴィアにもリーゼにもお母様にも

今まで隠し通してきている。

二人の魔法はあまりに異質で、

しかも強大なものだからだ。

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